ルックスは定番でも、こだわりは多岐に及ぶ
オザワR&Dの小澤さんが紹介してくれたプライベートチューナー、大野さんが十数年の歳月をかけてレストア&カスタムを行ってきた1981年型Z1000Jは、パッと見では1980年代初頭に活躍したAMAスーパーバイクレーサーを彷彿とさせる、いわゆる定番仕様である。

もっともご本人に詳細を聞いてみると、現代のアシスト&スリッパークラッチを導入したり、ドライブスプロケット下部にパフーマンスダンパーを追加したり、ノーマルの電気式スピードメーターを活かす変換アダプターをワンオフ製作したりと、こだわりは多岐に及ぶのだけれど、外観から判別できるマシン全体の構成は、定番の範囲から外れるわけではない。

ただしこのバイクを試乗した僕は、大野さんが目指した方向性に感動と共感を覚えることとなった。パッと見が定番仕様でも、大野さんのZ1000Jはその範囲に収まらない、魅力的な乗り味を実現していたのだ。
ノーマルの資質をきっちり維持

今回の試乗で僕が最初に感心したのは、ノーマルの資質をきっちり維持していること。逆に言うなら一般的なフルカスタム車は、プラス要素を得る一方で、何らかのマイナス要素が発生することが珍しくないのだが、この車両にはそういった気配が見当たらない。

具体的な話をすると、まずパワーユニットはSOHCエンジニアリングのφ74mm鍛造ピストンやウェブST-2カム、ケーヒンCRスペシャルφ33mmキャブレター、BLファクトリー製マフラーなどを投入し、ノーマルを完全に凌駕する力を獲得しているものの、だからと言って扱いづらさは微塵もなく、ノーマルと大差ない感覚でスロットルをガンガン開けていける。
しかも、排気量を998→1135ccに拡大しているにも関わらず、振動はほとんど増加していないし、油温計に表示される数字は90度前後で安定しているのだ。

そしてシャシーに関しても、JB POWERのステアリングステム+φ38mmフロントフォーク、S1タイプのスイングアーム、オーリンズ製リアショック、ソード/ダイマグの前後18インチホイール、サンスター/APロッキードのブレーキパーツなどを用いて足まわりを全面刷新しているのに、違和感はまったくナシ。

こういったフルカスタム車では、どれかひとつの部品の主張が強烈で、その部品に合わせた気遣いが必要になることが珍しくないのに、このバイクは全体の調和が取れているから、ノーマルの延長線的な感覚で、大幅に向上した接地感や旋回性や制動力が満喫できる。

いずれにしてもこの車両は、紛れもなくZ1000Jなのだ。
いや、その表現は何だかマヌケだが、例えばカワサキが1980年中盤以降も空冷Zシリーズの熟成を真面目に続けていたら、いつかはこういう乗り味に到達したんじゃないか……と夢想してしまうほど、大野さんの愛車はノーマルの資質を維持しながら、飛躍的なレベルアップを実現していたのである。
低中回転・低中速域も楽しい

それに加えてもうひとつ、大野さんのZ1000Jで僕が嬉しくなったのは、スロットルをワイドオープンできない場面でもストレスがほとんど溜まらず、低中回転域を使ってのまったり走行が快適で楽しいこと。
もっとも、このバイクは高回転・高速域の性能にも相当な磨きがかかっていて、サーキットランも余裕で楽しめそうなのだが、負圧式キャブレターを思わせるスロットルの開け始めの優しさや、往年のスーパーバイクレーサー風でも適度なウレタン厚を確保したシート、上質な乗り心地を実現した足まわりなどを考えると、街乗りやツーリングにも普通に使えるに違いない。

そういったフィーリングがあまりにも僕の好みだったので、試乗後にじっくり話を聞いてみると、なんと大野さんは僕が過去に編集部員だったバイカーズステーションの読者で、このバイクのカスタムを行う際は1999年12月号の巻頭特集、“乗りやすい・イコール・高性能”という記事を参考にしてきたとのこと。

いやはや、かつての自分が製作に携わった記事がそんな形で役に立っているというのは、二輪メディアで仕事をしている人間にとっては望外の喜びだが、そもそも僕自身も愛車をカスタムする際は、“乗りやすい・イコール・高性能”を常に意識しているように思う。

そして改めて考えると、1970年代生まれのZ1やZ1-RやZ1000MkⅡといった第一世代を比較対象とするなら、1981年から展開が始まった第二世代の空冷Zシリーズは、“乗りやすい・イコール・高性能”を具現化していたのである。
だからこそ僕はZ1000Jが大好きなのだし、第二世代ならではの資質に磨きをかけた大野さんの愛車に、感動と共感を覚えたのだろう。
ディティール解説











