【海外技術情報】独フラウンホーファー研究機構:ポルシェが採用予定。電気自動車の航続距離を伸ばすパワーインバーターを開発
- 2021/05/31
- 川島礼二郎

電気自動車の航続距離を長くする……それに貢献するのは無論バッテリーだけではない。パワートレイン全体を改善する必要がある。それを実現するため、ヨーロッパ最大の応用研究機関であるドイツのフラウンホーファー研究機構の研究チームでは、バッテリーとモーターとの間のエネルギーを現在よりも遥かに効率的に変換する、いわゆるパワーインバーターと呼ばれる電子制御ユニットを開発している。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)
電気自動車の航続距離について考えるとき、多くの人はバッテリーを思い浮かべることだろう。バッテリーが蓄えることができるエネルギーが多いほど、電気自動車はより遠くまで走ることができる。ただしバッテリーが全てではない。ドライブトレインも極めて重要な役割を果たしている。
そこでベルリンのフラウンホーファー信頼性マイクロ統合研究所の専門家は、パワーインバーターを開発している。この装置は、バッテリーからの直流を、電気モーターを駆動する交流に変換する。バッテリーとモーターの中間に位置するため、パワーインバーターとそのトランジスターには大電流が流れる。これがトースターのように熱くなるのを防ぐため、冷却要素を介して熱を放出する必要がある。
航続距離を最大6%伸ばす
このプロジェクトでは、フラウンホーファーとその産業パートナーの専門家が、電流が流れるときに消費電力が少ない炭化ケイ素(SiC)半導体を使用してトランジスターを製造している。ただし、これらの半導体は比較的高価である。したがって、トランジスターの数を最小限にすることが求められる。しかし、それぞれがより多くの電力を消費し、より激しく加熱するため、十分に冷却する必要がある。そこで重要になるのが、パワーインバーターの冷却要素である。同じ消費率を維持しながらも、半導体をより低温に保つ必要がある。
特に車両が高速で加速、制動、あるいは走行しているとき、モーター、パワーインバーター、それにバッテリーの間を、大電流が行き来する。そのためインバーターから電力が失われてしまう。SiC半導体はこれらの損失を減らすことができる。プロジェクト責任者のEugen Erhardt氏は、ドライブトレインを最適化することで、電気自動車の航続距離を最終的に最大6%延長することが期待できると述べている。
3Dプリンターの使用と形状が鍵
電気自動車用パワーインバーターは水冷方式を採用している。フィンと呼ばれる冷却ダクトがあり、このフィンが水に突き出ており、熱を放散する。SiCトランジスターを冷却するために、専門家は3Dプリンターにより薄い壁の冷却要素を作成した。トランジスターは、わずか数mmの厚さの金属板上に配置される。その結果、トランジスターが冷却水により近づき、冷却効果が高まる。薄い金属板が荷重を受けて変形するのを防ぐために、冷却フィンはドームの柱のように金属板を支える形状として、3Dプリンターで出力されている。
パワーモジュールは多様な機能を保持するため、様々な素材で構成されている。それが問題を引き起こす。加熱すると、異なる材料がバラバラの速度で膨張するため、構造の一部に応力が発生する。これによりパワーインバーターに亀裂が生じて故障する可能性がある。
新しい冷却要素はこの問題も解決できる。金属板が極めて薄いので、わずかに変形することで加熱または冷却時に発生する応力を補うことができる。その結果、構造全体が非常に柔軟になる。これは高価なSiC半導体を節約し、耐用年数を延ばすことになる。
ひび割れを防ぐのは、撚り線で柔軟な銅線
最後に、パワーインバーターモジュールに加わるストレスを軽減する、もう一つの要素を紹介しておこう。冷却要素とSiCトランジスターを含む構造体は、撚り線で柔軟な細い銅線によって電子システムの他の部品と繋がれている。
この新しいパワーインバーターは、プロジェクトパートナーであるロバートボッシュで今後数ヶ月間にわたりテストされるその後、ポルシェが、SiC構造に正確に一致する新設計のドライブトレインにデバイスをインストールする予定である。
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