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「BEV補助金2倍」と欧州からの宣戦布告! 欧州勢は何をしようというのか

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日本政府がBEV(バッテリー電気自動車)購入補助金の増額を検討していると報道された。日刊自動車新聞によると「太陽光発電などの再生可能エネルギー設備の設置などを条件に1台当たり現行の最大40万円から同80万円へと2倍に引き上げることを検討している」という。BEV優遇と引き換えにクリーンディーゼル車への自動車重量税一律免税が見直されるようだ。これは単に補助金の「電気シフト」というだけの問題ではない。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

管首相の「カーボンニュートラル」の意図は?

菅義偉首相は先ごろ、2050年までにCO2(二酸化炭素)など温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を示した。日本もカーボンニュートラルをめざすという宣言だ。中国の習近平国家主席が国連へのビデオ演説で「中国はカーボンニュートラルをめざす」と宣言したことが影響したのだろうか。中国の対外プロパガンダを額面どおり受け取るほど菅政権は世間知らずではないと思うが、いまこの時期に、産業界との話し合いもなしにCO2をテーマにしたのは、どう言う風の吹き回しだろうか。

筆者のコラムで過去に紹介したように、中国はBEV、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池電気自動車)の3カテゴリーをNEV=新エネルギー車(ニュー・エナジー・ビークル)と呼び、その普及を政府が進めている。しかし、思うように普及が進まないため、一度は廃止を決めた補助金の継続を発表し、同時にHEV(ハイブリッド車)など燃費に優れたモデルを来年から「省燃費車」として優遇することも発表した。

中国「2035年にエンジン車禁止」の本当の内容「中国はエンジンを使うハイブリッド車については“熱烈歓迎”なのだ」

去る10月27日、中国政府が「2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討する」と発表した。これを受けて日...

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一番の狙いはガソリン消費の削減である。筆者が以前、中国の政府関係者から聞いた話では、中国政府はガソリン価格の安定化のために国家から支出している。この支出は、直近の8年間で何と2億台という新車需要によって膨らむ一方だった。その人はこうも言った。

「冬場の北京の大気汚染が自動車排ガス由来でないことなど、我われも知っている。石炭暖房が原因だ。しかし、いきなり石炭の配給をやめるわけにはゆかない。そんなことをしたら共産党のメンツにかかわる」

中国から日本に飛来するPM 2.5微粒子を日本の大学が採取して分析した結果、成分は「中国産の石炭」だった。2008年ごろにこの結論が出ている。PM中の炭素12/13を調べ、石炭にしか入っていないアロマ成分を抽出し、さらに硫黄の放射性同位元素と組み合わせれば99.9%の確率で「もとの燃料」を特定できる。しかし、中国に配慮してなのか、表立っては問題にしなかった。メディアは中国からのPM2.5を「自動車からの排ガス」と言い切った。そんなアホな……。

菅政権のBEV補助金増額も中国の補助金継続とダブって見える。「普及させたい」から補助金を手厚くするという、わかりやすい政策である。ただし、日本の燃費目標はWtW(ウェル・トゥ・ホイール=油井から車輪まで)だが、EUと中国はTtW(タンク・トゥ・ホイール=タンクから車輪まで)である。日本はEUや中国のようにBEVを単純に「CO2排出ゼロ」のクルマとは認めていない。この点、日本は立派である。

エネルギー消費をTtWで見るということは、「走行段階」でどれくらいエネルギーを使っているか、の勘定だ。これに対してWtWとは、化石燃料なら採掘〜精製〜輸送〜給油〜クルマでの消費まで、電力なら発電〜昇圧〜送電〜降圧〜車載バッテリーヘの充電〜車載バッテリーからの放電までという、すべての段階でのエネルギー消費(言い換えれば損失)をまとめたものを指す。EUのCO2規制もアメリカのカリフォルニアZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制もTtWの勘定であり、走行段階しか見ていない。

それはいいとして、菅政権でのBEV補助金倍増検討案が「太陽光発電などの再生可能エネルギー(再エネ)設備の設置などを条件とする」方向で議論されている点は、日本の燃費目標がWtW勘定なのだから、まあ当然だとして、しかし、ほかに思惑があるようにも勘ぐってしまう。

英独ではすでに「批判」、「失敗」と判断された再エネ賦課金制度を、日本はこのまま続けるのだろうか

電気料金に含まれている「再エネ発電賦課金」だ。これは電力会社が有無を言わさず徴収する。2019年度に、日本の電力会社が契約者から集めた再エネ賦課金の合計は2.4兆円。これは家庭用ソーラーパネルや風力発電用風車が発電した電力を買い取った金額である。

筆者宅の電気料金領収証を掲載した。2020年11月請求分である。再エネ発電賦課金は1561円だった。電気事業連合会によると、一般家庭の平均月額は767円。家庭用ソーラーパネルなどからの電力買い取り費用は3.6兆円で、そのうちの2.4兆円は、電力契約者から徴収する再エネ賦課金だ。他人の家やメガソーラー企業が所有するソーラーパネルが勝手に発電し、余った電力を電力会社に買い取らせ、電力会社は「はいわかりました」と無条件で買い取る。そこで「電力を提供してくれた人」に支払う買い取り料金の3分の2は一般家庭が支払う。え、なんで?

2018年に経済産業省は、国費で招集した「2050年のエネルギーを考える有識者会議」が算出した発電単価を公表した。それによると、太陽光や風力などの再生可能エネルギーと蓄電システム(大容量バッテリー)を併用する場合のkWh当たり発電コストは95円、水素システムでは56円、原子力では10円という試算だった。この年のLNG火力発電は12円/kWhである。

ドイツのフランクフルトに住む友人は「日本の再エネ賦課金制度はドイツの真似だ」と言う。彼女の家では昨年、240ユーロ(2019年12月の為替レートでは1ユーロ=121円 240ユーロは2万9040円)の再エネ賦課金を払ったという。「日本もソーラー(太陽光)発電パネルだらけになるわ、きっと」と彼女は言う。

BEVを購入するために自宅にソーラーパネルを設置し、そのための出費を行ない、その代わり80万円のBEV補助金を受け取る。ソーラー発電パネルの設置費用の目安は1kWh当たり25〜35万円だそうで、5kWhの発電能力を得るには125〜175万円の費用がかかる。しかし電力は買い取ってもらえる。

いっぽう、再エネ賦課金は、世の中にソーラー発電パネルが増えるにつれて高くなってきた。2014年は平均的家庭で月195円だったものが、5年後には767円だから、ものすごいペースで増えたことになる。ドイツでは批判にさらされ、英国ではすでに「失敗」と判断された再エネ賦課金制度を、日本はこのまま続けるのだろうか。

BEV補助金増額は「20年度第3次補正予算案で関連費用を盛り込むこと」が検討されている。その代わりディーゼル乗用車の税制優遇は見直される。これを「CO2排出削減がテーマだから仕方ない」と言い切れるか……。

BEVが増えれば、ほぼ電源構成比のままの「追加」が必要になる

東日本大震災で福島県の原発が被害を受けて以降、日本は原子力発電に対しものすごく過敏になった。資源エネルギー庁がまとめた日本の発電事情は、2017年実績で化石燃料発電への依存度が約80%。原発を動かしたくても世論がなかなか認めてくれない。仕方なく国内の電力各社は天然ガス(液体状で輸入するものはLNG=液化天然ガス、自動車で使うときはCNG=圧縮天然ガス)発電を多用しているが、LNG買い付けの資金は国庫から出ている。「徴収する電気料金だけではまかなえない」というのが理由だ。

発電量は電力需要で決まる。BEVが増えて、BEVの電池に溜め込む電力が増えると、ほぼ電源構成比のままの「追加」が必要になる。いま、日本でBEVを購入すると、80%が化石燃料系由来の電力を使う。果たしてBEVに補助金を給付することが正義なのだろうか。WtWで厳密に計算したうえで補助金を給付するのなら納得できるが、「電気はエコ」というだけの根拠では話にならない。

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