内燃機関超基礎講座 | 過給エンジンの四半世紀を振り返ってわかること——最大トルク発生の「始点」は低回転へ
- 2020/10/05
- Motor Fan illustrated編集部

かつてのターボ車は過給圧がいきなり高まったため「ドッカンターボ」などと言われた。しかし、現在の過給ダウンサイジングエンジンにそのような性格はあまり見当たらなくなった。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

80年代半ば以降、国内には多くの過給エンジン車が登場した。そのほとんどが日本車だった。一時期は「ターボかDOHCか」でクルマ好きの間に論争が起きたが、DOHCターボの登場で議論が終わるという微笑ましい出来事もあった。当時の過給エンジンは、あきらかに「モアパワー」志向だった。ベースエンジンの排気量にもよるが、2500~4000rpmが最大トルク発生回転数であり、高回転まで回すエンジンだった。「上まで回らないとスポーティじゃない」と言われた時代である。

それから四半世紀が過ぎ、過給エンジンの需要中心地は欧州へと移動した。80年代の欧州は、ターボとDOHCはほんの少数派だった。エンジンにも「階級」があり、一般大衆向けは自然吸気SOHCだった。左のグラフに示したのは最大トルク発生回転の「始まり」であり、ここを起点にかなり上の回転数まで最大トルクが維持される。発生トルクの絶対値も25年前に比べると明らかに大きい。しかもベースの排気量は小さい。このふたつのグラフこそ、過給エンジンの変化と進歩を物語っている。
80年代のターボと現在のターボを部品単体で比較すると、現在のほうが小さく、軽く、しかも工作精度が高い。ベアリングのスペックも上がっている。つまり、排気流速が低いところから回転を始めるのに適した部品へと進化したわけである。その結果が、上のふたつのグラフである。現在の過給エンジンは、1200rpm前後で過給圧が発生し始め、その直後に最大トルクになる。そして、最大トルクがかなり上の回転数まで維持される。特別な用途のクルマのための過給エンジンではなく、日常生活のなかで扱いやすく、しかも排気量が小さく、燃料費も含めた維持費も安上がりという「普段乗り」エンジンになった。
市販車にターボを持ち込んだのは欧州だったが、それを日本が大衆化し、スーパーチャージャーまでを含め、より多くの車種に積んだ。しかし、ターボ車は「大ガス喰い」との烙印を押され多くの搭載車が姿を消した。一時期、ターボはディーゼルとの組み合わせが中心になったが、ガソリン直噴技術と電子制御スロットルの進歩、変速機との統合制御という新たな武器を得て欧州で復活する。それが2012年のグラフ内に示された過給エンジン車なのである。
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