新型スズキ・アルト “傑作”と言い切って差し支えない軽自動車になった

スズキ・アルトHYBRID X 車両価格◎125万9500円
9代目へと進化したスズキ・アルト。1979年登場の初代「アルト47万円!」から続く、買いやすさはそのままに、さまざまな進化を遂げている。ジャーナリスト・世良耕太氏が試乗した。9代目アルトは、快作か傑作か?
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

方針転換してちょっと丸くなった……わけではない

ボディカラーはダスクブルーメタリック

アルトの変化は進化の証である。外側に切れ上がった四角いヘッドライトは先代(8代目)の面影を伝えているし、切れ上がったリヤのサイドウインドウも同様だ。ただ、9代目となった新型アルトは全体的に角がとれて(ヘッドライトもそうだ)、柔らかくなっている。でも、真の強さは失っていない。そんなイメージだ。

スズキがイチ押しする新色のダスクブルーメタリック(試乗&撮影車)を選ぶと、新型アルトが備える骨太なイメージが強調されるし、やはり新色のソフトベージュメタリックを選ぶと、柔らかいイメージが際立つ。硬軟をバランス良く合わせ持っているため、どっちに振っても似合うのが新型の特徴だ。

全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1525mm ホイールベース:2460mm
トレッド:F1295mm/R1300mm 最小回転半径:4.4m 最低地上高:150mm

「硬」か「軟」かでいえば、先代はとびっきり硬派だった。2014年に発売された8代目アルトは「原点回帰」をテーマにプラットフォームを一新。無駄を徹底的にそぎ落として軽量化し、シンプルを旨に作り込んだ。徹底的に軽量化を追求すると自然にそうなるように、先代アルトは結果としてスポーティになり、そのスポーティさを前面に打ち出すようなスタイリングでまとめられた。

その方向性が消費者に受け入れられなかったので方針転換してちょっと丸くなった……というわけではなく、進化して第2形態になったと理解するのが正しい。新型を開発するにあたり、スズキの開発陣はアルトのユーザーを訪ね、生の声を聞いて回った。「アルトは安くしておくのが一番なのかと仮説を立てていたのですが、意外とそれだけでもなかった」と、開発にあたった技術者は証言する。「安ければいいってもんでもない」という声を受け、歴代のアルトがたどってきた道を振り返りつつ、新型の方向性を固めていったという。

いっぽうで、「余計なものは要らない」「背の低いクルマがいい」「ワゴンRですら大きく感じる」という声もあったという。新型アルトは、エネチャージ仕様とハイブリッド仕様の二本立てで構成される。減速時のエネルギーをオルタネーターで回生(発電)してエンジンの負担を軽減する燃費向上技術「エネチャージ」搭載グレードは、「アルト47万円」で衝撃的なインパクトを残した初代から連綿と受け継ぐ、ベーシックであることの潔さと手頃な車両価格(94万3800円〜)をコンセプトとする。

無駄をそぎ落としたベーシックな装備であったり、低価格であったりすることがアルトの本質であると捉えがちだが、実は、アルトは先進的な技術やユニークな技術をいち早く取り入れてきた歴史がある。

「初代アルトはその後、エアコンをつけて49万8000円にしましたし、パワーステアリングをつけて55万5000円にしました。また、エアコンやラジオを標準装備にしたり、3代目ではスライドドアとか回転シートといった新しいことをやり、5代目ではリーンバーンエンジンを載せたりしました。安ければいいというわけではなくて、時代やお客様の要望に合わせて装備を入れてきたのが歴代アルトです」

形式:0.66ℓ直列3気筒DOHC+モーター 型式:R06D型 排気量:657cc ボア×ストローク:61.5×73.8mm 圧縮比:12.0 最高出力:49ps(36kW)/6500pm 最大トルク:58Nm/5000rpm 燃料:レギュラー 燃料タンク:27ℓ

時代に合わせて進化した姿を持つのが、HYBRID系(109万7800円〜)だ。発電機能を備えたモーターを使うことで、エネルギー回生を行なうだけでなく、加速時はエンジンをアシストする。エネチャージよりも燃費向上効果が高く、軽快な走り(とくに発進時)にも貢献する燃費向上技術だ。安全装備は時代に合わせて進化させており、夜間の歩行者も検知する衝突被害軽減ブレーキなどを含んだ「スズキ セーフティ サポート」と6エアバッグ(運転席、助手席、左右フロントシートサイド、左右カーテン)は全車に標準装備する。

トランスミッションはCVT ハイブリッドモーターは直流同期モーター(2.6ps/40Nm)バッテリーはリチウムイオン電池(5個 3Ah)

進化させるということは機能を付加することになるし、機能を付加すれば、重量増につながり、コスト増にもつながる。しかし、「アルトはお買い得」というイメージは崩したくない。では、何をしたかというと、「コストの作り込み」を徹底した。例えば、フロントには全方位モニター用のカメラが取り付けられるようになっているが、非装着車はカメラの代わりにキャップを装着する。そのキャップにはシボ(しわ模様)が付いている。キャップのサプライヤーがスズキの工場に納品する際、キャップを無造作に箱に入れるとシボに傷がついてしまうので、箱の中に枠を設けてきれいに詰めていた。

新型アルトではキャップのシボを変えることで、傷がつきにくいようにした。こうすることで、きれいに並べて入れる箱詰めの手間や、梱包に用いる枠のコストが節約できて、部品代そのものが下がる。そうした細かな作り込みをあちこちで行なうことで、機能は追加しているのに、追加したぶんだけそのまま高くはしていない。こうした取り組みに、クルマづくりに注ぎ込むスズキの“愛“が感じられる。

エンジンのスタート/ストップボタンはステアリングホイールの右横
室内長×幅×高さ:2015mm×1280mm×12670mm

エンジンのスタート/ストップボタンはステアリングホイールの右横にあるし、ハザードランプのスイッチはダッシュボード中央にあり、左手を降ろせばそこにはサイドブレーキのレバーがある。初めてアルトに乗る人にとっても、アルトからアルトに乗り換えた人にとっても、あるべきものがあるべき場所にあり、安心できるはずだ。

デニム調のシート表皮は見た目の印象も肌触りも良い

デニム調のシート表皮は見た目の印象も肌触りも良く、カジュアルな雰囲気を醸し出している。インパネやドアトリムに配したネイビーカラーと、シートバックのブラウンが、室内のカジュアルなムードを高めるいいアクセントになっている。身長184cmの筆者が運転席に座った状態で後席に移動して居住性を確かめたが、足元は外から想像するより余裕があったし、肩や頭上まわりに余裕があるのに驚いた。上屋を新設計した恩恵だ。後席座面は前席よりも高めの設定になっており(先代と同様)、前席の肩越しに視界が抜けるので適度な開放感がある。

身長183cmが前後に座ると後席の余裕はこのくらい。

ハイブリッド仕様の走りはどうか?

試乗したのは加速時にモーターのアシストがあるハイブリッド仕様(HYBRID X)だった。モーターのアシストによるキビキビ感をわかりやすく感じ取らせようという意図があるようだが、発進時の出足の鋭さは筆者にはちょっとばかり演出過多に感じられた。もう少し穏やかなほうが扱いやすい気がする。しかしいったん走り出してしまえば、静かで頼もしいドライブがつづく。

ダンロップ エナセーブEC300+
タイヤ:155/65R14
リヤサスペンションはトーションビームアクスル式
フロントはマクファーソンストラット式 ブレーキ:Fディスク/Rドラム式

荒れた路面では、脚がよく動いて路面の凹凸をいなしている様子が感じとれた。室内は平穏無事で、しっかりした四角い箱に守られている安心感がある。荒れた路面でも真っ直ぐ走ってくれるので、不安を感じることはない。先代アルトで導入した新しいプラットフォームをベースに骨格を強化し、剛性を向上させた効果が効いているのだろう。先代の13インチタイヤの指定空気圧は280kPaだったのに対し、新型の14インチは240kPaで、相対的に低くなった空気圧は、あたりの柔らかさに効いているようだ。

進化のために変化したアルトは、ベーシックな軽自動車という伝統を維持しながらも、味気ないわけでなく、外からクルマを眺めても、中に乗り込んでもワクワク感が味わえるし、乗って安心、快適なクルマに仕上がっている。傑作と言い切って差し支えない軽自動車だと思う。

スズキ・アルト HYBRID X
 全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1525mm
 ホイールベース:2460mm
 車重:710kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
 駆動方式:FF
 エンジン
 形式:0.66ℓ直列3気筒DOHC+モーター
 型式:R06D型
 排気量:657cc
 ボア×ストローク:61.5×73.8mm
 圧縮比:12.0
 最高出力:49ps(36kW)/6500pm
 最大トルク:58Nm/5000rpm
 燃料:レギュラー
 燃料タンク:27ℓ
 モーター:直流同期モーター(2.6ps/40Nm)
 トランスミッション:CVT
 WLTCモード燃費:27.7km/ℓ
  市街地モード24.0km/ℓ
  郊外モード29.2km/ℓ
  高速道路モード28.6km/ℓ
 車両本体価格:125万9500円

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…