「一緒に暮らしたい。でも、同じ家は嫌だった」

3兄弟それぞれの個性を受け止めたガレージハウス

広大な敷地に、デザイン性の高い建物が並ぶ。一見するとテラスハウス…いや、どこかの高級リゾートやデザイナーズホテルを思わせるような光景だ。

しかし、ここで暮らしているのは3兄弟。しかも、それぞれが別々の建物で生活しながら、同じ敷地を共有しているというから面白い。

きっかけは、両親が他界したことだった。

50歳を迎えた弟、52歳の兄、そして妹。もともとはそれぞれ別々に暮らしていたが、両親がいなくなったことで、このまま3人がバラバラに生活してしまえば、兄弟としての関係も次第に薄れてしまうのではないか…。そんな思いから、「だったら同じ場所で暮らそう」という話になった。

とはいえ、「同じ建物に住むのはちょっと違う」。

そこで、生粋のクルマ好きだった弟が提案したのが、ガレージハウスという選択肢だった。兄はそこまでクルマに詳しいわけではなかったものの、「そこまで言うなら……」と弟の提案を受け入れることに。

こうして始まったのが、3兄弟それぞれの個性を生かした住まいづくりだった。

その建築を手掛けたのが、建築マニア。兄が懇意にしている中古車屋を通じて知り合ったことが、依頼のきっかけだったという。

まずは兄弟で建築マニアのモデルハウスをいくつか見学。それぞれ趣味も好みも異なるため、細かな部分まで3人の意見を完全にまとめるのは難しい。そこで最終的には、建築マニアの坂口社長にお任せすることにした。

その結果、完成したのが現在の住まいだ。


兄の愛車は平成元年式のCR-X

兄が所有するのは、平成元年式のCR-X。

「クルマはそこまで詳しくないのですが、ガレージハウスに合わせて購入しました。昔からシビック系は好きだったんですよね」。そう話す兄にとって、CR-Xはまさにお気に入りの1台だ。

ただし、兄がこの家づくりで重視したのは、弟とは少し違う。

弟が「ガレージがすべて」と考えたのに対して、兄はむしろ居住スペースを重視。 毎日の暮らしを快適に楽しめることを優先し、住宅としての使いやすさや空間の心地よさを大切にしたという。

同じ敷地に建つ兄弟の家でありながら、そこに対する考え方は正反対。クルマを中心に住まいを考えた弟に対し、兄は「暮らす場所」としての住宅をしっかりと作り込んだ。

それでも、CR-Xを収めるためのガレージはきちんと用意されている。クルマも楽しみたいけれど、それ以上に快適な暮らしを大切にする。 そんな兄らしいバランス感覚が、この住まいにも表れている。


「居住空間はどうでもいい。ガレージがすべて(笑)」

一方、弟のガレージに収まるのは、まったく方向性の異なる2台。20年近く乗り続けているS30Zと、さらに旧いサニーだ。

ガレージには、クルマをゆったり2台収められるスペースが確保されている。そして、その中心に鎮座するのが埋め込み式のリフトだ。

「このリフトを入れることが前提でした。居住空間はどうでもよくて(笑)。ガレージがすべてです」。まさに、生粋のクルマ好きらしい発想である。

ガレージにはエアコンまで完備。リフトを使って自ら整備や製作作業を行なう、いわば本格的なプライベーターズガレージだ。その一角にはL型エンジンのストックが転がり、工具類も一通り揃えられている。

ちなみに、現在、メインのS30Zは大規模なリフレッシュの真っ最中。L28改3.1L仕様にモーテック制御という本格的な内容で、DIYでPDM化を進めているところだ。

「以前、配線から煙が出たことがあって、それをきっかけにPDM化を決めました。それで各部をバラしていったら、今度はほかのところも気になってきて…。結局、いろいろ手直しすることになりました。完成は先になりそうですが、この空間で作業できるのは幸せですよ」。

長年付き合ってきた愛車だからこそ、一度手を入れ始めると止まらなくなる。その気持ちは、クルマ好きならよく分かるはずだ。


もう1台は1968年式の初代B10サニー

さらに弟は、5~6年前に1968年式の初代B10サニーも手に入れている。

パーツの入手が難しいモデルだが、エンジンはA10からB310サニー用のA14型1.4Lへと換装済み。S30Zとともに、旧車ならではの手間を楽しみながら、じっくりと付き合っているわけだ。

そんな弟の居住スペースはというと、ガレージに比べれば驚くほどコンパクト。しかし、決して殺風景なわけではない。

キャブレターやレコード、バルセロナチェアなど、本人が好きなものだけを厳選したような空間で、モダンな建築デザインとも見事に調和している。

クルマを中心にしながらも、そこに自分の趣味や美意識を凝縮する。まさに“大人の趣味部屋”をそのまま住宅にしたような空間だ。


「兄弟だからこそ、干渉しない」

3兄弟で同じ敷地に暮らしているとはいえ、それぞれが自分の空間を持ち、互いの生活には干渉しない。

兄の家は妹との二世帯住宅として設計され、3人が同じ場所にいながらも、適度な距離感を保てるようになっている。

一方、3つの建物を緩やかにつないでいるのが、中央に設けられた屋根付きのスペース。建築マニアからの提案によるもので、高級ホテルのエントランスを思わせる重厚な空間だ。「将来的にクルマが増えたら、ここにシャッターを付けてガレージにするのもありですよね」と、これから先の暮らしにも対応できる余白を残している。

兄は快適な居住空間を大切にし、弟はクルマとガレージを追求する。そして妹にも、自分らしい生活を楽しめる場所がある。

同じ敷地に住んでいても、3人の暮らし方はまったく違う。けれど、それでいい。

一緒に暮らすために、同じ価値観を持つ必要はない。

近くにいるからこそ、互いの違いを認める。必要なときには支え合いながら、それぞれの人生には踏み込みすぎない。かつて両親がいた場所を離れず、今度は3兄弟がそれぞれの人生を歩みながら、同じ場所で暮らしていく。

「一緒に暮らしたい。でも、同じ家は嫌だった」。その一見矛盾した願いから始まったこの家は、実は兄弟だからこそたどり着けた、ひとつの理想形なのかもしれない。

●取材協力:建築マニア 〒819-0376 福岡県福岡市西区女原478-1 フリーダイヤル: 0120-194-028

「朝起きればR35GT-Rが見える」愛車と暮らすために家を建てた男の熱きガレージライフ

クルマ好きにとって、愛車を眺めながら暮らすことはひとつの夢だろう。R35 GT-Rを愛する橋永浩一さんは、その夢を住まいとして実現した。ガレージにはリフトを備え、2階の部屋から愛車を眺めることもできる。さらにRZ34やバイクまで収めた、趣味のための家を訪ねた。

【関連リンク】
建築マニア
https://www.kenchikumania.com/