奥武蔵の山々に囲まれた埼玉県飯能市名栗地区は、都内から指呼の距離ながら素朴な山里の風景がいまも残る。最近ではツーリングスポットとしての人気も上昇中で、観光施設がそろう名栗湖周辺には多くのライダーが集う。注目の名栗をカブでめぐった。

名栗地区随一の観光スポット名栗湖

 今回のツーリングの目的地は、埼玉県飯能市の名栗地区。かつて名栗村だった山里で、最近はツーリングスポットとして多くのライダーが訪れるエリアに昇格したところだ。奥多摩や秩父と比較すると見どころが少なく、快走路と呼べる道もないので知名度は低かった。実は僕自身も名栗エリアにツーリングで行くようになったのはここ15年ほどのことだ。それまでは秩父往復の裏ルートとして通過していたに過ぎなかった。過去に遡れば、小学生のときに遠足で来た程度の場所だった。
 そんな名栗でもっとも観光化が進んでいるのが有間ダムによってできた名栗湖界隈である。日帰り温泉施設や食事処、土産物屋などがあり、休日には家族連れなどの行楽客でにぎわう。また付近の川沿いにはキャンプ場も多くあり、バーベキューを楽しむ人たちが少なくない。
 名栗地区のメインルートは県道53号青梅秩父線だ。その名の通り、東京の青梅と埼玉の秩父とを結ぶ道で、途中にはかなりタイトな峠道もある。また、飯能市街からも県道70号飯能下名栗線がつながっている。まあ都内から行く場合、やはり県道53号線を走るのが便利なので、僕も青梅方面から県道53号線に入り、まずは名栗湖を目指した。
 名栗湖は1986年に完成した有間ダムによってできた人造湖で、堰堤上の道を中心に周回する道路もある。せっかくなので湖をぐるりと周回してみた。メインとなる北側の道は2車線の快適な道路になっている。途中には食事処と土産物屋のレイクサイドテラス名栗湖やカヌー、カヤックの店である名栗カヌー工房がある。しばらく行くと左に橋が現れる。この橋を渡って対岸へ進むと、南岸をたどって堰堤に戻ることができる。つまりこれが周回する道だ。北側の道と異なり南側は、センターラインもなく道幅も狭い。ワインディング性が強く見通しも悪いので慎重にカブを走らせる。バイクで走って楽しい道かといわれれば「いや別に」といった印象だが、まあ周回できるという良さはあると思った。
 一方、北側を走るメインルートをそのまま進んでいくと、有間峠を経て秩父さくら湖方面へと行くことができる。ただし、界隈の林道はすべて路体崩落などで通行禁止となっている。かつてはロングダートとしてオフロードライダーに人気の林道群だったが、一般車の乗り入れが可能となる日はおそらく来ないだろうと思う。
 堰堤上に戻ると、多くのライダーが休憩していた。平日でもかなりの台数があったのだから、休日ともなれば相当な数のライダーが押し寄せる。またこの堰堤上はフォトスポットにもなっているので、名栗地区定番の名所といえるだろう。
有間ダムによってできた名栗湖。堰堤上はフォトスポットとして人気だ
 有間ダムを後にして先ほど通過したレイクサイドテラス名栗湖に立ち寄った。文字どおりテラス席からは湖を眺めながら食事ができるので、ここで昼飯にすることにしたのだ。名物にはダムカレーがあるのだが、平日にはないので山菜そばで軽く腹を満たす。それにしても、湖を見ながらテラス席で味わうそばはまた格別だった。
レイクサイドテラス名栗湖は食堂と土産物屋になっている施設で、テラス席からは名栗湖を眺められる
観光施設であるノーラ名栗。敷地内にあるカフェ&ショップ「やませみ」では名物の名栗まんじゅうも販売 都心から1時間のグランピング&アウトドア体験 | 【公式】ノーラ名栗-Nolla naguri
さわらびの湯
有間ダムの下流にある日帰り温泉施設。ツーリング帰りに入浴してみるのはいかが? さわらびの湯公式サイト|日帰り温泉 天然温泉 埼玉 飯能市 名栗 – 埼玉県飯能市下名栗 日帰り天然温泉 さわらびの湯

山上にそびえる観音像を目指す

 県道53号線に出て秩父方面へ走る。少し行くと左手の山の上に三体の観音像が見える。気になっていた人も多いんじゃないだろうか。実は僕も以前から気になっていて、何年か前にバイクで行ったことがある。久々に今回も行ってみることにした。
 怪しい宗教施設かもしれないと、以前は勝手に敬遠していたのだが、よくよく調べてみると危惧するような怪しい施設ではなく、現埼玉りそな銀行の初代頭取だった平沼彌太郎氏によって30年以上もの歳月をかけて築き上げられたものだとのこと。正式名称を白雲山鳥居観音という。
 山内には山頂に建つ救世大観音をはじめ、本堂、玉華門、仁王門、大鐘楼、平和観音、玄奘三蔵塔などいくつもの建造物があり、想像以上に立派だ。
 上名栗の集落に入り少し行くと、鳥居観音の入山口がある。バイクの入山料300円を料金ポストに入れ、境内に進入する。いきなり急な坂道が始まる。滑り止め加工されたコンクリート舗装の道をグイグイ上っていく。スーパーカブ110だと時折1速ギヤへ落とさないと上れないほどの急坂だ。さらに急なヘアピンカーブなどもあってなかなかスリリングだ。ガードレールが設置してない箇所も多く、挙句の果てには未舗装となったところで山頂救世大観音に到着した。以前、房総にある東京湾観音に行ったことがあるが、それに比べると小ぶりな観音像が三体並んでいる。せっかくなので観音像前で休憩しながら眺望を満喫する。気分爽快である。名栗の絶景スポットに認定した次第だ。まあ僕が認定しなくても、埼玉百選に選ばれた観光名所なのだそうだ。一度行ってみてはどうでしょう?
白雲山鳥居観音
埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)の初代頭取や参議院大蔵委員長を務めるなど政財界に貢献した平沼彌太郎によって建立された。山内には救世大観音をはじめ、本堂、玉華門、仁王門、大鐘楼などがある。入山料:二輪車300円 鳥居観音
 飯能の山間部に位置する名栗地区は、いまも昔ながらの山村風景が残る心安らぐところだった。快走路と呼べる道があるわけじゃないし観光施設がたくさんあるわけでもない。でも山道を走りながら出会う風景に旅心が満たされる。気軽にツーリングで訪れるには最適なエリアのひとつだ。
走行距離:110km 燃費は約60km/Lだった。かかった費用は食事700円、入山料300円
名栗川橋
1924(大正13)年に建造された橋長31.4メートル、幅員3.9メートルの名栗川橋は、埼玉県内最古の鉄筋コンクリートのアーチ橋で、近代化遺産として埼玉県の有形文化財に指定されている
下名栗にある名栗郵便局の隣には、1929(昭和4)年築の旧局舎が残されている。左右対称の洋風建築でレトロクラシックな外観が中山間地で異彩を放つ