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Porsche Taycan
ワクワクするEVで前人未到の挑戦へ
4000kmにもおよぶ「K2K」は道が悪く、どのようなクルマでも大変な難所の連続だ。地元のベテランドライバーでさえ、この悪名高いルートをあえてEVで挑戦するなんて考えもしなかっただろう。
しかし、2021年8月、『オートカー・インディア(Autocar India)』のジャーナリストチームは、同誌の創刊23周年を記念し、ポルシェ タイカンでK2Kへ挑戦を決定。その様子をソーシャルメディアを通じてリアルタイムで配信することになった。
タイカンは2020年からインドでの販売をスタートしており、ポルシェにとってもインド全土での認知度を高め、さらに電動化をアピールする絶好の機会である。オートカー・インディアのデジタルエディターで、今回ドライブを担当した4名のスタッフのひとり、ギャビン・ダソーザは今回のチャレンジの目的について次のように説明した。
「インドでは、電気自動車は比較的新しい交通手段です。多くの人がこの乗り物に興奮しますし、少し恐れているようです。そこで私たちは、ちゃんとした計画と想像力があれば、電気自動車で4000km以上走れることを証明できると考えました。タイカンはこのチャレンジに、ダイナミズムを加えてくれました。やっぱり、K2Kを電気自動車で走るなら、ワクワクするようなクルマでやりたいですから(笑)」
あらゆる走行環境が網羅されたルートを策定
今回の挑戦にあたり、チームはインド全国に点在する充電スポットを確認できる「チャージングアプリ」を活用し、入念にルートを策定した。その結果、10の州を通過し、様々な地形を網羅したコースを設定。ルートには山岳路、高原、砂漠、都市が混在し、考えうるあらゆる試練がタイカンと、そのドライバーに襲いかかることになった。
「ムンバイに近づくにつれて、このチャレンジが現実のものだと、痛感させられることになりました(笑)。モンスーンの影響で道路が完全に流されてしまったからです。ありがたいことに、インドに入っているタイカンは、全モデルに『スマートリフト』が搭載されており、車高を上げることで、何度も救われました。パンジャブでは、ドアの高さまで水が入り、正直、EVなので心配でしたが、タイカンは問題なく走行を続けてくれました」と、アシスタントエディターのジェイ・パティルは振り返る。
インド・フレンドリーなタイカン
オートカー・インディアの2代目ビデオ編集長を務めるニヒル・バティアは、最終レグを担当。マシンを引き継いだ時、「この段階からでも何が起こるか分からないぞ……」と気持ちを引き締めたという。
「道やコンディションについて、心配な話をたくさん聞いていたのですが、実際は運良く旅の中で最高のドライビングロードを走ることができました。実際、とても楽しかったです。タイカンのハンドリングは素晴らしく、抜群のスピードを持っていることは予想していました」
「ただ、これほどまでに“インド・フレンドリー”だったとは予想外でした。それが、今回のドライブで得た大きな収穫のひとつです。都市交通をメインターゲットとしているタイカンにとっては、あの悪路は本当に地獄のようだったかもしれませんね(笑)。カイエンでさえも場違いだと感じるような道路を、最後まで走り抜けたのですから!」
タイカンがもたらした省電費追求走行の楽しみ
前述のように、モンスーンの影響もあり、ムンバイには2日間の滞在を余儀なくされた。そもそも、高速道路のかなりの部分が土砂崩れで流されたため、スタート自体も1日遅れている。しかし、この旅において、時計は決して重要なファクターではなかったとダソーザは振り返る。
「今回はラリーではありませんし、時間との戦いではなかったのです。ただただ、気持ちの良いドライブを楽しみました。私たちはクルマ自体を、そして旅を堪能しました。そして、こんなことを自分が言うとは思いませんでしたが、電力を節約するための努力が楽しかったのです。旅のいくつかの直線区間では、1kWhで7.1kmも走行することができました」
インドにおけるタイカンへのリアクション
今回のロードトリップのもうひとつの目的は、まだ珍しいタイカンに対するインド国内での反応を調べることにあった。結果、都市部から農村部まで、そしてあらゆる年齢層の人々に対して、タイカンは普遍的にポジティブな印象を持たれていることが分かったという。
「確かに地域によって、電気自動車に対する反応に違いがありました。小さな町や田舎では、どんなタイプのポルシェでも、ましてやフローズンブルー・メタリックのポルシェは、驚きの存在です。電気自動車であること、そして長旅であることを説明すると、さらに驚きの声が上がりましたね」と、ダソーザ。
「デリー、ムンバイ、バンガロールなどの大都市では、ポルシェは驚きの存在ではありません。でも、都市部の人々であっても、私たちがEVでこれほどのロングドライブに挑戦していることには驚いていましたが(笑)」
「どの充電ポイントでも、人々がやってきて、クルマと一緒にポーズをとり、喜びの表情を浮かべていました。それの様子を見るのは、チームとしても嬉しかったです。初めてポルシェを見た子供の頃の自分を思い出せば、その強烈な思い出はずっと心に残ると知っていますから……。フロントガラスの向こう側の光景を、今回あらためて体験できたのも素晴らしかったです」と、バティアは付け加えた。
巨大風車が回るカンニヤークマリでゴール
この“危険な”大冒険では、オートカー・インディアにおいて、ロードテスターを務めるラーフル・カカーがサポートカーをドライブ。何かアクシデントが起こった時にサポートすべく、先行するタイカンを、全てのルートで追い続けた。しかし、結果的に一度もサポートカーからの助けを借りることなく、タイカンは4000kmを走り切った。
「私はずっとサポートカーにいました。水没した道路においてでさえ、タイカンがどう攻略するのか、じっくりと観察することができましたからね(笑)。本当に素晴らしい経験になりましたよ」と、カカーは笑う。
最終日、インド大陸最南端のカンニヤークマリに到着。そこは、先進的な風力発電タービンに囲まれた、不思議な空間が待っていた。巨大な風車を前にタイカンが走る姿は、まるで何かの「儀式」のようだったと、参加クルーは振り返っている。