「高かった。でも、欲しかった」──クレンツェは憧れそのものだった

ウェッズのフラッグシップブランドとして、長年ドレスアップシーンを牽引してきた「クレンツェ」。現在もベルテーラーやヴェルサム、さらには名作のリバイバル、バズレイアIDなど、ブランドの世界観を色濃く反映したモデルを毎年発表し、高級3ピースホイールの代名詞として多くのファンを魅了し続けている。

最新モデルが登場するたびに話題を集める一方で、歴代モデルを今なお愛用するオーナーが多いのもクレンツェならでは。その理由は、単なるデザインや知名度だけではない。ユーザーの憧れを集め、”いつか履きたいホイール”として特別な存在であり続けたブランドの歴史があるからだ。

では、クレンツェはなぜそこまで人を惹きつけるのか。その答えを探るべく、2000年代のドレスアップシーンをユーザーとして駆け抜け、現在はカスタムショップのエスイズ代表として活躍する清水さんに話を聞いた。

2000年代前半といえば、ドレスアップシーンは今以上に熱気に満ちていた。エスティマやオデッセイ、ステップワゴンといった人気車種をベースに、いかに深いリムを履かせるか、いかに太いホイールを収めるか。アーム交換やフェンダー加工も当たり前という時代だった。

「当時はウェッズ、ワーク、SSR。この3ブランドが特別な存在だったよね。そのなかでもウェッズのクレンツェは高級感とデザインの個性が際立っていて、『やっぱり高いよな』というイメージがあった。でも、その”高い”ということ自体がブランドの価値だったんです」

そんな清水さんが特に衝撃を受けたのが『ラピア』だったという。

「ディスクがリムに映り込むあの雰囲気が本当に好きで。他にはない独特なデザインだった。当時はディッシュやフィン、スポークといろんなデザインが出始めた頃でしたけど、ラピアは一目見て『これしかない』と思いました」

2002年に発売された「スタイルワゴンVIP大カタログ」へ掲載された清水さんの愛車。当時人気絶頂だった王道のVIPスタイルを初代ステップワゴンで具現化。装着されたホイール“クレンツェ ラピア”は、フロント9.5J、リア11.5Jのリム幅で、リアホイールのリム深度は160mm超え!

【Kranze RAPIER(クレンツェ・ラピア)】

2000年代初頭に登場した「ラピア」は、ディッシュデザインをベースに新たな表現を取り入れた、当時としては革新的な3ピースホイール。大胆な面構成を持つディスクに7本のスリットを刻むことで、ディッシュ特有の重厚感を残しながらも、スポーティな躍動感をプラス。単なるディッシュでも、スポークでもない、その独創的なデザインはクレンツェならではの存在感を放っていた。さらに、深く取られたリムとの組み合わせによって生まれる立体感も大きな魅力で、見る角度によって表情を変える造形美は、多くのユーザーを虜にした。既存のディッシュホイールとは一線を画すデザインは、まさにクレンツェの挑戦を象徴する一本だった。

「一度履いたら戻れなかった」──人生を変えた一本との出会い

「イベントへ参加するユーザーにとって、毎日のように考えていたのが愛車のリメイク。次のイベントへ行くときはバンパーを加工する。その次はフォグランプを変える。もちろんホイールも。そうやって仕様を進化させていくのが楽しかった」

そんなカスタムライフのなかで出会ったのが、クレンツェ・ラピアだった。

「ラピアを履いたら、ホイールはやっぱりクレンツェしか考えられなくなりました。一度履いてしまうと、もう他のブランドに戻る感覚がなかったんですよね」

そして、次に愛車の足元を飾ったのが、クレンツェ・ケルベロスⅡ。ブランドへの憧れは、一度きりでは終わらなかった。

それは単にホイールを気に入ったという話ではない。当時のクレンツェは、クルマ好きにとって”目標”であり、履くことそのものがステータスだった。

イベント会場では、少しでも深いリムを履かせるために足まわりを加工し、フェンダーを叩き出し、理想のツライチを追い求める。全国のイベントを転戦し、雑誌掲載を目標に仕様変更を繰り返す──そんな熱い時代だった。

「当時はイベントで『リム深いですね』って言われるだけでうれしかったですからね(笑)。あの頃は自己満足でもあり、自己表現でもあったんですよ」

その熱量は、20年以上経った今も変わらない。

取材で訪れたエスイズの店内には、当時雑誌に掲載された愛車の写真が額装され、大切に飾られていた。そこに写っていたのは、クレンツェ・ケルベロスⅡを履きこなし、全国のイベントを駆け巡っていた頃のステップワゴン。雑誌掲載は、当時のカスタムユーザーにとってひとつの到達点。当時の写真を今も大切に飾り続けていることが、清水さんにとってあの一台がどれほど特別な存在だったのかを物語っている。

「当時は本当に雑誌に載ることがうれしくて。イベントに行って、仕様を考えて、また作り直して……。クルマ中心の毎日でしたね」

クルマを乗り換えても、仕様が変わっても、足元だけはクレンツェを選び続けた。その理由をあらためて尋ねると、清水さんは少しだけ笑って、こう答えた。

「やっぱり、クレンツェだったからですよ。」

飾らない一言だった。しかし、その言葉には、ユーザーとして憧れ、履き続け、そして今なお愛し続けるブランドへの想いが凝縮されていた。

2002年「スタイルワゴンクラブ」に掲載されたステップワゴン。当時はとにかくリメイクの繰り返し、そんな時代だった。なかにはイベントへ行くたびにホイールを交換する、そんな強者も多かった。前仕様からのリメイクで顔まわりの印象が大きく変わったステップワゴン、ホイールはクレンツェ ラピアからクレンツェ ケルベロスIIへ変更された。
エスイズの店内に飾ってあった当時のステップワゴンの写真。エスイズをオープンした2003年から大事に飾っているそう。それだけ愛着が高い。

【Kranze CERBERUS II(クレンツェ・ケルベロスⅡ)】

2000年代のドレスアップシーンを象徴する存在として、今なお語り継がれる名作がクレンツェ・ケルベロスⅡ。重厚感あふれる3ピース構造に、エッジの効いたスポークデザイン、そして磨き込まれたディスクと深く落とし込まれたリムが生み出す圧倒的な存在感は、多くのカスタムユーザーを魅了した。当時はミニバンやVIPセダンを中心に絶大な人気を誇り、「いつかはクレンツェ」の憧れを象徴する一本として高い支持を獲得。現在でも中古市場で探し続けるファンがいるほど人気は根強く、歴代クレンツェを語るうえで欠かせないモデルとなっている。清水さんが当時愛車に履かせ、今でも大切な思い出として語るのも、このケルベロスⅡだった。

「だからこそ、もっと尖っていてほしい」──期待の裏返しこそ最大の賛辞

現在はショップ代表として数多くのクルマに携わる清水さん。それでもクレンツェへの想いは変わらない。

「今見てもLXZなんかは本当にカッコいいと思います。シャープさというか、エッジの効いたデザインがクレンツェらしさだったと思うんです」

一方で、現在のラインアップにはこんな期待も口にした。

「もっと尖っていてもいいと思うんです。全部の人に好かれなくても、本当にクルマ好きに刺さるデザインを見てみたい。クレンツェって、そういうブランドだったと思うんですよ」

これは決して否定ではない。長年憧れ続け、今なおブランドを見続けているからこそ出てくる率直な期待だ。

高級感、圧倒的な存在感、そして所有する喜び。時代が変わっても、それらはクレンツェが築き上げてきたブランド価値そのもの。

「高かった。でも欲しかった。」

その一言に、多くのユーザーが抱いていた憧れのすべてが詰まっている。そして、その憧れこそが、クレンツェが今なお特別なブランドであり続ける理由なのだ。

エスイズ代表取締役・清水正一郎さん。
2000年代からドレスアップシーンの第一線で活躍し、2003年にカスタムショップ「エスイズ」を岡山県岡山市にオープン。2008年にはエアサスや車高調キットをはじめとするオリジナルアイテムを開発・販売する「イデアル」を立ち上げる。現在も数多くのカスタムカーを手掛けるショップオーナー。

【エスイズ】
住所:岡山県岡山市南区藤田1420-4
電話:086-296-0099
定休日:日曜日、月曜日
http://www.s-iz.net/