Motor-Fan[モーターファン]|自動車最新ニュース・速報、試乗記など、クルマとカーライフを楽しむサイト

  • モーターファンテック
  • モーターファンバイクス[Bikes]
  1. TOP
  2. ニュース・トピック
  3. コラム・連載記事

エンジン車は、いつまで続くか。 その2「欧州はなぜ内燃エンジン(ICE)から逃げるのか」 2020〜2021年自動車産業鳥瞰図

このエントリーをはてなブックマークに追加

なぜHEVへ向かわないのか。筆者の2001年前後の取材ノートを引っ張り出すと、欧州の自動車メーカーやエンジニアリング会社はこう言っていた。

「すでにトヨタは大量の特許を持っている。シリーズ・パラレルという方式のHEVでトヨタに追随するのは無理だ」「プリウスのデータを取り、分解して、いろいろなことがわかったが、モーター動力の使い方は欧州の交通環境には合わない。低速走行メインでなければ成立しない」「トヨタとはまったく別の方法で1モーター方式のHEVを考えている」「HEVの重量増を考えれば、ディーゼルエンジンのほうがはるかに燃費の取り分が大きい」……

ひとつの答えが出たのは2005年ごろだ。VW(フォルクスワーゲン)はガソリンエンジンに機械式スーパーチャージャーと排気式ターボチャージャーを組み合わせ排気量を削ったTSIを市場投入した。GM、ダイムラークライスラー、BMWが遊星歯車(プラネタリーギヤ)3セットと電動モーター/モーター兼発電機という重装備の2モードHEVを世に送り出したのはその直後だった。VWがTSIをどんどん改良し過給ダウンサイジングという流行を作ったいっぽう、3社連合のHEVは、たとえばBMW・X6ハイブリッドのドライバビリティは実に素晴らしいものだったが、重たくて高価でFR車にしか使えず、商業的には成功しなかった。

同時に欧州勢は排ガス性能の良い過給クリーンディーゼルエンジンのバリエーションを揃え、多くのモデルに搭載した。ガソリンエンジンに比べて同じ吸気量(排気量ではない)当たりで2〜3割CO2(カーボン・ダイオキサイド=二酸化炭素)排出が少ないディーゼルは優等生だった。しかし、2015年秋に発覚したVWの排ガス不正事件を機に、ディーゼルへの信頼が揺らぐ。ドイツのメルケル政権は自動車をドイツの主力産業と位置付け、とくに拡大著しい中国市場に対しては習近平政権との連携で「ドイツ車天国」を創造しかけていたが、この計画にブレーキがかかった。

ディーゼル排ガス不正はその後、VWだけの問題ではなくダイムラー、BMW、それに燃料システムと制御ソフトウェアの供給元であるボッシュも加えた問題になり、一気にドイツ自動車産業への信頼が揺らいだ。これがメルケル政権への非難となり、緑の党がドイツ国内で躍進する結果になった。

いっぽうEUは、本来ならWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル)/WLTP(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・プロシージャー)という新しい燃費・排ガス測定モードを導入してから実際の公道上での燃費・排ガスを測定するRDE(リアル・ドライビング・エミッション)へと段階的に進む予定だった政策を急転換した。EU議会の議員は一般選挙で選ばれるため、ドイツの自動車産業が犯した失態を非難しないと議員生命が危ういと感じた政治家たちがRDE導入を急かしたのだ。

いま思えば、ドイツ自動車産業界スキャンダルとも呼べるディーゼル排ガス不正が電動化への流れを加速させたことは間違いない。それと、個人的には日本のICE技術の封じ込めをEUが画策したと感じている。

2017年9月、マツダは圧縮比16.0というガソリンエンジンを発表し、真っ先に欧州で実車を披露した。その翌年、日本の内閣府が進めていたSIP(戦略イノベーション創造プログラム)のなかの「革新的燃焼技術」で、研究室段階とはいえガソリンエンジンの正味熱効率が50%を超えたと発表された。旧知の在欧ジャーナリスト諸氏および欧州のエンジニアリング会社からは「詳細な資料を持っているか?」と筆者にいくつも連絡が入った。詳細を知りたかったのは欧州の自動車メーカーである。

EUにとっては自動車運輸部門でのCO2排出が減らないことが悩みの種だった。EU誕生以降、政策のひとつはデカップリング(CO2など温室効果ガス排出量へ減らしながら経済を成長させる)なのだが、全CO2排出量の約25%を占める運輸部門(自動車だけでないが)は改善があまり進んでいない。EU政府が考える「改善」とはカーボンフリー化であり、再生可能エネルギーの利用がどれくらい進んでいるかという尺度だ。「原子力が再エネかよ」と突っ込みたいが、EUはそこをTtW=タンク・トゥ・ホイール、つまり走行段階で排出されるCO2だけを監視対象にして逃げている。

石油資源の約95%を輸入に頼っているEUにとってガソリンと軽油は、できれば使いたくない燃料だ。当然、中東依存度が高い。原油輸入量を劇的に減らすなら自動車燃料を脱石油化すればいい。ロシアからの天然ガス購入についてもEU内には反対する声がある。ドイツは個人住宅にガス管をひくことが極めて難しくなった。オール電化である。しかし脱原発を進めているため電力が足りず、フランスなどから電力を買っている(前回のコラムを参照してください)。

エンジン車は、いつまで続くか。 その1「ECVノルウェーモデルを読む」2020〜2021年自動車産業鳥瞰図

ICE(Internal Combustion Engine=内燃エンジン)を搭載する新車の販売が禁止される。英国も、フランスも、そして日本も……こ...

あわせて読みたい

日本が有利になりそうなICEからEUは逃げた。筆者はそう思う。BEVは「EU飛躍」の材料であり、戦いのステージをIECから電気と電池に移せばいい。単純明快な理論だ。欧州最大の自動車産業国家であるドイツは「エンジン技術で日本の勝手にはさせない自信」があるが、ドイツ以外の国はそうではない。黙っていてもドイツは知恵を絞る。VWはメルケル首相に「電動でもICEでも、どっちへ転んでも雇用を守る」ことを約束した。だからBEV専門ブランドである「ID.」シリーズを拡充させながら通常のICE車も生産する。

ただし、VWを筆頭にドイツの自動車産業が主張しているのは「TtWではなくWtWへの考え方の転換」だ。前述のようにTtW=タンク・トゥ・ホイールは「走行中に排出されるCO2」だけを対象とするが、WtW=ウェル・トゥ・ホイールはウェル(井戸・油井)からホイール=車輪までの間という意味だ。化石燃料の採掘および精製段階でのCO2排出、発電段階でのCO2排出、クルマに給油あるいは充電して走る段階でのCO2排出をすべて合算したCO2総量で燃費・電費を計算するという考え方がWtWであり、ドイツ勢はEU委員会や議会に対しこれを主張している。

しかし、EUはこれを無視している。自動車排出CO2の規制をTtWからWtWに改める気はない。つまり、自動車の電動化=エレクトリフィケーションだけは進めるが、発電に使うエネルギーまでは問題にせず、当然、原子力も否定しない。原子力の扱いはEU内でも意見が分かれており、けして一枚岩ではない。互いに干渉しないようにしている。同時に、ECV推進の考え方は中国とまったく同じだ。

中国も石油輸入を減らしたい。最近6年間で1億5000万台も増えた自動車保有のおかげで石油輸入量が増え続け、しかもガソリン/軽油の小売価格管理のために政府が国庫から支出する補てん金も負担が大きい。だから2018年からNEV(新エネルギー車)規制を導入し、ECVの普及を国家事業にした。その背景には「いまからICEを研究しても欧米日には勝てない」という諦めがあり、戦いの場を電気・電池に移すことで「中国を自動車強国にする」ことが狙いだった。

EUと中国の自動車電動化政策は、このように完全に一致する。中国の新車市場は実績で年間2800万台以上であり、ポテンシャルは年間3000万台以上。欧州は実績で年間1800万台。中国はアメリカを上回り、欧州はアメリカと同等。この数がEUと中国の自信でもある。EU域内でECVをどんどん売り、同じ政策を進める中国でもECVをどんどん作る。欧州メーカー全体では年産3000万台以上だから、世界シェアは30%であり影響力は小さくない。EUが狙う方向に世界を動かせばいい。中国は賛同している。

じつは過去、中国の自動車市場で大きな利益を上げたのはドイツ勢だけだ。プジョーは一時期、中国・広州の工場を捨てて撤退した。その穴を埋めて広州市が債務超過になるのを救ったのはホンダだった。北米市場ではドイツ車以外のプレゼンスはほとんどない。ルノーは日産を利用して中国とインドに食い込んだが、規模のビジネスはなかなか難しい。イタリア勢も同様。結局、欧州の自動車産業でグローバル体質なのはドイツだけだ。

三菱i-MiEVはPSA向けに供給されプジョーiOn/シトロエンC-ZEROとして2009年から約3年間欧州で販売された。現在はアウトランダーPHEVが三菱ブランドの売れ筋である。(写真:TüV)

EU域内で自動車排出CO2規制を厳しくする代わりに、ECVのための充電スポットの設置、電池の研究開発や量産設備への支援は行なう。当面はスーパークレジットという制度を使って自動車メーカーがECVを売りやすくする。ただし補助金は「各国でご自由に」であり、ドイツはBEV1台あたり100万円ほどの補助金を出している。EU外の国が企業に補助金を交付すると非難していたEU委員会も、域内の消費者への補助金には何も言わない。

これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。

これが本当の実燃費だ!ステージごとにみっちり計測してみました。 一覧へ

会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ

会員必読記事|MotorFan Tech 厳選コンテンツ 一覧へ