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[毎週月曜日朝更新企画]自動車業界ウラ分析:CAFCとNEVの「ダブル規制」継続の切り札 中国政府がついにハイブリッド車優遇へ 自動車産業に関わっている人は知っておいて損はない。自動車の世界最大市場・中国の方針転換のウラ事情。CAFCとNEV規制はこうなる!

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世界最大の自動車市場である中国、どうやら中国政府の方針は変わったようだ。キーになるのは、「HEV(ハイブリッド車)」の扱いだ。新聞報道ではわからないウラ事情をジャーナリスト牧野茂雄が解説する。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 トヨタ、VW(フォルクスワーゲン)、GM、メルセデス・ベンツ……高い技術力を持つグローバル自動車ブランドが、中国では「燃費の悪いクルマ」というレッテルを貼られた。中国汽車工業協会(中汽工)が発表した2019年のCAFC(Corporate Average Fuel Consumption=企業別平均燃費)規制とNEV(新エネルギー車)規制の達成状況は、中国国内で生産または輸入を行なう乗用車メーカー119社のうち62社がCAFC目標未達成、NEV目標は30社が未達成だった。グローバル自動車メーカーが軒並み未達成に終わり、逆に中国の民族資本ローカルメーカーが優等生ぶりを発揮した。中国国営メーカーは外資から譲り受けた「お古」のプラットフォームに排気量1.6ℓ以下のエンジンを載せたモデルが主力なのに対し、豪華仕様が中心で大排気量エンジンも少なくない外資勢はそもそも立場は不利だ。プレミアムカーの現地生産を望んでいたのは中国政府であり、これは以前から指摘されていた。その中国政府がようやく動いた。2021年から「低燃費車」というカテゴリーを新設する。HEV(ハイブリッド車)誘致へと中国政府は舵を切ったのである。

 中国にはふたつの規制がある。ひとつはCAFC規制だ。中国以外ではCAFE(コーポレート・アベレージ・フューエル・エフィシェンシー)と呼ばれる規制であり、メーカーごとに「モデルごとの燃費×1年間に販売した台数」を計算し、そのメーカーのトータル販売台数での平均燃費が規制を満たしたかどうかを監視する規制だ。中国では末尾のアルファベットがE(エフィシェンシー=効率)ではなくC(コンサンプション=消費)と表記される。2020年までの目標値は平均5ℓ/100km(20km/ℓ)である。

 もうひとつの規制はNEV(ニュー・エナジー・ビークル)規制だ。BEV(バッテリー電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池電気自動車)の3カテゴリーを新能源車(新エネルギー車)に指定し、その生産台数が目標に達したかどうかを監視する。2020年は「全生産台数の10%」をNEVにすることが義務付けられている。

 CAFCとCAFEは、それぞれ中国政府が自動車メーカーごとに目標を与える。その計算方法は決まっていて、どのメーカーに対しても公平だ。そして、1年が終わったところで政府機関が計算を行なう。ポイントは「生産台数」で計算する点にある。中国では、自動車メーカーは生産認可を得ているモデルごとの生産台数を毎月国に報告する義務があり、各社からの報告を中汽工がまとめる。その一方で販売台数についての国家統計はなく、業界団体が各社からの報告をベースに集計しているだけだ。CAFCとNEVの規制についても生産したクルマが売れたかどうかは関係なく、生産台数ベースで仕切られる。CAFCとNEVのダブル規制である点は世界的にもめずらしいが、生産台数ベースの規制というのもめずらしい。

 さて、今回は中国での2件の発表をご紹介する。まず、中汽工が発表したCAFCとNEVの目標達成度合いを示すデータだ。全119車の中から筆者が26社を抜粋して表にまとめたのでご覧いただきたい。

2019年中国CAFC&NEV達成状況

中汽工が発表した年間2000台以上のクルマを製造または輸入する企業のデータの中からグローバルメーカーを中心に筆者が抜き出した。NEV積分がプラスの場合はCAFC積分のマイナスをこれで補うことができる。

 表の見方を説明しよう。いちばん左のメーカー名にはトヨタ、ホンダ、GMなど馴染みの名前が並んでいるが、必ず漢字が混じっている。北京ベンツとは、中国国営の北京汽車とダイムラーの合弁会社「北京奔馳」である。広州ホンダは国営広州汽車とホンダの合弁会社「広州本田」。中国では外国資本の自動車メーカーが単独で工場を作ることは許されていない。必ず中国企業との合弁企業にしなければならないのだ。

 2列目の「生産台数」は2019年に各社が「国に届け出た生産台数」である。3列目の「2019年燃費目標値」は、国が各社に指示したCAFC目標値だ。表記は「100km走行に必要な燃料」であり、北京ベンツの6.27は6.27ℓ/100km。日本式の表記では15.95km/ℓとなる。その右列の「2019年燃費実際値」は各社がモデルごとの生産台数と燃費を掛け算してすべてを合計した平均の燃費値。これがCAFC値である。北京ベンツは6.68ℓ/100kmだった。

 北京ベンツを例に計算すると、CAFC目標値よりCAFC実際値のほうが悪い。6.27-6.68=-0.41となり、このマイナス数字に生産台数56万4665を掛けた数字が「CAFC積分値」になる。-23万1513だ。ここまでがCAFC規制の計算。ちなみに、ここで言う積分は数学の計算の積分ではなく積(=総合計)の分(ポイント)、つまり「合計ポイント」という意味だ。

 つぎにNEV規制の計算。「NEV積分目標値」は政府が各社に与えるノルマだ。2019年の目標は、2018年に各社が生産した車両の総台数からNEV生産台数を引いた台数の8%だ。その数が北京ベンツの場合は5万6369だった。「NEV積分実際値」は、北京ベンツがNEVを生産して獲得したクレジット(ポイント)だ。以前はBEVを1台生産すると最大5クレジットをもらえたが、現在は最大3.4クレジットに下がった。

 北京ベンツはNEVを生産して3676クレジットを獲得した。右から2列目の「NEV積分実際値」の数字がこれだ。「NEV積分目標値」は5万6369だが、じつはこの数字は「政府が与えるノルマ」だから「マイナス5万6369」である。このマイナス分を、実際にNEVを生産して得られるクレジット=NEV積分実際値で埋めて、最終的に「0」になればノルマ達成。しかし、北京ベンツのNEV積分実際値は3676でしかない。目標に対してショートしている。なので「NEV積分目標値」の数字はマイナスになる。「-5万6369+3676=-5万2693」という計算であり、だから表の一番右の列の「NEV積分」が「-5万2693」なのである。

 この表に示されている「CAFC積分」と「NEV積分」は、両方とも「政府が与えたノルマを達成したか、していないか」を表す。与える目標はマイナス数字。それを「燃費改善」または「実際のNEV生産」で埋める。目標達成できれば「CAFE積分」「NEV積分」はプラスの数字になる。いかにも共産主義的な発想だ。

「NEV積分」の数字をタテに追っていくと、北京ベンツはもちろんマイナス、次の北京現代(韓国・ヒュンダイ自動車)もマイナス。北京新能源汽車はごっついプラスだが、この会社は北京汽車集団(グループ)のなかでNEV生産だけを担当する会社だから、このようにプラスになる。しかも北京新能源汽車の燃費実績値は0.00である。これは「ガソリンも軽油も使わない電動車だけ製造した」ことを示す数字だ。

 さらに見ていこう。比亜迪汽車工業は、電池メーカーの比亜迪(BYD)グループの自動車メーカーで、ここは中国で初めてPHEVセダンやBEVタクシーを生産した会社だ。親会社が電池メーカーだから電動化には熱心で、だから「NEV積分」はがっつりとプラスになっている。その下、長安フォード、長安マツダ、東風ホンダなどはグローバルメーカーと中国国営メーカーの合弁会社だが、生産しているのはグローバルブランドのクルマだけ。「NEV積分」はマイナスである。

 表を下へ見て行くと「CAFC積分」で広州トヨタがプラスになっている。政府が与えた燃費目標を実際値が下回った。つまり燃費のいいクルマを生産したということだ。これはHEV(ハイブリッド車)の恩恵でもある。上海GM五菱は燃費目標を達成できず「CAFC積分」は大幅マイナスだが、BEV商用車を生産したことで「NEV積分」はプラスだ。この場合は「NEV積分」のプラスで「CAFC積分」のマイナスを損失補填することができる。

 ……と、中国自動車メーカー119社のデータが発表されたのだが、前述したようにグローバル自動車メーカーの多くが目標達成していない。その理由のひとつは、各社とも利益率のいいSUVを主力に据えているためだ。もちろん民族系メーカーもSUVをかなり売っているが、グローバルブランドのプレミアムSUVは人気がある。また、中国民族系メーカーはエンジン排気量の小さいクルマ、せいぜい2ℓまでのクルマがほとんどだが、外資グローバルメーカーは排気量が大きくて豪華な、あるいはスポーティなモデルを揃えている。

クレジット統一管理の流れ

CAFC規制とNEV規制はそれぞれクレジットで管理されているが、両方のクレジットは統一的に扱われる。ICE(内燃機関エンジン)搭載車は「伝統的車両」と呼ばれ、1台製造するごとに「マイナス1」クレジットが課せられる。これをCAFCの数字で小さくするか、NEVクレジットで穴埋めするか、あるいは他社かられクレジットを購入するかで最終的にプラスマイナス・ゼロにすればいい。(図は三菱UFJコンサルティング提供)
威志V5 | 威志と書いてヴィッツ。このモデルはヴィッツ・ベースの中国専用4ドアセダンであり、トヨタからライセンス腰輿を受けた第一汽車が生産する。

 中国でもっとも古い第一汽車(一汽)は、VWとトヨタから旧世代の設計をもらって生産している。初代ヴィッツを手直ししたモデルもまだ生産されている。MT(マニュアル・トランスミッション)が主流だ。VWも古いジェッタなどを提供している。こちらもMTが主流。中型クラスだと、マツダが設計を提供した旧型アテンザをベースにデザインを変えたセダン/ワゴンが主力だ。豪華なクルマやスポーティなクルマは持っていない。見栄えは良くなってきたが、外資グローバルブランドのプレミアムカーを買っている層は、中国メーカーの商品は選択肢に入れない。国内ブランドと外資合弁とでは顧客層が違うのだ。

 それと、中国国営グループ各社と大手の独立系メーカーは「○○新能源汽車」と行った社名の会社を設立している。ここでNEVを生産する。極論すれば、売れても売れなくても構わないのだ、NEVを生産しさえすれば、1台も売れなくたってクレジットが入ってくる。それで政府から与えられた目標は達成できる。

 中国政府は、2020年のNEV生産目標を「メーカーごとの総生産台数の12%」に設定している。なので、2020年が終わって2021年5月ごろに、ここで紹介した表の2020年版が発表される。2019年は「メーカーごとの総生産台数の10%」だったが、目標がさらに高くなる。果たしてどうなるだろう。10%目標だった2019年でさえ、外資グローバル勢はあらかたNEVノルマ未達成だった。

 去る6月22日、中国工業和信息化部(工信部)が「CAFCとNEVの同時管理措置」を改定した。このなかに突然、いままでにはなかった「低燃費乗用車」という表現が追加されていた。「NEVではない低燃費乗用車」である。これが冒頭に紹介した「ふたつの発表」のうちの2番めだ。2021年1月1日以降は、「低燃費乗用車」を1台生産すると通常の伝統的車両((従来から存在するガソリン車やディーゼル車など)の生産では「マイナス1」になってしまうクレジットが0.5倍(つまり0.5台=2分の1台)として計算されると書いてある。しかも2022年はこれが0.3倍(つまり0.3台)に計算され、2023年には「0.2倍に勘定する」と。これは何なのか。

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