世界三大本格オフローダーが一斉に世代交代目前、現行モデルの街乗り性能と使い勝手を検証する…スズキ・ジムニー編 現行三代目スズキ・ジムニー オンロード試乗…街乗りでも我慢はほぼ必要なし。このデザインが気に入っているなら今すぐ買え!
- 2018/06/18
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遠藤正賢
ジープ・ラングラー、メルセデス・ベンツGクラス、スズキ・ジムニー……世界の三大本格オフローダーが、ほぼ時を同じくして世代交代の時を迎える。まずは日本が誇る、世界最小かつ最強の本格オフローダー、スズキ・ジムニーの現行三代目の実力を、ここで改めて検証する。
ただしここでお届けするのは、仕事や生活でその性能を必要としているコアなユーザーが読めば噴飯ものの、あくまでファッションで本格オフローダーに乗る人のためのインプレッション。つまり、街乗りでどれだけ我慢せずに使えるか、の評価である。
この手のオフローダーを選ぶうえで最初の難関になるのは、やはり乗り降りのしにくさだろう。だがジムニーは最低地上高が200mm(シエラは190mm)と意外に低く、ドアを開けてもサイドシルが低くフロアパネルとの段差も少ないため、高齢者や小柄な女性でも「よっこらしょ」と掛け声をかけずに乗り降りできる。
そしてひとたび運転席に乗り込めば、今度は本格オフローダーならではのメリットを存分に享受できる。高いヒップポイント、細く立ったAピラー、下端が低く傾斜も少ない広大なガラスエリア、スクエアで見切りやすいボンネットとフェンダー、縦長で大ぶりなドアミラーなど、その運転環境は極限のオフロードで致命的な危険を回避しながら安全に走破するため徹底的に視界優先で構築されており、それが町中を快適に走るうえでも大きくプラスに働くことは言うまでもない。
またジムニーの左フロントフェンダーには、スタイリングの面では否定的な意見が多いであろうサイドアンダーミラーが装着されているが、これが左フロントフェンダー付近の死角を補うという本来の役割のみならず、コーナーポールのように左前端を見切りやすくする役割も果たしてくれる。そして何より、最小回転半径が4.8m(シエラは4.9m)と、軽自動車としてはやや大きいものの、本格オフローダーとしては圧倒的に小さい。これならば免許取りたての人が狭い道を走っても取り回しに苦労することはないだろう。
ただしシートには高さ調整機構がなく、ステアリングにはテレスコピック(前後調整)はもちろんチルト(上下調整)機構も備わっていない。しかもインパネは意外に上端の位置が高いため、小柄な女性でも良好な視界が得られるとは言い切れない、というのが正直な所だ。
だがそれ以上に気になるのは、トランスミッションの張り出しが大きいため各ペダルが右側にオフセットしており、しかもフットレストが小ぶりなせいで左足先を内側に曲げる不自然な姿勢を強いられること。ジムニーはトランスファーを副変速機共々運転席の下に配置しながら、それが良好なドライビングポジションの設計に充分に活かされていないのは、残念と言うより他にない。
なお、シートそのものは、前席は若干小ぶりだがクッションが適度に柔らかく厚みもあるため、長距離長時間の運転でも疲労は少ない。しかも今回の試乗車は、夏は熱くなりにくく冬が冷たく感じにくい、セーレン製の合成皮革「クオーレモジュレ」を採用した特別仕様車「ランドベンチャー」だったため、外気温が30℃を超える状況でも背中や太股が蒸れにくく、快適に過ごすことができた。
一方で後席は、ホイールアーチ上部を大ぶりなアームレストとして快適性向上を図っているものの絶対的に狭く、シートサイズも小さいため、体育座りに近いポジションを強いられる。しかも、5:5分割の後席を左右とも起こした状態では、荷室はスーパーマーケットでの買い物がやっとという程度の奥行きしかなく、逆に倒しても荷室フロアに対し段差も傾斜も強いため、実質的には荷室空間拡大に寄与しないのが難点と言えよう。スペアタイヤを背負うためにバックドアが横開きとなっているのは、狭い駐車場でも荷物の出し入れがしやすいため非常に有り難いのだが…。
いざ実際に走り出すと、今や最後の搭載モデルとなったK6A型直3ターボエンジンが、オフロードを極低速で走行しても不用意にスリップさせずに済むであろう、ドライバーの操作に対し穏やかかつリニアに反応する加減速特性を備えており、これがドライの舗装路でも非常に扱いやすい。
ほぼオンオフスイッチのようなセッティングを与えられている軽自動車が最近は多い中で、そういうクルマに慣れすぎている人にはかったるいと思われてしまいそうだが、ドライバーの意思に過不足なく忠実に応えてくれるジムニーのセッティングこそ理想的で、他の軽自動車も見習ってほしいと思えるものだった。
そして、道なき道を乗り越えるために必須といえる頑強なラダーフレームと前後リジッドサスペンション、パートタイム式4WDは、オンロードでの操縦安定性に対してはマイナスに働くことが多いのだが、ジムニーではそれが最小限で済んでいる。
車重は今回の「ランドベンチャー」4速AT車で990kgと辛うじて1t以内に収まっているうえ、装着されている175/80R16 91Q M+Sのブリヂストン・デューラーH/T684が思いのほかオンロード寄りの性格が与えられていることもあり、乗用車ベースのクロスオーバーSUVと同じような速度で旋回しても、派手にロールすることなくタイヤがしっかりと路面を捉え続けてくれる。
ある一定以上の荷重をかけると急激にタイヤのサイドウォールがよれ、ラダーフレームの上にゴムブッシュを介してマウントされたボディが傾くことで、横転するリスクが高まる……といった予兆を感じさせることもなく、交差点から首都高速道路の急カーブまで、いたって軽快に曲がることができた。さらに言えば、高速道路を巡航しても、乗用車的にややラウンドしたエクステリアデザインの恩恵か、風切り音の増加は望外に少なく、快適に過ごすことができた。
ただし、悪路での外乱によるワンダリングを抑えるためか、ステアリング中立付近の遊びが大きく、フロントタイヤに駆動力が伝わらなくなる2WD(FR)での走行中は特に接地感が希薄な傾向にある。
しかし4WDに切り替えると、その接地感は希薄どころか極めて豊富になるのだが、その分操舵力は明確に重くなり、ギヤノイズも盛大になる。そしてステアリングを一回転以上させるような急カーブや車庫入れでは、パートタイム式4WD特有のタイトターンブレーキング現象が発生する。燃費や駆動系保護のためにも、街乗りでは大雨や大雪に降られない限り、常時2WDで走行した方が良いだろう。
なお乗り心地は、前後リジッドサスペンションのため不規則に荒れた路面では完全にフラットライドとはいかないものの、至って快適。1m近くに及ぶトレーリングアーム、スプリングとダンパーが分離したサスペンション、偏平率80%・Qレンジ(最高速度160km/h)のタイヤ、頑強なラダーフレーム、ボディを支えるゴムブッシュが、不快な突き上げを見事に和らげてくれる。悪路からの衝撃に耐えるための構造が、オンロードでもプラスに働いていた。
こうして現行三代目スズキ・ジムニーを町中だけで走らせた率直な印象は、「本格オフローダーだからといって我慢を強いられることはほとんどない」ということ。むしろ悪路を走り抜くためのメカニズムや様々な工夫が、オンロードを走るうえでも大きくプラスに作用しており、非常に快適で、そして何より楽しかった。
新型四代目スズキ・ジムニーが7月、いよいよ正式デビューする。6月18日にオープンしたスズキのティザーサイトでは、そのグレード構成、二代目へ先祖返りしたかのような内外装、そしてラダーフレーム、エンジン縦置きFRレイアウト、副変速機付パートタイム4WD、3リンクリジッドアクスル式サスペンション、5速MT/4速ATといった主要メカニズムが継承されることが明らかにされた。
だが、たとえ新型四代目スズキ・ジムニーが大幅に進化していたとしても、現行三代目がいまだに現役として通用する走りの実力を備えていることに変わりはない。現行三代目の方が好みの内外装デザインであり、また上質な加飾アイテムを備えた「ランドベンチャー」を気に入っているのであれば、まだ届出済未使用車が全国に300台弱(6月18日時点)残っている今のうちに、迷わず購入すべきである。
【Specifications】
<スズキ・ジムニー・ランドベンチャー(F-AWD・4AT)>
全長×全幅×全高:3395×1475×1680mm ホイールベース:2250mm 車両重量:990kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:68.0×60.4mm 圧縮比:8.4 最高出力:47kW(64ps)/6500rpm 最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3500rpm JC08モード燃費:13.6km/L 車両価格:1,691,280円
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