目次
Land Rover Range Rover Sport
Dynamic HSE D300
ひと世代先のレンジローバーのように
鉄仮面のような面構え。それが新型レンジローバースポーツの第一印象だった。ヘッドランプとグリルが、フォグランプとロワーグリルのように薄く、しかし壁のように立ちはだかるフロントマスクの表面積は相変わらず広大だ。
歴代のレンジローバースポーツは、「SPORT」と書かれたエンブレムに頼ることなく、黒塗りのルーフとシルエット等によって本家との違いをアピールしてきた。今回のスポーツはフラッシュサーフェイス化されたサイドビューこそ本家に酷似しているが、精悍なマスクとキュッと絞られて切り上げられたテールエンドによってひと目でスポーツとわかるオーラを身に着けている。
外観から受ける質感の印象は、歴代のレンジローバースポーツの中で今回が最も高いと感じた。これまでのスポーツはフォーマルな本家レンジローバーに対して明らかにカジュアルな印象で、それがちょっとした遠慮のようにも感じられた。だが今回は、直線的なプレスラインと黒く落とされたアクセントによりひと世代先のレンジローバーを見ているような目新しさがある。
振り返ってみると、初代レンジローバースポーツと出会った際の印象は芳しいものではなかった。よく知られているように、SUVの世界にスポーツという概念を持ち込んだのはレンジローバーではなくポルシェだった。それに遅れること3年で登場したレンジローバースポーツは走りこそワイルドに仕立てられていたが、クルマ全体の質感は本家に遠く及ばないものだった。
ディスカバリー3の骨格を切り詰めてレンジローバー風に仕立てた1台。スポーティなSUVが登場しはじめた頃の市場を考えれば「その程度の仕立て」で十分だったのかもしれない。だがスポーティなSUVの評価の高まりを踏まえた2代目は、プラットフォームを本家と共有することでレンジローバー・ファミリーの幅を広げることに成功している。
AWDとはなんたるかを教えてくれる
3世代目となる今回はいよいよ、前衛的な見た目が本家レンジローバーよりも未来的な雰囲気を醸し出している。ではその中身はどのような進化を遂げているのだろう?
コクピットは当然のようにデジタル化が浸透している。これまでのセンターモニターは辛うじてダッシュパネル内に収まっていたが、今回はそれを飛び出して大型化された。
ステアリングも本家の4本スポークから3本スポークに変わっていたが、一見したところそれ以外のインテリアに関してレンジローバーとの大きな違いは感じられなかった。ひとつだけ「?」と感じたのはシフトレバーだ。ひと世代前ならば、レンジローバーはダイヤル式、スポーツは細身でスポーティなレバーで差別化されていた。それが現行ではどちらも大きく丸まった猫の手のようなおとなしいシフターに逆戻りしていたのだ。斬新なシフターを世に問うてきたランドローバーだけにこれは残念なポイントだった。
箱根に向かう道中、ごく普通のペースで走る新型レンジローバースポーツの走りは、言い方は悪いけれど「フツー」だった。というのも、昨年デビューした5代目のレンジローバーの走りが、個人的には図抜けてすばらしいと感じていたから。それと比べると新型のスポーツは可もなく不可もなくという感じなのだ。
スポーツモードがオススメ
近ごろ試乗するSUVといえば圧倒的にドイツ物が多い。ドイツのそれはセンターデフの進化に合わせるようにどんどんとリヤ寄りの駆動配分にシフトしており、すっきりとしたハンドリングを示すようになっている。ところがレンジローバーの場合は、ことスポーツに至っても「AWDとは何たるか」を説くように4輪にしっかりとトラクションが掛かっていることを感じさせる。これは機構的なものに左右されない、ランドローバーの矜持なのだろう。
麓が近づいたので少しずつペースを上げていくと、「スポーツ」の部分が際立つかと思いきや、実際は逆だった。4輪の動きにまとまりがなく、段差を乗り越える度にバネ下の暴れが気になる。ドライブモードをコンフォートからオートに変えてみても大した改善は見られなかった。アシの動きにまとまりがないだけでなく、エンジンも含めたクルマ全体に組み上げ時の硬さが残っているような感じなのだ。オドメーターに刻まれた2500kmほどの走行距離でどのようなランニングインをしたのかが関係しているのかもしれない。
ところがドライブモードをスポーツにしてみると、ようやく変化が現れた。しかもこれが劇的にイイのだ! エアサスが程よく引き締まり、4輪の動きに調和が感じられるようになり、にもかかわらず乗り心地が少しも悪くなっていない。だったら普段からずっとスポーツモードでいいんじゃない? というくらい。
新型レンジローバースポーツのパワートレインは3.0リッター直6MHEVのディーゼルとガソリンが用意されており、今回試乗したモデルは最高出力300PSのディーゼルの方。そのトルク先行型のやさしいパワー特性も、スポーツモードの足さばきとよく調和がとれている。
高まった快適性
なぁんだ新型レンジローバースポーツ、いいじゃないか! となった直後に、「でもこれだったら本家レンジローバーと大して変わらないかも」とも思った。肝心かなめの「スポーツ」のキャラクター作りが弱いように感じたのだ。その代わりと言っては何だけれど、ハンドリングの穏やかさ、ラグジュアリー性能の部分は先代のスポーツより格段に厚みを増した感がある。
思い返してみると、昨年フルモデルチェンジした5代目レンジローバーに試乗した際は、今回とは逆のようなことを感じた。レンジローバーらしいしっとりとして重厚な乗り心地だが、しかしペースを上げてみても重ったるさが感じられなかった。それどころか車体全体が軽く硬く感じられ、ラグジュアリーからスポーティまでの性能幅が増していたのだ。そしてこう思った。本家がこれだけスポーティに走れるのであれば、レンジローバースポーツの居場所はあるのだろうか?
現行のレンジローバーとレンジローバースポーツはともに、最新のアルミニウムアーキテクチャーであるMLA-Flexを採用している。その最大のメリットはPHVやフルEVへの対応なのだが、もちろんクルマ全体の質感の向上にも大きく貢献していることは間違いない。
シャシーやギヤボックスの性能が飛躍的に高まったことでキャラクターが薄まって感じられるという現象はSUVだけのものではない。ここ10年くらいはスーパースポーツやセダンも一様にラグジュアリー性能とスポーツ性能がともに高まったモデルが多いのである。
そして新型レンジローバースポーツに関していうと、これは歓迎していい部分なのではと思った。今回のフルモデルチェンジに際し、ランドローバーが用意した大胆なプロモーションビデオを目にした人は多いのではないだろうか。
エクストリームとラグジュアリー
赤いレンジローバースポーツがアイスランドにあるダムの放水路を駆け上がっていくものだ。ここでランドローバーがアピールしたいのは新型レンジローバースポーツの並外れた走破性ではなく、エクストリーム性能とともに備わったラグジュアリーな部分。このビデオを見てから新型レンジローバースポーツのステアリングを握った人が必ず感じるであろうギャップこそが、このクルマを魅力的に見せるのだと思う。
レンジローバースポーツに本当のスポーツ性能を求めるのであれば、今後上陸を果たすはずのV8モデルやSVRのようなスペシャルな1台を選べばいい。だが多くの人にとってのレンジローバースポーツは、スタイリングが飛び切りシャープで、しかし性能的な奥深さは本家レンジローバーと比肩しうるレベルにある現在のラインナップで十分にこと足りると思う。
REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年4月号
SPECIFICATIONS
ランドローバー・レンジローバースポーツ ダイナミックHSE D300
ボディサイズ:全長4960 全幅2005 全高1820mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2530kg
エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2993cc
最高出力:221kW(300PS)/4000rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/1500-2500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後285/45R22
車両本体価格:1296万円
【問い合わせ】
ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
https://www.landrover.co.jp/