トヨタ新型ランドクルーザー250デザイン評1

トヨタ新型ランドクルーザー250に、サムライを見た!

トヨタ新型ランドクルーザーの初期アイデアスケッチ
先日行なわれた新型ランドクルーザーの発表会。その姿は、サムライ?! 新型ランドクルーザー250をデザインの観点から見ていこう。

TEXT:松永 大演(MATSUNAGA Hironobu) PHOTO&FIGURE:TOYOTA

コンセプトは「原点回帰」

発表会場で目の当たりにしたランドクルーザー250は、まさに侍(サムライ)の姿をしていた。と、自分は感じてしまった。ボディは決してマッチョではなく、どちらかというとマラソンランナー。余分な部分を削ぎ落とされ、太い骨と必要にして充分な筋肉が露わになっているような佇まい。フロントピラーは立ち上がり、ホイールアーチは多角形に大きく開くものの、重厚というより軽妙。全体的には和装を着流しているように感じられ、寡黙ながらそこはかとなく頼もしさが滲み出ている。

「ランドクルーザーのデザインにとって、必要なものは何なのか?」

じつはこのクルマは、ここから考えた方がデザインの成り立ちはわかりやすい。

奇しくもその問いに、今回のホスト役となったトヨタ自動車株式会社 執行役員 デザイン領域統括部長Chief Branding Officerのサイモン・ハンフリーズ氏は、「それは機能です」と迷わずに答えてみせた。

初期のアイデアスケッチ。過去モデルの知見に学んだ、機能由来かつモダンで新しいランクル像を追求したという
デザインは単に形のいいものを作るのではなく、機能のためになければならない。というより、クルマのデザインとは本来そうしたもの。機能的な問題の解決手段であるべきなのだ。さらにこうしたクロカン(クロスカントリー)四駆こそ、機能をデザインしなければならない

クロカン四駆の歴史はおおよそ軍用のジープからはじまるが、独立したフロントフェンダーやリヤのホイールアーチの形は、輸送の際にその上にもう1台載せられるようにするためでもあった。フロントウインドウが畳めるのも、迎撃の目的もあるが、輸送の際に邪魔にならないようにという狙いもクリアしている。またジープの初期モデルのヘッドランプは、フロントグリルより奥に設置されているが、これも夜間走行する際に上空から発見されにくくするためだったという。エンジンを起動させるセルモーターのスイッチは、ペダルの脇についており、いちいちキーシリンダーを回さなくても良いように工夫されていた。

シープとしてどういう機能が必要かを洗い出し、それを使いやすいように形にまとめる。これもまさにデザインの仕事だ。しかしこれらは軍用の話。現在の四駆にとってはどのようなことが必要なのか。

じつは、そうした一般論のお経を唱えるまでもなく、新型ランドクルーザーにはその大半が盛り込まれていた。

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2023年8月3日。ワールドプレミアとして、その姿をこの目で確かめることができた。この解説の前に断っておくが、このモデルはすでに発表されている新型レクサスGXと同じプラットフォーム(GA-F)とほぼ同じサイズのボディを持っている。異なるのはボンネット、フロントグリルまわり、前後バンパー、フロントフェンダー、リヤゲートそしてクラッディング類など。しかし異なる理由は単なるブランドごとの差別化ではなく、機能に由来している。もっといえば、基本的なボディの持つ機能はランクル、GXともに必須。そして両者の違いは使われるフィールドやライフスタイルによって生まれている、という理解が正しいと思う。だからこうして、最高のランクルと最高のGXが生まれてきたのだ。

コンセプトは「原点回帰」。ランドクルーザーの進化のなかで生まれた「プラド」という名前さえもリセットして考えたという。ランドクルーザー250を見たとたん、感動が沸き起こった。それはベルトラインの低さだ。それこそこの造形を見ただけで、新しいランクルがなにをやりたかったのか、そのすべてわかると言っても過言ではない。

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徹底した開発

ベルトラインとはサイドウインドウの下の部分のことで、従来型のプラドに比べて3cm下げたという。その理由は、クロカン四駆に詳しい方ならすぐにわかるはず。道なき道の悪路などで、身を乗り出して前後輪の状況を把握しやすくするためだ。余談だが、ランドローバーも同様の考えを持っており、初代レンジローバーをはじめとしてサイドウインドウ越しのドライバーは、腰からすぐ上が見えるほどベルトラインが低かった。ところが、初代イヴォーク以来その伝統は消え去り、スポーツカーのような肩まで埋まるほどのポジションになってしまったことが、個人的には唯一の残念なポイントだった。

話を戻すと、併せてランクル250ではタイヤも外へ張り出すことで、動的安定性とともに、デザイン上の安定感、安心感を高めている。そして同時に、身を乗り出した時にタイヤの位置をわかりやすくしているのだ。このように、視界に関しては徹底した開発が行なわれたという。ボンネット先端まで見えるように、最前部、左右の造形を吟味して見切りをよくしている。また後方視界も同様。最近ではカメラ&モニターによって盤石の視認性をもっているが、ランクル250では目視の視認性の高さに力を入れた。

フロントピラー付け根もドライバー側に大幅に引いて、前方視界をさらに広げた。ホイールアーチは弧というよりは大きな多角形で、ホイールハウス内に手を入れやすくして内部の泥などを取りやすいようにしている。

おわかりだろうか、いまの説明で概ね全体のプロポーションとウインドウグラフィックが構成できてしまう。ここまでは、このクラスのクロカン四駆であればその狙いは同一。むしろどこかを我慢することなど許されない。なのでランクル250とレクサスGXは同じなのだと思う。

そしてここから、ランクルならではの使い方という視点による造形が生まれてくる。道なき道の走破から、ブッシュなどによるヘッドランプの破損はできるだけ避けたい。そのため、ヘッドライト周りは高く、そして内側へ。フロントバンパーはかなり傷つきやすいので、分割式として部分的に交換が可能な仕立てに。さらにホイールアーチやボディ下部も傷つきやすいことから、無塗装のクラッディングが採用されている。しかしこうした造形は、レクサスにとってはトゥーマッチと言えるもので、GXならばそこまでの場所に行かない。むしろハイウエイや街中の用途が高まることから、より洗練された都会的な景観にマッチする造形を取り込んでいる。

写真で見るランクル250はかなりフラットでプレーンな印象なのだが、実際に見てみると微妙な抑揚がこのボディに確かな生命を与えていることがわかる。このあたりがお伝えできないのが残念なのだが、今回CBOのサイモン・ハンフリーズ氏とともに、チーフデザイナーの渡辺義人氏に話を伺うことができた。ランクル250のより深い話は、第二弾としてレポートしたいと思う。

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…