獰猛な肉食系「SAC」! BMW X4 Mコンペティションの本性を暴く

BMW X4 Mコンペティションのフロントスタイル
BMW M社が手掛けたハイパフォーマンスモデル「X4 Mコンペティション」がマイナーチェンジ。従来のSUVカテゴリーに当てはまらない「SAC」の本領を確かめる。
BMWのミドルサイズクーペSUV X4に“M”の名を冠した最強モデルが加わった。エレガントなエクステリアデザインを纏うX4 Mコンペティションだが、心臓部には510ps/650Nmを叩き出す3.0リッター直6ツインターボを搭載する。暴力的なほどの加速力とスーパースポーツ並の走行性能を味わってきた。

BMW X4 M Competition

BMW MのSUVモデルは、M3やM4のオルタナティブ足りえるのか

速いハコ車はスポーツカーのオルタナティブ足りえるか? そんな疑問に対するポジティブな答えを提示したのは、BMWのE30型のBMW M3だったはずだ。これと似た今どきの疑問は、BMW MがリリースするSUVモデルは、M3やM4のオルタナティブ足りえるのか、だと思う。

BMW M社が背の高いモデルにまで守備範囲を広げたのは2019年のこと。最初はなんとなく釈然としなかったことを覚えている。アシまわりや見た目をM風に仕立てただけのモデルなのではとも疑ったが、エンジンの型式をチェックすると本物のMモデルであることを示すSの文字が確認できた。ステアリング・スポークの左右に赤い独立したMボタンも確認できる。これは現代における真正Mモデルのわかりやすい証なのである。

デビュー当時に試乗できたのはX3 Mコンペティションの方だった。見た目にそこまで強いインパクトは感じられなかった。だが箱根ターンパイクで試乗した限り、510psという最高出力に対するシャシー側のキャパシティはちゃんと確保されていた。だがそれでも、これがMか? という問いには、自信をもって「YES!」と言えない歯切れの悪さも残った。BMWのMなのだから、スペック的な整合性を越えた「何か」を期待せずにはいられない。もちろんその何かとは破綻寸前を思わせる、目いっぱいのドライビングファンに他ならないわけだが。

インフォテイメント及びADASをアップデート

今夜の主役はマイナーチェンジが施されたX4 Mコンペティションだった。サンパウロイエローの飛び切り明るい塗色が新たなイメージカラーになっているようで、オフィシャルウェブサイトなどで何かと目にすることが多い。そういえば以前試乗したM4クーペも同じボディカラーに塗られていた。これはおそらくE36型M3のダカールイエローに対するオマージュなのではないか? だとすれば上手いアイデアだと思うのは僕だけだろうか?

今回のマイチェンはインフォテインメントやADAS系のアップデートが主だという。つまりエンジンパワーやアシのセッティングはこれまでのモデルと同じはずだ。

実際に夜の都心をゆっくりと流している限り、印象は以前のX3 Mとそう変わらなかった。乗り心地は硬いけれど、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sのおかげか、とりあえずストロークしはじめの角は取られている。普段使いも辛うじてできるギリギリのセンだと思う。

はたして試乗車のS58ユニットは「当たり」だったのか?

相変わらず太く、そして重いステアリングのダイレクト感は相当なもので、フロントのトレッドがワイドに感じられる。ステアリングを切ったら切っただけ躊躇なく曲がる。こうなるともう少しホールド性の高いシートが欲しくなるが、とはいえいつもこんな荒っぽい走り方をするオーナーは多くないだろう。Mの文字が発光しているこのシートが、おそらくちょうどいい塩梅なのだろう。

X4 Mコンペティションに対する印象ががらりと変わったのは、空いた首都高に合流してからだった。右足の一踏みで一気呵成に加速する。リヤが沈むでもフロントが浮くでもなく、強烈なGで体がシートに押し付けられる。ラグのなさは、まるでBEVのよう。そこに刺激的な効果音がプラスされている感じなのだ。

とっさに頭を過ったのは試乗車のS58ユニットが「当たりエンジン」なのではないかということ。S58ユニット搭載車を試すのは今回で5台目になる。だが体感的には今回のパワーだけが図抜けている。510psは軽く越えているはずだ。真冬だからパワーが出ているというのも理屈としては正しいはずだが、それだって体感できるほどではないはず。

追従性の良さが際立つ足まわり

幾つかのコーナーをやり過ごした後では、リヤの追従性の良さが印象に残った。せっかちな感じでコーナリングを終えた場合、凡百のSUVならば少し遅れてリヤのロールが起き上がってくるものだが、X4 Mにはそれがない。以前のX3 Mでもここまですっきりはしていなかったはず。あれは勾配がきつい箱根ターンパイクが影響していたのだろうか。

SUVクーペ風のなだらかに下降するルーフラインのおかげで重心が低められている? これだって眉唾ものだろう。何しろ車高はX3 Mより5cmほど低められているが、車重は同じなのだ。単にアダプティブMサスペンションのアシ捌きが見事なだけかもしれない。

MボタンでX4 Mコンペティションは無敵のスポーツカーに変貌する

エンジンのキャラもシャシー側のキャラもそれぞれが際立っているが、高いレベルで調和してもいる。だからX4 Mコンペティションのドライビングは文句なしに刺激的だ。ドライビングモードをステアリング上の赤いMボタンで一発変換し、さらにシフトスピードも最速にするといよいよ無敵の境地に達する。

2年以上も前のX3 Mコンペティションの記憶は何の根拠にもならないのだが、ひとつだけはっきりしている事実がある。X4 Mコンペティションならば、M4のオルタナティブ足りえるということである。

xドライブらしく、コーナーの立ち上がりに妙な4駆臭も漂わない。だからサーキットのスポーツ走行で限界性能に触れてみるというのも、モトを取るためのいい手段だと思う。

BMWが声高に主張してきたSAC(スポーツアクティビティクーペ)という呼び名に、ちょっとした違和感を覚えていたが、X4 Mコンペティションならありだろう。BMW M謹製の1台をSUVにカテゴライズすることなど到底できそうにない。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2022年 4月号

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第8回:vs BMW M4クーペ編】

池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第8回:vs BMW M4クーペ編】

近代ライトウェイトスポーツの代表でもあるA110Sと発売されたばかりのM4はどんなバトルを見せてくれるのだろう・・・箱根の地を舞台に池沢先生が両車のステアリングを握り、その実力に迫る。

【SPECIFICATIONS】
BMW X4 Mコンペティション
ボディサイズ:全長4760 全幅1925 全高1620mm
ホイールベース:2865mm
車両重量:2020kg
エンジン:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/40R21 後265/40R21
燃料消費率(WLTC):9.1km/L
車両本体価格(税込):1365万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437

【関連リンク】
・BMW 公式サイト
https://www.bmw.co.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…