
4月からは、カケザンを加速させる施設として「Woven City Inventor Garage(ウーブンシティ・インベンターガレージ)」が稼動を開始。トヨタ自動車東日本・東富士工場(静岡県裾野市)のプレス建屋をリノベーションした施設で、プロダクトやサービスの開発拠点として機能する。4月22日にはそのインベンターガレージを舞台に「KAKEZAN 2026」と題し、WbyTが開発するテクノロジーやインベンターズの実証プロジェクト、WbyTのビジョンを紹介するメディア向けのイベントが催された。

ここではWbyTが開発するテクノロジーについて見ていくことにしよう。

Woven City AI Vision Engine
映像解析のためのマルチモーダル大規模基盤AI

ウーブンシティでは「未来の当たり前」となるプロダクトやサービスの開発・実証に取り組んでいる。その中核を担うのがAI技術だ。ウーブンシティではAI技術を人の代替と捉えるのではなく、人の力を引き出し、可能性を拡げるものと考えており、この「ヒト中心」の思想のもと、AI技術の開発・実証を進めている。
Woven City AI Vision Engineは開発・実証を進めているAI技術のひとつ。ひと言で説明すれば、「カメラの映像から人、モノ、モビリティの行動を理解するAI」で、VLM(Vision Language Model)により、映像の内容を理解して言語化してくれる。さらに、映像の内容から、なぜその現象が発生したのか理由を理解し、次の行動の提案までしてくれる。



例えば、交差点のカメラ映像を分析することで、クルマ側から死角にいる歩行者の存在や潜在的な危険を検知することができる。ウーブンシティ内の交差点に設置したカメラの映像を利用した事例では、映像から「歩行者が横断歩道を渡っています」と状況を理解し言語化。さらに「歩行者は横断歩道の近くにあり、車道に入ることもあるため、衝突事故に注意して運転する必要があります」と推論を提示し、「横断歩道付近の歩行者に気をつけて」と行動の提案を行なう。インフラとクルマを協調させることで、メーター表示や音でドライバーの注意を喚起することが可能だ。
AI Vision Engineのソリューションパッケージは、空間の映像を単に記録するのではなく、「空間で何が起きているかをAIが理解し、対話・推理可能なデータにする」共通基盤を備えているのが特徴。そのため、交通環境以外の場所、例えば駅やデパート、オフィスなどの公共空間で活用することができる。
何が起きているのかをAIが理解し言語化してくれるので、空間の使われ方や、何が起きているかを瞬時に把握することが可能。欲しい情報を検索することも可能で、「スーツケースを持っている男性」「ピンクの服を着ている女性」といったワードを入れると、該当する映像が出てくる仕組み。異常な行動を検知した際はアラートを出すこともできるし、売り場での人の流れを把握することで空間レイアウトの変更に生かすといった使い方もできる。
インフラのカメラと連携させクラウドで計算することもできるし、エッジデバイスで成立させることも可能。AI Vision Engineはユーザーケースに合わせて対応できるとしている。すでに販売中なので、気になる向きはaws marketplaceで「Woven City AI Vision Engine」を検索するといいだろう。
Woven City Integrated ANZEN System
人・モビリティ技術・インフラを連携する

Woven City AI Vision Engineは、個人の行動特性の分析に強みを持つWoven City Behavior AI、ドライバーの状態に応じて適切な運転行動を導くWoven City Drive Sync Assistといった他の技術と連携し、Woven City Integrated ANZEN Systemに活用されている。「カケザン2026」ではシミュレーターを用い、「少し先の道路状況とドライバーの状態を踏まえながら、AIエージェントがどのように振る舞うか」を示すデモンストレーションが行なわれていた。

スクリーンには認知負荷(Cognitive Load)が棒グラフで表示されている。この認知負荷は、カメラの映像から判断したドライバーの負荷(Fatigue)と道路の難しさ(Road Difficulty)を足して構成。高速道路の本線に合流するような神経を使うシチュエーションでは認知負荷が高まる。これが一定のレベルを超えると予測される場合は、AIエージェントはドライバーへの話しかけを行なわず、負荷が低くなるのを待って発話する。対話中であれば発話を一旦中断し、負荷が低くなったところで再開する。
一例を示したが、Woven City Integrated ANZEN Systemは人、モビリティ技術、インフラが互いに連係し、街全体で安全と安心を実現するための社会インフラの役割を果たす。このシステムを実装することで社会全体の安全性を向上させるのが狙いだ。
Woven City Robot Platform
ロボットに関する技術開発を加速するためのプラットフォーム

Woven City Robot Platformはロボットに関するサービスや技術開発を加速するためのプラットフォームだ。実際、Phase 1(フェーズ1)と呼ぶエリアの住居棟ではDelivery Robot(デリバリーロボット)が各住居まで荷物を搬送しているし、トヨタ自動車東日本は自律走行ロボット「cocomo(ココモ)」の技術検証を行なっている。

ここでもAIを使った開発が行なわれている。フィジカルAIを活用したロボットの開発だ。従来のロボットは決められた動きを繰り返すだけだが、フィジカルAI技術を使うと、ロボットは状況に合わせて自律的に判断できるようになる。カケザン2026のブースでは、ロボットにスプーンやフォークなど食器の扱い方を教えるデモンストレーションが行なわれていた。
アームの手首の部分にカメラが付いており、教えられた動きの際の各関節の動きからAIは学習。教えられたときとスプーンの形状が変わっても、AIが自ら推測し、適切な持ち方でスプーン(あるいはコップなど)をつかむようになる。
「ここでは食器を扱うデモンストレーションを行なっていますが、服を畳む動きも試しています」と説明員。「AIでできることは増えているのですが、どのタスクをロボットがやれば本当にうれしいのか、そこが問題。その検証を行なうためにウーブンシティを活用したいと考えています。実際に住んでいる方がいるので、『このタスク、うれしいですか?』という検証をクイックにやりながら、いいアプリケーションを見つけたいと考えています」
AD/ADAS
実世界から学び進化する自動運転

WbyTではAIとアクティブラーニングを組み合わせ、先進運転支援技術および自動運転技術の開発を行なっている。現地の説明員は、以下のように具体例を挙げた。
「実際にお客さまが遭遇したヒヤッとするシーンをトリガーに、そのシーンのデータをクラウドに上げ、そういったシーンに対応できるようAIを再学習し、評価して、OTA(無線通信を通じてデータの送受信やソフトウェアのアップデートを行なう技術)でお客さまのクルマに配信する。そのループを効率的に回していくことにより、AD/ADASの技術をどんどん成長させていく開発です」

ヒヤッとするシーンとは例えば、強くブレーキを踏んだり、急にハンドルを切ったりしたシーンである。こうしたシーンでは潜在的に危険が伴う可能性がある。そうしたシーンを抽出してデータを吸い上げるわけだ。吸い上げたデータでAIの再学習を行ない、評価して確認し、OTAでアップデートしていく。このサイクルを効率的に回していくことにより、自動運転技術をスピーディに成長させていく考えだ。
「もうひとつ我々が重要視しているのは、ヒューマンセントリック(ヒト中心)です」と、説明員は話を続ける。「自動運転はなめらかな動きでないとお客様に使っていただけない。熟練ドライバーとも連携しながら、自動運転システムがどのように振る舞うのが適切かを解析し、開発に生かしています。また規模も非常に重要。トヨタ自動車は毎年1000万台という膨大なクルマを世の中に展開しています。すべてのお客様に対して高い価値を提供するためには、比較的廉価なクルマに対しても高い価値を提供する必要があります。そういったことも考慮しながらアーキテクチャーの最適化を図っています」
Arene(アリーン)
アリーンは単なるビークルOSではない

Arene(アリーン)は統合ソフトウェア開発プラットフォームである。2025年5月に世界初公開され、同年12月に国内で発売された新型RAV4に一部適用されている。現地の説明員は「アリーンはソフトウェア開発者のみなさんのための、統合ソフトウェア開発プラットフォーム」と説明する。
「簡単に説明すると、ソフトウェア開発者のみなさんはアリーン上でソフトを開発し、そのソフトを評価して量産に展開する。開発から量産まで一気通貫でサポートさせていただけるプラットフォームになっています。ソフトウェア開発者はソフトが完成するとクラウド上のアリーンにつないでいただき、クラウド上にある仮想環境および仮想車両を用いていち早くテストしていただくことが可能になります」
いわゆるSILS(Software in the Loop Simulation)である。カケザン2026のブースでは、パソコンからクラウドの仮想環境につなぎプリクラッシュセーフティ(PCS)システムのテストを行なう様子を見せていた。物理的な車両がない状態でもソフトウェアのソースコードを変えていち早く試験が行なえるのがSILSの利点だ。

SILSの次に、実際のECUやセンサーを使ったHILS(Hardware in the Loop Simulation)に移行し、最終的には実車をシミュレーション環境に持ち込むVILS(Vehicle in the Loop Simulation)を行なって検証する。「会社の中で部署ごとに異なるxILSを使っていたり、グループ会社間でも違うものを使っていたりするので、いかに開発環境をシームレスにつなぐかがポイントだと考えています」とのこと。
ソフトウェアが肥大化・複雑化して開発の後期に不具合がたくさん出る傾向なのが悩みの種。開発の初期段階で効率的に評価を行なうことで開発期間を短くし、コストを抑えるのがアリーンを展開する狙いだ。
Woven City xEV-VPP
クルマをエネルギー源に。駐車場を新たに社会インフラに

Woven City xEV-VPPは、電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などxEV(電動車)が搭載するバッテリーをエネルギー源として活用するシステム。VPPはVirtual Power Plant(仮想発電所)の意。xEV1台あたりのバッテリー電力量や出力は小さいが、束ねることで産業用蓄電池を置き換えられるだけの力と価値を生む。
太陽光など再生可能エネルギーで発電した電力は、発電したタイミングですべて使われるとは限らず、余る場合がある。その余った電力を一時的に蓄えるのに産業用蓄電池が考えられるが、コストは高く、場所は取るしで普及が進んでいるとは言えない。
そこでxEV-VPPの出番というわけだ。太陽光で発電した電気が余っている状況ではVPPのxEVに充電。電力が足りない場合は、xEVから系統に給電して施設や街のインフラを支える。この仕組みにより社会にとってより良いエネルギーの活用が可能になるし、エネルギーコストと温室効果ガスの削減に貢献する。

ウーブンシティではBEVのトヨタbZ4Xを使い、50台規模で実証実験を行なっている。ウィーバーズと呼ぶ住人のプライベートなクルマではなく、ウーブンシティが管理する車両で、用途は通勤、社有車、シェアカーとさまざま。バラエティに富んだ用途に振り分けることで、よりリアルなデータを収集する狙い。また、ウーブンシティ全体のエネルギーデータだけでなく住戸1軒1軒のデータを管理し、そのデータを生かすことで、エネルギーの最適な運用法を探っている。
「将来的には、この仕組みをウーブンシティの外、工場だったり商業施設だったり、クルマが多く集まる場所に広げていきたいと考えています」(説明員)
Woven City Digital KAIZEN Platform
実世界導入前にデジタル上で検証する環境を提供する

トヨタには現場の作業者が中心となり、知恵を出し合って「ムリ・ムダ・ムラ」をなくして効率や質を高める「カイゼン」活動が根付いている。現実世界の環境をデジタル空間上にリアルタイムで再現するデジタルツイン技術を用いてカイゼンをデジタル化し、それをプラットフォームとして提供しようというのが、Digital KAIZEN Platformの取り組みだ。

例えば工場に導入する場合、カメラやセンサーによって取得した作業者の動きをデジタル化し、シミュレーション技術を使って最適なオペレーションを探索。現場での検証を繰り返して最適化を図っていく流れだ。
ウーブンシティには複数ある住居棟をつなぐ地下通路があり、そこをゴミ収集車が回ることでゴミを収集している。従来は行き当たりばったりで収集していたので、ゴミが溜まっていないところに立ち寄ることもあったという。ゴミの溜まり具合が可視化できると、溜まっているところだけを回るルートを選択することで移動のコストが下げられるし、作業の効率が上がる。現在は可視化された情報をもとに人がルートを決めているが、将来的にはAIを活用してシステムがルート選定まで行なうようにしたいという。
Woven City Data Fabric
プライバシーを守りながらデータを活用するために

Woven City Data Fabricは、個人情報を安全かつ柔軟に管理するための仕組み。プライバシーを守りながらデータを活用するための基盤技術である。Weavers(ウィーバーズ)と呼ばれるウーブンシティの住人は、入居に際し、どの個人情報を提供するのか自身で選択する。自分の個人情報を積極的に共有することで、よりパーソナライズされたサービスを受けることができるし、交通状況改善のために一部の匿名化したデータだけを提供することも可能。また、完全に匿名化して個人のプライバシーを尊重することもできる。


個人情報は必要なときに必要なぶんだけ必要な相手に提供することも可能だし、状況に応じて提供/匿名化の切り替えが可能。より柔軟に対応することで、安全・安心に暮らせるよう取り組んでいる。
Woven City Infra Hub
デジタル統合プラットフォーム

Woven City Infra Hubは、家庭内のスマートデバイスから、クルマやロボットなどのモビリティ、街なかに点在するインフラまで、街のさまざまなデータを集め、その連係を可能にする統合プラットフォーム。さまざまな情報をひとつにまとめ、街全体をひとつのシステムとして機能させる。個別の仕組みを後から組み合わせるのではなく、初めから連係を前提に設計することにより、異なるメーカーや規格の違いを超えて、データをつなぐことが可能になる。これより、あらゆるものがスムーズに連携するというわけだ。
ウーブンシティで「本当に実現可能なのか?」「投資に見合う効果があるのか」など、どんなPoC(Proof of Concept:概念実証)を行なうにしても、データの連係が不可欠だ。例えば、あるインベンターが実証実験を行なうのに信号のデータが欲しいとなったとき、インベンターが個別に信号機のメーカーとやり取りしたのでは非効率。そこでウーブンシティが一括して情報の窓口として機能しようというわけ。
モビリティの分野ではモビリティとインフラの連係がすでに適用されており、次世代モビリティのe-Paletteが信号に近づくと、車両と信号が通信を行なうことで信号が変わり、車両側は停止することなく信号を通過できる仕組み。ウィーバーズは顔認証で家の鍵を開けることができるし、照明や空調、給湯器はダッシュボードをタッチすることで操作することが可能。施設やレストランの予約はスマホのアプリで行なうことができる。
インベンターズのひとつであるダイキンはインフラハブを利用してデータを取得し、花粉レス空間を生み出す空調・換気システムの社会実装を目指し、住居棟で実証実験を行なっている。
トヨタの“工場”は終わらない――ウーブン・シティ「Inventor Garage」が示す進化するモノづくり | Motor Fan|自動車情報のモーターファン
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