Q:雨の日は晴れの日より止まりにくいのは分かっています。でも、実際どれくらい違うの?
滋賀県/雨の日は慎重派さん
雨の日にバイクで走れば、晴れた日より車間を空ける。白線やマンホールの上では余計な操作をしない。そんなことは、バイクに乗っている人なら経験的に分かっている。でも、「実際どれくらい違うの?」と聞かれると、意外と答えにくい。さすがに公道でフルブレーキを試すわけにもいかないしね。
そこで参考になるのが、JAFが公開した二輪車の制動テスト。125cc、250cc、900ccという排気量の異なる3台を実際に走らせ、ドライ路面とウェット路面で停止するまでの距離を比較している。
PCX125・レブル250・Z900RSを濡れた路面でフルブレーキ!
テスト車両は、125ccのホンダPCX125、250ccのホンダ・レブル250、900ccのカワサキZ900RS。JAF公表の車両重量はPCX125が133kg、レブル250が171kg、Z900RSが215kgで、一定速度でパイロンを通過したところからフルブレーキを掛け、40km/h、60km/h、100km/hで制動距離を測定している。なお、PCX125の100km/hテストは公道での法定速度が60km/hのため実施されていない。
ここでポイントは、3台ともABS(アンチロックブレーキシステム)付きで、テストではABSを最大限効かせた状態でブレーキングしている。つまり「雨だから怖くてブレーキをじんわり掛けました」という話ではない。しっかりブレーキを掛けたうえで、路面が乾いているか濡れているかを比較しているわけだ。
そして結果は明確。ウェット路面では、すべてのテスト項目でドライ路面より制動距離が長くなった。

図:PCX125、レブル250、Z900RSを40km/h、60km/h、100km/hからフルブレーキ。ドライ路面とウェット路面で制動距離を比較した。全車ABS作動状態。※PCX125は100km/hテスト未実施。
結果を見ると、ドライ路面の40km/hではZ900RSが8.1mで最短。60km/hではPCX125が16.4mで最短となり、100km/hではレブル250が38.1mで最短という結果に。
いっぽうウェット路面では、40km/hでPCX125が8.9m、Z900RSが11.8m、レブル250が12.5m。60km/hではPCX125が19.4m、レブル250が22.0m、Z900RSが24.0m。100km/hではレブル250が49.8m、Z900RSが53.2mとなった。なかでもZ900RSの40km/hでは8.1m→11.8mとなり、約46%も長くなった計算だ。
「重いバイクほど止まらない」と思ったら、そう単純でもなかった!
結果だけを見ると、車重の軽い順に短く止まったわけではない。ドライ路面の40km/hでは3台のなかで一番重いZ900RSが最短。ところが60km/hではPCX125が最短となった。ウェットでは40km/h、60km/hともPCX125が3台のなかで最短だ。そして100km/hではレブル250がZ900RSより短い距離で停止している。
「じゃあPCX125のブレーキが最強?」という話でもない。ここで少しだけ物理のお話。走っているバイクが持つ運動エネルギーは「1/2×重量×速度の二乗」で決まる。40km/h時の運動エネルギーを計算すると、PCX125は約8.2kJ、レブル250は約10.6kJ、Z900RSは約13.3kJ。Z900RSはPCX125の約1.62倍になる。
「ほら、やっぱり重いほうが止まりにくいじゃん!」となりそうだけど、まだ早い。タイヤが路面に発生できる摩擦力も、単純化すればタイヤに掛かる荷重が増えるほど大きくなる。つまり重くなれば止めなければならない運動エネルギーも増えるけれど、路面との間で使える摩擦力も増える。
平坦な路面で、タイヤの摩擦係数やブレーキ性能などが同じという理想的な条件なら、制動距離を表す式から車重は消える。つまり「重いバイク=必ず制動距離が長い」とは単純には言えないんです。実際、今回のJAFテストでも、車重の順番と制動距離の順番は一致していない。
もちろん実車では、ブレーキキャリパーの形式やピストン数、ディスクローターの径や枚数、タイヤのグリップ性能、ABS制御、さらに車体姿勢や前後の荷重移動など、さまざまな要素が絡んでくる。だから「重い・軽い」だけで止まりやすさは決められない、というわけだ。
「車重だけ見ても止まり方は分からない」ということは、実測結果からも見えてくる。

図:同じ40km/hなら重量が増えるほど運動エネルギーも増える。ただし、制動距離は重量だけで決まるものではない。事実、もっとも短い距離で停止したのはZ900RSなのだから。
雨以上に怖い!? 制動には「速度の二乗」が効いてくる
いちばん覚えておきたいのはこっちかもしれない。運動エネルギーは「速度の二乗」に比例する。同じバイクでも、40km/hを基準にすると60km/hでは2.25倍、100km/hではなんと6.25倍になる。
PCX125とZ900RSの車重差は133kg対215kgなので約1.62倍。いっぽう同じ車両で40km/hから100km/hへ速度を上げれば、運動エネルギーは6.25倍になる。実際の制動距離が運動エネルギーの数字だけで決まるわけではないものの、車重以上に「速度」が大きく効いてくることはイメージしやすい。
そこへ雨が加わる。路面が濡れればタイヤが使えるグリップ条件もドライとは変わる。今回のJAF実測でも、ウェット路面ではすべての条件で制動距離が伸びた。とくに100km/hでは、レブル250が38.1mから49.8mへ11.7m増え、Z900RSは39.4mから53.2mへ13.8mも伸びている。
だから雨の日に大切なのは、「ブレーキが効かなくなるから怖い」と身構えることではなく、「晴れの日と同じ速度、同じ車間距離では余裕が減っている」と考えること。ほんの少し速度を落とし、ほんの少し車間を広く取る。速度は2乗で効いてくるのだから、この「少し」が意外と大きい。
雨の日に必要なのは特別なテクニックというより、晴れの日と同じ感覚で走らないこと。このJAFの実測値を見ると、その意味が数字でもよく分かります。
※本記事のテスト結果はJAFが公開している「車とは異なるバイクの特性とは?(JAFユーザーテスト)」をもとに構成しています。
【モトチャンプ編集部】