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カーボンニュートラルと自動車 | 原子力発電は「要る?」「要らない?」・前編

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エネルギー自給率: 資源エネルギー庁資料より。日本は資源もエネルギーも食料も自給率が低い。生活に必要なエネルギーと食料を得るためには外貨を稼がなくてはならない。豊かな生活のためにはあらゆる製品(ソフトウェアも含めて)を輸出しなければならない。同時に、東日本大震災までは原発のおかげで一次エネルギー輸入量が抑えられていたことがわかる。これが現実だ。

2011年3月11日に発生した巨大地震によって福島県にあった原子力発電所(以下原発)が被害を受けた。以降、日本国内の原発は安全性や立地の再点検および検証などが必要となり、商業発電はごく微々たる量にとどまっている。原発不在の穴を埋めるため火力発電が総動員されているが、電力の余裕はほとんどないに等しい。風力、太陽光といった再生可能エネルギー(再エネ)は一定の発電シェアを持つに至ったが、日本全体の電力需要を賄うにはまったく足りない。いっぽう海外では、原発の耐用年数延長が始まった。自動車のカーボンニュートラル化を考えるとき、原発問題は避けて通れない。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

日本のエネルギー自給率は、わずか12%

IEA(国際エネルギー機関)などのデータによると、日本の一次エネルギー自給率は約12%だ。自給率で世界のトップスリーはノルウェー、オーストラリア、カナダ。1位のノルウェー(EU=欧州連合には非加盟)は水力で国内電力のほとんどを賄えるため、産出される石油と天然ガスは輸出されている。余った電力も欧州の国際送電網を通じて輸出されている。2位のオーストラリアは石炭と天然ガスの輸出国である。この1位と2位は原発に頼る必要がない。

EU27か国の発電事情

EU27か国の発電事情 | Agora Energiewendeの資料。2020年は再生可能エネルギー=Renewablesが躍進し、化石燃料=Fossil fuelsを上回った。なかでも石炭(褐炭と泥炭を含む)=Coalの落ち込みが大きかった。ただし、このグラフは「比率」のみを表しており、2010年からの全体の発電量の推移は無視している。

3位のカナダも石油と天然ガスの輸出国だが、国内のエネルギー需要を満たすため原発も稼働させている。その隣のアメリカは一次エネルギー自給率98%程度であり、ほぼ国内で完結できる。一時期はシェールガス/シェールオイルでエネルギー輸出国になると言われたが、いまのところ自給自足路線にとどまっている。欧州では、イギリスが約70%ともっとも高い自給率であり、フランスは約55%、ドイツは約38%である。

ドイツのエネルギー系シンクタンクであるAgora Energiewende によると、2020年はEU27カ国合計での再エネ発電比率が38.2%に達し、初めて化石燃料系発電の比率を超えた。その内訳は風力が約37%。水力が約34%、太陽光が約15%、バイオマスが約14%であり、それ以外はほんの微々たるものである。毎年の統計発表では原子力についても触れられるのだが、なぜか2020年は原発だけ別扱いの資料になっていた。

もっとも、2020年のデータは自動車や航空機、電気設備など工業製品の生産活動が各国で一時的にストップしており、いわば「有事」である。例年のデータとの横比較はできない。イギリスがEUに加盟していた2019年までのデータでは、EU全体の電力消費は10年間で120TWh(1テラワットアワー=10億キロワットアワー)減少しているが、これは2010年を100とした場合に2019年が96であり、微減と呼ぶレベルである。

国ごとに見るとフランス、ドイツ、イタリアはここ10年間で平均的家庭の電力需要はわずかに増えている。1999年との対比では確実に増えた。以前は、たとえばドイツにしても日本のように家電製品に囲まれて暮らすという感じではなく、家庭用エアコンの普及率は1999年には2%程度だった。それが2018年には5%程度まで上昇した。

2019年までのEU発電事情

2019年までのEU発電事情 | イギリスがEUを脱退する前の状況。これと同じデータを、なぜかAgora Energiewendeは発表しなくなり、比率だけの公表にとどめている。さらに詳しいIEAの資料を検索しないと実態はわからなくなった。何かの意図だろうか。このグラフでもRenewables=再エネの比率上昇は見て取れるが、欧州ではGas=CNGが全体の電力調整を行なう役割を担っている。日本でいう石炭はHard coalであり、Lignite(褐炭=brown coal)はHard coalよりも環境負荷が大きい。EUは石炭発電への投資も凍結したが、欧州のLigniteには泥炭(peat)と瀝青炭(bituminouscoal)も含まれ、これは燃料価格が安い地産地消エネルギーのためHard coalほどは減っていない。EUが十把一絡げに「石炭火力」と言って攻撃してくるのを真に受けてはいけない。まあ、そこを「五十歩百歩だ」と考えるかどうかは人それぞれだが……。

また、ドイツでは個人住宅へのガス設備設置が事実上不可能になり、調理器具はすべて電熱式またはIHである。炊飯器や加湿器など、日本の家庭で使われる家電製品がドイツにはほとんどない。ヘアドライヤーやビューティ家電も日本ほどは普及していない。ちなみに乾電池の小売価格は、日本でいうホームセンターのようなところでも日本よりはるかに高い。

2019年のEU28カ国合計での原発比率は24.5%である。2010年は27.4%だったから、傾向としては減少である。天然ガス、泥炭、褐炭など化石燃料系は合計36.3%、再エネ系は34.6%だった。前述のように再エネ系では風力がもっとも比率が高い。高緯度地域であり、同時に晴天日比率が全体的に低いため、太陽光は使いにくい。その代わり偏西風のおかげで「風」という資源には恵まれている。

アメリカ・カリフォルニア州は晴天日比率が高い。太陽光パネルが過熱しないよう工夫すれば、太陽光発電には向いている。気温と湿度も発電総量に影響を与える。雨の少ないアメリカ西海岸の南側は太陽光発電には向いている、と言える。ただし、現状の変換効率20%程度の太陽光発電パネルを使いシステム効率85%と考えた場合、搭載電池容量40kWhのBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)に毎日30kWhを充電するとなると、180㎡(13m×14m程度)以上のパネルが必要になる。

風力については、欧州はもう発電風車の陸地への新規設置はほぼ不可能になりつつある。風車がもたらす極低周波の振動(音としては聞こえない)による健康被害や鳥類の衝突などで訴訟が多発し、敗訴が相次いだためだ。風力は海上設置が標準になった。幸いなのは、欧州大陸では台風が発生しないことだ。もし日本で海上風車を設置するとなると、クラスTと呼ばれる台風(連続的突風)対応型の風車が必須になる。

EUは今年4月、PHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)およびHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)について、「2026年にサスティナブル(持続可能な)投資の対象から除外する」ことを決めた。いわゆるESG(環境・社会・統治)投資の指標からICE(内燃エンジン)を除外するという決定だ。「より環境に配慮した投資」へと投資家を誘導することが狙いだと言う。

増えるEVを充電させられる発電能力はあるか?

2021年に入ってからの市場調査会社やシンクタンクの予測では、2030年時点でのEU域内でのBEVとPHEV(EUがECV=エレクトリカリー・チャージャブル・ビークルと呼んでいる外部充電で走るクルマのこと)の比率は合計42〜45%程度である。2030年時点では、ECVの保有台数は5000万台を超えると予想される。

EUの乗用車および車両重量3.5トン以下の商用バンの保有台数を3億台と仮定すれば(筆者が数字を集められなかった国が3カ国ある)、5000万台は相当なボリュームである。ただし、仮に5000万台の新車ECVが導入され4000万台の従来車が廃棄されたとしても、従来車は2億6000万台が残る。

いっぽう、5000万台のECVに毎日1台平均20kWhを充電するとなると、毎日1TWhの電力が消費される。これを365日続けると365TWhになり、2019年実績の電力消費量3222TWhに加えて350TWh(2019年時点でもECVは存在したことを考慮した数字)が追加で必要になる。

また、ECVが1台平均で27kWhのリチウムイオン蓄電池(以下LiB)を積むと仮定すると、5000万台では13.5億kWh、つまり1.35TWhになる。これを今後10年間(現存するECV保有台数を考慮した数字)で量産するとなると、年間1.35億TWh=1350GWh(ギガワットアワー)の生産能力が必要になる。現時点での正確な生産能力は統計がなく、推測するしかないが、おそらく全世界で年間100GWhに届いていないだろう。

AVL予測

AVL予測 | 2020年9月段階でのオーストリア・AVLの需要予測。自動車走行段階のCO2排出を現在より37.5%削減する規制の達成に向けては、このような需要動向になるという、ひとつの見通しである。欧州の市場調査会社やシンクタンクの予測をベースにしており、LiB製造やそのための資源調達なども考慮した現実路線である。2030年時点でもICE搭載車は全体の60%以上になるとの予測だ。

いま、欧州で稼働中あるいは建設が始まっているか稼働が間近に迫っているLiB工場は、合計で当面は年産60GWh程度の年産規模だ。建設計画は増えたが、稼働までには短くても3年はかかる。同時に、LiB製造企業をESG投資の対象にする(そうすれが資金調達しやすい)なら、工場で消費される電力はすべて再エネでなければならない。それだけの再エネ発電量を短期間に追加で確保しなければならない。

手っ取り早い方法は、LiB量産工場が揃っている中国と韓国からの輸入だ。現在のESG投資の基準では「原発OK」であり、中国が「この工場は原発からの電源で動いています」という証明書付きでLiBを輸出すればいい。中国では原発100基計画が動いており、30基程度の新設が計画あるいは着工されている。このCO2ゼロ電力を使わない手はない。同様に、欧州でも原発をフル稼働させる。そうすればLiB生産はESG投資の対象でいられる。

ただし、LiB生産を再エネと原発電力で補っても、毎日のECV運行のためにもCO2ゼロの電力が要る。その必要量が2030年時点では年間350TWhになる。これもCO2ゼロ電源にしなければならない。再エネ拡大では賄えないだろう。原発は必須だ。

以上は欧州だけの話。世界中で同じようなECV普及計画を進めると、LiB生産量は毎年3TWh程度が必要になる。ECVに充電するための電力も数千TWhになる。太陽光と風力だけでなく太陽熱や地熱、潮力などをすべて利用しても、果たしてECVを走らせるのに電力な電力を得られるだろうか。

どう計算しても原発抜きでは無理。筆者はそういう結論に達した。(つづく)

カーボンニュートラルと自動車 原子力発電は「要る?」「要らない?」後編

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