排出ガス規制の強化によって、公道を走れる2ストローク・ロードスポーツが姿を消してから四半世紀あまり。その常識を根本から覆そうとするメーカーがイタリアに存在する。フェラーリで経験を積んだ技術者たちが、エンジンから車体までを独自開発した「VINS Duecinquanta(ヴィンス・ドゥエチンクアンタ)」だ。249.5ccの水冷2ストロークV型2気筒エンジン、カーボンモノコック、独創的な前後サスペンションを備えたこのマシンは、往年のレーサーレプリカを再現したものではない。技術力で厳しい排ガス規制をクリアして登場してきた新しい2ストローク・スポーツバイクである。
フェラーリの街で生まれた、小さなモーターサイクルメーカー
筆者ライターのゴトーがVINS Duecinquantaを初めて知ったのは、プロトタイプがEICMAで発表されたときだった。当時、筆者は2ストローク専門誌を制作しており、その姿に大きな衝撃を受けた。ヨーロッパでは2ストロークを愛する技術者が多く、SuterやRonaxのようなレーシングマシンが誕生していたほか、個人で車体からエンジンまでをフルスクラッチするビルダーも少なくない。
最初はVINSも、そうしたマシンの一台だと思っていた。ところが目標は、排出ガス規制をクリアした公道用モデルとして市販することだった。もし実現すれば、2ストロークを取り巻く常識を覆す大きな出来事になる。ただ、当時は公開情報が少なく、VINSは長らく謎に包まれた存在だった。その後、本国イタリアをはじめ海外メディアから少しずつ情報が伝わり、今回ついにモータリストの手によって車両が日本へ上陸した。筆者にとって長年ベールに包まれていたDuecinquantaの全容が、ようやく明らかになったのである。
VINSは、フェラーリの本拠地として知られるイタリア・マラネロに拠点を置くモーターサイクルメーカーである。中心人物であるヴィンチェンツォ・マッティアをはじめ、創業メンバーの多くはフェラーリをはじめとする自動車分野で、設計、解析、コンポジット成形、エンジン開発などに携わってきた技術者だった。
ヴィンチェンツォの頭の中にオリジナルバイクの構想が生まれたのは2014年頃。2015年には自作エンジンを搭載した「Powerlight 140cc」のプロトタイプをEICMAで公開し、翌2016年にはイタリアのモーターサイクル・ブランド・コンテストでイノベーション&デザイン賞を獲得した。
2017年にVINSを正式に設立し、同年のEICMAで後のDuecinquantaにつながる250ccモデルのプロトタイプを公開。筆者がVINSを知ったのも、このタイミングだった。2018年には市販に向けて仕様を熟成させ、2019年には公道仕様のDuecinquanta Stradaが英国の認証を取得している。
今回試乗したのは、量産試作車に近い位置づけの車両で、今後販売される量産仕様とは一部が異なる。さまざまなライダーから得た評価をイタリア本社へ送り、最終段階にある量産仕様へ反映することも、この試乗車が用意された目的のひとつだ。
なお、エンジンと車体、前後足回りについては、下記の記事で詳しく解説しているので参照していただきたい。
カーボンモノコックにホサック式サス VINS Duecinquantaの常識を覆す車体設計
83HPを絞り出す249.5ccの2ストVツイン VINSが作り上げたエンジンの技術とは

幅の狭い2軸Vツインエンジンを搭載していることに加え、空気の流れを考えてボディ内部に収められたラジエターがコンパクトということもあって車体は非常にコンパクトかつスリムになっている。
レーサー125の軽さとレーシング250エンジンのパワー
跨ってまず驚かされたのは、車体のコンパクトさと圧倒的な軽さだった。これまで乗ってきた250ccクラスと同じ感覚で車体を引き起こすと、大げさに言えば自転車に近いのではないかと思うほど軽い。押し引きした際の転がり抵抗の少なさにいたっては感動的なレベル。エンジンを止めたまま、跨った状態で車体を移動させたところ、同行者が後ろから押しているのかと思ったほど、スルリと動くのである。車体寸法は125ccレーサーほど小さくないものの、一般的な250ccスポーツより明らかにスリムだ。2軸クランクを採用したエンジン自体の幅が狭いことに加え、モノコック構造のため太いフレームが左右へ張り出していないない。さらに、小型ラジエーターをモノコック内部へ収めたパッケージングも、この細身の車体に貢献しているのだろう。
メインスイッチを入れ、電動燃料ポンプの作動音を確認してからセルボタンを押す。力強いクランキング音とともにエンジンが始動した。同時爆発と聞けば、単気筒のような太い排気パルスを想像するが、実際の音と吹け上がりは意外なほど穏やかだ。構造を知らずに音だけを聞けば、NSR250RやTZR250Rのような1軸クランクのVツインと思うかもしれない。排気音も適度に抑えられ、乾いた2ストロークサウンドが響く。
1アップ5ダウンのレーサーシフトを操作して1速へ入れ、クラッチをつなぐ。クロスミッションと最終減速比の関係から、1速は比較的ハイギヤードだ。発進にはやや長めの半クラッチを要するものの、回転数を過度に高く保たなければならないほど神経質ではない。試乗ルートで多用したのは7000〜8000rpm。軽くワインディングを楽しむには十分な力があり、コーナー立ち上がりでスロットルを開けると、回転上昇に合わせてパワーが滑らかに盛り上がる。エンジンの表情が変わり始める領域だけに、本格的なパワーバンドへ入る手前でも十分に楽しめる。
中速域を使ってワインディングを流すと、加速の”軽さ”が印象に残る。スロットル操作に対する反応は穏やかなのに、速度は想像以上に伸びていく。長い下り坂でスロットルを開けたときのように、スルスルと車速が上がるような感覚だ。軽量な車体とエンジン特性に加え、エンジンから駆動系までのフリクションが徹底的に抑えられているのだろう。同時爆発と聞いて荒々しいフィーリングを想像していたが、この回転域の回り方は実に滑らか。最高出力を追求したエンジンという先入観があっただけに、うれしい誤算だった。
そのまま回転を上げていくと、8500rpmを超えたあたりから本領を発揮し始める。排気音が高くなり、加速力が一段と強くなる。パワーの立ち上がりはドラマチックで、2ストローク好きの感性を強く刺激する。試乗ルートの条件から、当初は1万rpm前後までにとどめていたが、それでも十分に刺激的だった。「ずいぶん気持ちよく吹け上がるエンジンだ」と感じていたのだけれど、さらにその先があった。もう少し道幅のある区間で引っ張ってみると、回転上昇とともに加速力は強まり続け、1万1500rpm付近までパワーがぐんぐんと増え続けていく。
これまでNSR250RやTZR250Rをレース用にチューニングし、70ps以上を発揮する車両にも乗ってきたことがある。1990年代のレーサーレプリカは、レーシングパーツを適切に組み込み、きちんと仕上げれば、現在の基準で見ても高いパフォーマンスを発揮する。そうしたチューンド2ストロークとVINSを比べると(同時に乗り比べたわけではないため断定はできないが)、絶対的な加速力は同等か、VINSがわずかに上回る印象だ。ただし、回転の上昇に伴って表情を変えるドラマチックさと爽快感では、VINSが確実に上。しかも公道仕様でEURO5に適合しながら、この吹け上がりを実現していることは驚きだ。しかも量産仕様では、試乗車より最高出力が約8HP上乗せされる予定だ。どのような走りを見せるのか、想像するだけでワクワクしてしまう。
質量を感じさせない異次元のコーナリング
独創的なサスペンションとカーボンモノコックの組み合わせが、どのようなハンドリングを生むのかには大いに興味があった。ところが、ストリートやワインディングを流す範囲では極めて素直で、特殊な構造を意識させる違和感は皆無だった。一般的なバイクとの違いは、やはり車体の軽さが際立ち、すべての動きが軽快なことだろう。
筆者ゴトーは、バンクさせた際にフロントへ過度な舵角がつくバイクを好まない。その点、VINSのフロントの動きは絶妙だった。車体をバンクさせると、フロントに自然な舵角がつき、バンク角とすぐに釣り合う。前後サスペンションもよく動く。コントロール性に優れたブレーキを使うと、フロントがわずかに沈み込み、バンキングのきっかけを作りやすい。公道の低い速度域でも扱いやすいよう、車体全体が丁寧にセットアップされている印象だ。
このマシンの優れたところは、速度域を上げても、その扱いやすさが変わらない点にある。ペースを上げてコーナーへ進入し、強くブレーキをかけても、ノーズダイブが過大になることはない。速度が高まっても操舵感が急に重くなったり、ライン修正が難しくなったりしない。
2スト好きなゴトーの感覚的なイメージだが、4ストの大排気量スポーツバイクの場合は、大きな質量をハイグリップタイヤで強引に向きを変えていくのに対し、足回りのセットアップが決まった2ストローク・レーサーレプリカは、荷重をかけてコーナリングしても、遠心力を意識させないほど軽やかに向きを変えてくれる。VINSではその感覚がさにーらに強くなっていた。前後サスペンションや剛性を考えた軽量なモノコックボディ、2本のクランクシャフトが逆方向へ回転し、それぞれのジャイロモーメントを相殺しやすい構造などが、こうしたフィーリングを生み出しているのだろう。
今回はストリートでの試乗だったため、限界域までペースを上げることはできなかったが、その先でどのような挙動を見せるのか、強く興味を引かれた。もっと思い切り走らせてみたい。久しぶりに、そう思わせてくれるバイクだった。
ポジション&足つき(身長178cm 体重78kg)
前傾姿勢にはなるが、一般的なスーパースポーツに比べると前傾の度合いはやや緩やか。テスターは前傾姿勢のバイクに長時間乗ると首が痛くなるのだがこのマシンではそうしたことがなかった。ちなみにハンドルの切れ角は、ストリート用のスーパースポーツと比べて極端に少ないという感じはしない。片側一車線の道路でもハンドルをフルロックさせれば、1度でUターンすることが可能だ。量産モデルではさらにハンドルの切れ角を増やすということだから、取り回しに関して問題が出ることはないだろう。
車体がコンパクトかつスリムなため足つき性は良好。125ccクラス並である。テスターの体格だと両足がベッタリとついて膝が曲がる。車体も非常に軽量なので支えるのも容易。
ディテール解説









































