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自動車三年予想(2)——「2020年」ではなく、その先はどうなるか 牧野茂雄の【深層レポート】in-depth reporting スーパーリーンバーンが鍵。熱効率50%超エンジンの登場はいつか? 最初に突破するのはトヨタかマツダSKYACTIV-Xか?

  • 2019/12/30
  • Motor Fan illustrated編集部
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SIP「革新的燃焼技術」プロジェクトで使われた可視化エンジンと記録用のカメラ。こうした実験器具や動画記録装置の進歩が、つぎつぎとエンジン内部に現象を「目に見えるもの」にしている。

3年後の自動車とその市場はどうなるか——3年は長いようで短い。いま開発が進められている新技術の市販車搭載は3年後では実現が難しい。試作も含めれば最短でも5年はかかる。一方で新しい制度・規制や法改正は、即決定即実施というケースもある。それと水面下で進められる企業のM&A(合併・買収)だ。過去の例が示すように、この案件は突然のように発表され実施される。『2020年はどうなる?』ではなく、もう少し長い3年後を予想してみる。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

その2■スーパーリーンバーンエンジン登場はまだ先か?

 2019年、日本では内閣府所管のSIP(戦略イノベーション創造プログラム)に設けられた「革新的燃焼技術」の成果が発表された。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの両方を「さらに進化させる」ため、全国の大学と自動車メーカーが初めて本格的に連携し、そこに政府予算も投入した産学官プロジェクトだった。研究成果は日本の自動車メーカーが共同で利用できる。

 この中で、ガソリンエンジンについては「熱効率50%超え」が目標になった。現在、もっとも効率のいい市販ガソリンエンジンは、ある限られた運転領域では熱効率40%を達成している。ガソリンの持つエネルギーのうち40%をエンジンの「仕事」として取り出せる。しかし、自動車メーカー各社のエンジン担当責任者諸氏は10年ほど前から「目標は効率50%だ」と言っていた。

 その50%という目標がラボ(研究施設)段階とは言え実現した。ターボチャージャーで過給し、通常よりも「燃料少・空気多」で「温度を上げない燃焼」をさせる。プラグ点火方法を工夫し、燃料はポート噴射し水をシリンダー内に直接噴射するという、いままでにない仕組みのエンジンである。

石油系の燃料はC(炭素)とH(水素)が連なった分子構造が主な成分だ。この連鎖を熱によって崩壊させ、O2(酸素)分子との間で化学反応を引き起こさせ、そのときの発生熱をピストン仕事に変換するのがレシプロエンジンである。必ずO2が必要なのだ。

 最大のポイントは、燃料1グラムと空気30グラムほどを混ぜる超希薄燃焼=スーパーリーンバーンである。通常、ガソリンエンジンはストイキオメトリック・ミクスチャー(stoichiometric mixture)、いわゆる理論空燃比で運転される。燃料1グラムに対し空気14.7グラムという比率だ。これをλ(ラムダ)=1と呼ぶ。理論空燃比での酸素量がλ=1。これより燃料が濃いとλ=0.99以下、燃料が薄いとλ=1.01以上である。0.01以下は無視して構わない。

 このλ=1を守ると、空気中に含まれる約21%の酸素分子(O2)を燃料中の水素原子(H)と炭素原子(C)がすべて使い切り、ガソリンが持つ最大限のエネルギーを発生しながら、同時にNOx(窒素酸化物)やCO(一酸化炭素)など余分な酸化物(酸素とくっついて出来る分子)の発生を抑えることができる。

 SIPではこうした常識的燃焼ではなく、理論空燃比の2倍以上、つまりλ=2以上という大幅な空気過剰状態で「少ない燃料を燃やす」スーパーリーンバーン技術に挑戦した。過去のリーンバーンは、たとえば三菱自動車が世界で初めて実用化したのGDIのように空気をλ=1よりも少しだけ多くする方法だったため、リーンバーンの効果は小さかった。シリンダー内に燃料の濃い層を作り、そこにプラグ点火して燃焼を発生させ、残った「燃料の薄い領域」へと燃焼火炎を伝播(でんぱ=伝えること)させるという方式が1990年代の三菱GDIだったが、ある限られた運転領域でしかリーンバーンにならなかった。

 しかし、各方面で重ねられた研究の結果、燃料が思い切り薄い混合気を使うと三菱GDIで最後まで解決できなかったNOxの発生を抑えられることが判明した。10年以上前からダイムラーやBMWは超希薄燃焼の可能性に注目していたが、それを燃焼の方法論も含めて確証を得ていたのは日本だった。SIPはスーパーリーンバーン技術を確立し、いま、これを市販エンジンの技術に落とし込む研究がポストSIPで始まっている。

マツダSKYACTIV-Xが採用するSPCCIの概念図

 一方、マツダのSKYACTIV-Xエンジンも超希薄燃焼を実現した。最大でλ=2.5程度、燃料1グラムに空気36グラムという超空気過剰状態で燃焼を行なう。マツダはSPCCI(スパークコントロールド・コンプレッション・イグニッション=点火プラグで制御する圧縮着火)と呼ぶが、これもスーパーリーンバーンである。

 マツダによると、運転状態は3つだという。ひとつはλ=1のストイキオメトリック・ミクスチャーでのプラグ点火火炎伝播燃焼。通常のガソリンエンジンでの燃焼である。2つめはEGR(エキゾースト・ガス・リサーキュレーション=排ガス再循環)を「しっかり」入れたλ=1のG/F(ジー・バイ・エフ=排ガスを含むトータル空気と燃料の比率)リーンSPCCI燃焼。EGR比率は最大35%程度というから、残る65%をλ=1で燃焼させられる燃料を入れれば全体ではリーン燃焼になる。

 3つめが最大でλ=2.5の超空気過剰燃焼によるSPCCIだ。この3つの切り替えは瞬時に行なわれる。λ=1からSPCCI、SPCCIからλ=1への切り替えは「徐々に」ではなくジャンプだと言う。相当に広い運転領域でスーパーリーンバーンを使っている。

 SIPの研究成果が実験エンジンになり、さまざまな検証を経て市販エンジンに落とし込める技術になるまでには、まだ5年はかかるだろう。筒内水噴射はすでにBMWがポート内水噴射として実用化しているが、筒内水噴射の例は世界にまだ存在しない。それと、SIPが使った特殊な点火プラグと点火制御システムも世の中には存在しない。

 熱効率50%のガソリンエンジンが2023年の時点で実現するというのは、おそらく無理だろう。早くて2025年と思われる。しかし、一昔前は単なる夢だった50%を射程距離内に引き寄せたのは大きな成果だ。日本がこれを成し遂げた。その結果、ふたたび内燃機関研究が世界中で活発になった。2020年代はエンジンがもっとも大きく進化する10年になることは間違いないだろう。

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