目次
Lamborghini Huracan STO
ウラカン STOのポテンシャルをサーキットで暴く

パナソニックブリッジの遙か手前ですでに270km/hオーバー。前走するインストラクター車両はスローダウンでブレーキングを促したが、そのまま行けば300km/hは確実か・・・。
このスポーツカーに最高速度などさして重要なことではないとわかっていても、思わず確認したくなる。それほどにこのエンジンは、五感をゾワゾワとくすぐってくる。
ランボルギーニ ウラカンの最終進化形態とも言える「STO」。これを富士スピードウェイで試乗した。
レーシングカーのDNAを受け継ぐ最強のロードカー

STOとは“スーパートロフェオ・オモロガータ”の略称であり、直訳すると「スーパートロフェオのホモロゲーションモデル」ということになるだろうか。それはこのウラカンが、ワンメイク用のレーシングカーである「スーパートロフェオ EVO」と、FIA-GTマシンである「ウラカン GT3 EVO」、この2台のDNAを受け継いだロードカーであることを意味している。
実際ウラカン STOの造り込みは、強烈である。いやただ強烈というのではなく、そこにはイタリアンメイドの生真面目さと最新のレーシングテクノロジー、そしてデカダンなデザインが共存している。だからランボルギーニは、面白いのである。
そのキャラクターを決定づける最も求心的な存在となっているのは、やはり5.2リッターの排気量を持つ自然吸気のV10エンジンだ。
ミッドシップかつハイパワーを後輪駆動で御すためのチューニング

90度のバンク角を持つこのエンジンは12.7の高圧縮と連続可変カムシャフトの制御によって565Nmの最大トルクを6000rpmで発揮させ、これを8000rpmまで回し続けることで640hpの最高出力を得ている。
面白いのはその最大トルクが565Nmと、スタンダードなウラカン EVOに対して35Nmほど低いことだが、ランボルギーニいわくそれは、サーキットでのリニアリティを最優先としたからだという。そう、このウラカン STOは2WDモデルであり、彼らは数字上のパワーよりもこれを後輪でコントロールする柔軟性に、フォーカスしたのである。
ピットロードをやり過ごし、1コーナーまでを全開で駆け抜ける。いくらトルクを絞ったとは言えその加速は強烈で、エンジンはトップエンドの8500rpmまで、あっという間に到達した。そのサウンドは野太くも高回転に行くに従ってトーンを高めて行き、シフトアップではデュアルクラッチが素早くその加速を紡いでいく。狭い車内は、まるで映画館のような大音響。フロントガラス越しの景色は、最高のエンターテイメントである。
低温時から効果を発揮するCCM-Rを採用したブレーキシステム

しかしそのスピードは、CCMーRローターによって瞬時に減速される。セラミック製ブレーキローターよりも高性能だというこのカーボン製ローターは、ややそのタッチが独特な硬さを持っていたが、低温時からきっちり作動してくれる柔軟性を持っていたことには好感を持てた。
ターンインでのステアフィールは、ポルシェのように剛直でもなければ、マクラーレンほど鋭くもない。どちらかといえば穏やかなキャラクターであり、操作に対する軽やかさを重視した印象だ。
もっともそれは、このウラカン STOが公道モデルであることを考えれば十分頷けるキャラクターであり、なおかつ今回は不特定多数のジャーナリストを乗せるために、そのリヤウイングが最もハイダウンフォースな位置で固定されていたことも、多少は影響していると思われた。
研ぎ澄まされたエアロダイナミクス

興味深いのはそれでも、このウラカン STOがなかなかに良く曲がることだった。そしてそこにはレーシングカー譲りのエアロダイナミクスと、後輪操舵が大きく影響しているようだった。
ちなみにそのフロントノーズには、スクアドラ・コルセが作り上げた「コファンゴ」(Cofango)と呼ばれるシステムがインストールされている。これはボンネット(イタリア語でcofano)とフェンダー(同parafango)を一体成形したコンポーネントで、ラジエーターへの空気流入量を増やしながらエアフローを整え、フロントセクションのダウンフォースを高める役目がある。もちろん一体成形されたおかげで、整備性の良さや軽量化にも貢献している。
さらにフロントフェンダーに設けられたルーバーは、タイヤハウス内の圧力を減圧する。そしてフロントリップのスプリッターは、床下からリヤディフューザーへと流れる空気を整流し、車体底面にダウンフォースを発生させる。まさに現代的なレーシングカーのエアロダイナミクスだ。
車重は僅か1339kg。徹底した軽量化を実現

さらにリヤセクションには大型のエアスクープを備え、エンジンへの吸気効率を向上。その背後にシャークフィンをも装備して、リヤウイングまでの空気を整えているあたりは実に“ランボ”らしい。またリヤフェンダーはスロープ状になっており、ドラッグを削減しながらテールエンドまでの空気を整流しているあたりも芸が細かい。途中に備え付けられるNACAダクトはエンジンのエアインテークとして機能し、ダクトの短縮化によって圧力損失を3割も低減しているのだという。
こうした結果からその空力効率は、従来比で37%向上。そのダウンフォースは、ウラカン ペルフォルマンテと比べて実に53%も増大した。また、アウターパネルは75%以上がカーボン製で、マグネシウムホイールや、20%軽量なフロントガラスの採用も併せて、車重は1339kgにまで低められている。
エアロダイナミクスと軽量化によるコーナリング性能の向上に加えて、ウラカン STOは後輪操舵をもってその回頭性を向上させている。ただしその効果は操作や速度域によって細かく調整されているようで、ドライバーによっては切り込むほどに良く曲がるという声もあったが、小舵角で運転している限り実に黒子的で、違和感のないサポートであった。
見た目とは裏腹に穏やかな操作で乗りこなせる

もっと言えば同じトロフェオモードでもESCをオフにすることで、その制御は先鋭化される。つまり本気モードで走らせるほどウラカン STOは、ドライバーの要求に忠実になっていくキャラクターらしい。
とはいえ今回はESCをオフにすることを禁じられており、一番要となるブレーキングからターンインにかけての素性を探ることは叶わなかった。モニタリングされたブレーキ温度の低さを見ても、ウラカン STOがその本性をさらけ出していないことは明らかだ。
もしこのCCM-Rローターの性能をフルに引き出してフロント荷重を高め、コーナーにアプローチしたら、ウラカン STOはどんなハンドリングを示すのだろう? 予想するにその穏やかなフロントサスをブレーキでコントロールしながら向きを決め、トラクションを掛けて曲がり込み、脱出していく走りになるのではないだろうか。
そう考えるとウラカン STOは、その強烈なサウンドやパワー、アピアランスとは対照的に、とても穏やかな操作で乗りこなすハイパースポーツだと言えそうだ。少なくともフロントエンドのグリップ力で、パキパキと曲がっていくタイプではない。
これは公道走行可能なアルティメット・クラブスポーツだ

もっともそのスピードレンジはべらぼうに高いため、退屈なんて言葉はない。スムーズに操作をしながらもリヤタイヤのスリップアングルを感じながら走らせるという、ハイセンスな運転が求められ、楽しめるのではないかと思う。ときおりそのトルクにテールを震わせることもあるが、基本的にリヤのスタビリティは安定しており、ミドシップゆえにトラクションも高い。
ちなみに今回その足下にはブリヂストン「POTENZA SPORT」という、欧州/北米仕様のハイパフォーマンスタイヤをウラカン STO用に専用チューニングしたタイヤを履かせていた。そして求めれば、さらにトラック性能を特化させた「POTENZA RACE」も用意しているとのことだったから、これを履いてリヤウイングの迎え角をよりポジティブにすれば、ウラカン STOはさらに尖った顔を見せるのかもしれない。そして今のところそれは、オーナーにのみ許された特権である。
言ってみればこのウラカン STOは、ランボルギーニからの贈り物だ。迫り来る電動化を前に、その技術の粋を集め、ピュア・ガソリンスポーツを楽しむために作り上げられた、公道走行可能なアルティメット・クラブスポーツである。
REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/ランボルギーニ・ジャパン
【SPECIFICATIONS】
ランボルギーニ ウラカンSTO
ボディサイズ:全長4547 全幅1945 全高1220mm
ホイールベース:2620mm
乾燥重量:1339kg
エンジン:V型10気筒DOHC
総排気量:5204cc
最高出力:470kW(640ps)/8000rpm
最大トルク:565Nm(57.6kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前245/30R20 後305/30R20
0-100km/h加速:3.0秒
最高速度:310km/h
車両本体価格(税込):4125万円
【問い合わせ】
ランボルギーニ カスタマーセンター
TEL 0120-988-889
【関連リンク】
・ランボルギーニ 公式サイト
http://www.lamborghini.com/jp