KTM 990RC R……2,199,000円

990RC Rの外装部品には、MotoGPレーサーRC16で培ったエアロダイナミクスの技術が活かされている。フロントカウルの左右にはウイングレット、アンダーカウルの前端と後端にはディフューザーを設置。カラーはオレンジとブラックの2種。

素性の説明が難しいバイク

KTMが2026年から発売を開始した990RC Rは、素性の説明が難しいバイクである。

まず947ccという排気量は、ミドルクラスなのか、リッタークラスなのかで意見が分かれそうだが、エンジンが並列2気筒で、最高出力が127.8psで(近年のリッタースーパーバイクのエンジンは並列/V型4気筒で、多くの車両が200ps以上をマーク)、同社がこのバイクでのワールドスーパースポーツ選手権参戦を視野に入れているとう事実を考えると、分類としてはミドルクラスになるだろう。

ちなみに、排気量と気筒数に関する規定が大幅刷新された近年のワールドスーパースポーツ選手権では、ヤマハYZF-R9、ドゥカティ・パニガーレV2、ZX MOTO・820RR-RS、トライアンフ・ストリートトリプル765RSなどが上位争いを繰り広げていて、おそらく現実の市場でも、それらが990RC Rのライバルになるはずだ。

2021年に限定販売が行われたRC8C。クロモリ素材のフレームはトリレス構造で、ガソリンタンクはシート下に設置。並列2気筒エンジンの排気量は899ccで、最高出力は135ps/11000rpm。

そして990RC Rのルックスは、KTMが2021年に限定販売したサーキット専用車のRC8Cとよく似ているのだけれど、細部を見ていくと、990RC RはRC8Cのストリート仕様ではなく、2024年から発売されている990デュークの大改革仕様と言うべき構成なのである。

990RC Rのクロモリフレームは、既存の990デュークの発展型となるダイヤモンドタイプで、ガソリンタンクはエンジン上部に配置。排気量は947cc。

ただし、KTMは990RC Rと同時期に990デュークの上級仕様となるRを開発していて、この2台は各部を刷新したエンジン+シャシーや電子デバスの基本を共有しているようなので、990RC Rは990デュークRのスーパースポーツ仕様という見方もできなくはない。

そんなわけだから、試乗前の僕は990RC Rをどんな切り口で語るべきかで迷っていたものの、このバイクでいろいろな場面をじっくり走り込んだ後は、ストリートが楽しめるスーパースポーツとしての出来の良さに感心し、その一方で素性はほとんど気にならなくなっていた。

乗れている感が味わいやすい?

近年になって登場したミドルスーパースポーツは、サーキットでの運動性能を追求しながら、ストリートにも適した汎用性を備えるのが通例になっている。具体的な話をすると、ライディングポジションは極端にレーシーではなく、前後サスは常用域でもスムーズに動き、エンジンは低中回転域だけを使ってもあまりストレスが溜まらない。

そしてルックスはスパルタンで、空吹かしでの排気音は勇ましいのだが、990RC Rの汎用性は現代のミドルスーパースポーツの基準にしっかり達していた。

ではこのバイクの本領発揮の舞台、ワインディングロードの運動性能はどうかと言うと、直接的なライバルのYZF-R9やパニガーレV2、さらにはリッタースーパーバイクよりも、スロットルが開けやすく、乗れている感が味わいやすいかも?……という印象を僕は抱いた。

2018年型790デュークに端を発するLC8cは、近年はパラレルツインの歴代最高出力を更新中。既存の990デュークが123psだったのに対して、細部の見直しを図った990RC Rは127.8psを発揮。

その一番の原因は、エンジンが高回転高出力指向ではなく、低中回転域から十分なパワーを発揮することかもしれないが(最高出力は127.8ps/9500rpmで、最大トルクは10.5kgf-m/6750rpm。なおYZF-R9は120ps/10000rpm・9.5kgf-m/7000rpmで、パニガーレV2は120ps/10750rpm・9.5kgf-m/8250rpm)、このバイクはシャシーの安定感が特筆モノだから、スロットル操作を躊躇するような場面になかなか遭遇しないのだ。

そして安定感に貢献する要素として、僕が興味を惹かれたのは、近年のリッタースーパースポーツの平均値より長い1481mmの軸間距離と(YZF-R9は1420mmで、パニガーレV2は1465mm)、MotoGPレーサーの技術を転用したウイングレット。

と言っても、ウイングレットは超高速域で真価を発揮するパーツだが、フロントカウル前面の左右への張り出しは、常識的な速度でコーナリングする際の落ち着きにも貢献しているように思う。

強烈な主張を感じるウイングレットは、252km/hで14.4kgのダウンフォースを発揮。

また、必要にして十分な剛性を備えながらも硬さを感じないフレーム+スイングアーム、黒子としてライダーを支援してくれる多種多様な電子デバイス、動きが上質で守備範囲が広いWP製前後ショックなども、安定感には寄与しているに違いない。

いずれにしても、シャシーが盤石の安定感を備えているからこそ、このバイクはワインディングロードを開け開け気分で楽しめるのだ。

約10年のブランクを感じない

そんなわけで、990RC Rの乗り味に大いに感心した僕だが、実は試乗前はそこはかとない不安を感じていた。と言うのも、前述のRC8Cは存在したけれど、KTMが保安部品付きでミドル以上のスーパースポーツを販売するのは、2010年代中盤に生産が終了したRC8R以来、約10年ぶりなのである。

とはいえここまでに記した通り、990RC Rは市場でライバルになるYZF-R9やパニガーレV2だけではなく、場面によってはリッタースーパーバイクと互角に戦える動力性能を備えていたのだ。

2008年~2010年代中盤にKTMが販売したRC8/Rは、スーパーバイクレースへの参戦を前提にして生まれたモデル。鋼管トレリスフレームに75度Vツインを搭載。

まあでも、改めて考えれば、それは当然のことなのだろう。

保安部品付きでミドル以上のスーパースポーツが約10年ぶりと言っても、近年のKTMはMotoGP各クラスで好成績を収めているし(2017年からフルエントリーを開始した最高峰クラスでは、これまでに7勝を挙げている)、2014年以降はアンダー400ccの世界でスーパースポーツのRCシリーズを展開していたのだから。

多彩な電子デバイスを標準装備する990RC Rだが、近年のスーパースポーツでマストになりつつあるクイックシフターは、なぜかオプション設定。クイックシフターの単体価格は約6万円で、クイックシフターを含めた各種電子デバイスのバージョンアップを図るテックパックは約18万円。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

乗車姿勢は適度にレーシーだが、上半身の前傾はそんなに強くはなく、下半身の膝と足首の曲がりは意外に緩やかなので、その気になれば市街地走行やツーリングにも使えそう? もっともそういう用途をメインとするなら、基本設計の多くを共有する990デュークRを選んだほうがいいだろう。845mmというシート高は、現代のミドル/リッタースーパースポーツの基準で考えるとやや高めだが、オプションのローダウンスプリングキットを導入すれば820mmに下げることが可能。

ディティール解説

近年のMotoGPレーサーの流儀に倣ったのか、セパレートハンドルは絞り角が少なめ。バブルタイプのスクリーンは上半身を伏せなくても、なかなかの防風効果を発揮してくれる。
横長にして巨大な8インチTFTフルカラーディスプレイは、視認性が非常に良好。エンジン特性に加えてABSやトラコンの利き方が変化するライドモードは、スポーツ/ストリート/レイン+カスタムの4種類で、オプションのソフトを導入すれば、トラックモードの使用が可能になる。
スイッチボックスには数多くのボタン・レバーが備わるが。操作で迷うことはほとんど無かった。左側上部に備わるクルーズコントロール用のボタンは、オプションのソフトを導入しないと機能しない。
メインシートはスーパースポーツの一般的な形状だが、タンデムシートはかなり個性的。ザラついた雰囲気のシートレザーはKTMならでは。
タンデムシート下の収納スペースはごくわずか。とはいえ、ETCユニットの収納は可能。
近年のミドル以上のパラレルツインは270度のクランク位相角が定番になっているけれど、KTMがLC8cと命名したパラレルツインは、自社の旗艦が搭載する75度Vツインと同様のフィーリングを実現するため、285度位相クランクを採用。
スングアームピボット後部の下に設定した膨張室で十分な消音を実現しているため、アップタイプのサイレンサーはかなりコンパクト。排出口にはMotoGPレーサーを思わせるメッシュを設置。
ブレーキパーツはブレンボで統一。ラジアルマウント・対向式4ピストンのフロントキャリパーは同社の新作となるハイピュアで、ディスクのサイズはφ320mm。
リアブレーキはφ240mmディスク+片押し式1ピストンキャリパー。往年のカットスリックを思わせるタイヤは、サーキット性能を重視したミシュラン・パワーカップ。
フルアジャスタブル式の前後ショックはWP。フロントフォークはφ48mm倒立式で、リアサスには同社のパラレルツインシリーズでは初のリンク機構を導入。

主要諸元

車名:990RC R 
全長×全幅×全高:─mm×─mm×─mm 
軸間距離:1481mm 
最低地上高:163mm 
シート高:845mm 
キャスター/トレール:24.2°/98.5mm 
車両重量:195kg 
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒 
弁形式:DOHC4バルブ 
総排気量:947cc 
内径×行程:92.5mm×70.4mm 
圧縮比:13.5 
最高出力:94kW(127.8ps)/9500rpm 
最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/6750rpm 
始動方式:セルフスターター 
点火方式:フルトランジスタ 
潤滑方式:セミドライサンプ 
燃料供給方式:フューエルインジェクション 
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン 
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング 
フレーム形式:ダイヤモンド 
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ48mm 
懸架方式後:リンク式モノショック 
タイヤサイズ前:120/70ZR17 
タイヤサイズ後:180/55ZR17 
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク 
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク 
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン 
燃料タンク容量:15.7L 
乗車定員:2名