クラッチ操作とギアチェンジ
DCT(≒オートマチック)のホンダX-ADVや、左手の操作が不要となるCB400スーパーフォアEクラッチ、ERC:イージライドクラッチを装備するF450GS、無段変速でありながらシフトダウンが可能なヤマハ・アエロックスなどを体験したせいだろうか、最近の僕はクラッチ操作とギアチェンジに思いを巡らせる機会が増えている。

と言っても、僕は古いタイプのライダーなので、クラッチ操作とギアチェンジを面倒と感じたことはないのだけれど、その2つが無いとライディングが楽しくないのかと言うと、必ずしもそんなことはない。でもアエロックスの乗り味を知ると、やっぱりシフトダウンができることで気分は盛り上がる気はするし……。

などということを考えている最中、ふと頭に浮かんだのは、僕の古くからの友人であるHの所有車、ベスパのPX200Eだった。スクーターなのにクラッチ操作とギアチェンジ必要なあのモデルにじっくり乗り込めば、何かがつかめるんじゃないだろうか?

そんなわけで、今回の旧車探訪記ではPX200Eを取り上げることにしたのだが、Hの所有車は1997年型で、PXシリーズは2017年まで生産されていたので、旧車じゃないと言う人がいるかもしれない。
もっともPシリーズのデビューは1977年だし、クラッチレバーの後部にミッションの変速機構が備わるハンドシフトは、初代ベスパとなった1946年型98から基本的に変わっていないのだから、僕としてはPXシリーズを旧車の範疇に入れていいのではないかと思う。
かつてのベスパの特徴

ベスパの歴史を語る際は、“以後のスクーターの原型を作った”という言葉がよく使われる。
確かに1946年型98のスタイルは、後世のスクーターに多大な影響を及ぼしたものの、アメリカやイギリスには1910年代からスクーター的な乗り物が存在したし、技術的な視点で見るなら、ベスパは現代のスクーターの原型を作ったわけではない……と、僕は感じている。

その一番の理由は、昨今ではベスパの最大の特徴と言われているモノコックフレームだ。
外板が骨格を兼ねるモノコックフレームは、1960年代以前は世界中の数多くのスクーターが採用していたものの、現在のスクーターのほとんどは樹脂製外装の内側にパイプフレームが存在するのだから(余談だが4輪の世界では、1960年代にラダーフレーム→モノコックフレームへの転換が急速に進んだ)。

それに続く、かつてのベスパと現代の一般的なスクーターの相違点は、パワーユニットの配置である。
後輪とパワーユニットを一体化したユニット(スイング)構造という共通点はあっても、現代のスクーターの多くが後輪の前にエンジンを置き、クランクシャフトと後輪をVベルト+ギアで結ぶのに対して、かつてのベスパのエンジン+クラッチ+ミッションは後輪の右横が定位置で、それらをギアでダイレクトに結んでいたのだ。

ちなみに僕自身が、“以後のスクーターの原型を作った”と勝手に感じているのは、ホンダが1980年9月に発売した初代タクトである。
もっともスクーターの世界は非常に奥が深いので、この説にあまり自信はないのだが、現代のスクーターに通じるスタイルで、後輪の前部にエンジンを置くユニットスイング構造で、クランクシャフトと後輪をVベルト+ギアで結んだモデルは、初代タクトが先駆けではないかと思う。

継承した伝統と廃止した伝統

前段と同じ書き出しになるけれど、ベスパを語る際は、“伝統”という言葉がよく使われる。そしてベスパと同様の伝統を感じる気軽な乗り物と言ったら、僕が思い出すのはホンダのスーパーカブシリーズである。
いや、この話の展開は強引な気がするものの、ベスパとスーパーカブシリーズには伝統を守りつつも、ある時点で伝統を廃止したという共通点が存在するのだ。

具体的な話をするなら、まずベスパは1946年に発売した98以来、モノコックフレームと片持ち式フロントサスペンションを守り続けている。
ただし1990年代中盤からは、後輪の前部にエンジンを置き、クランクシャフトと後輪をVベルト+ギアで結ぶ新世代モデルが主力になり、2017年にPXシリーズの生産が終了したことで、ハンドシフトとギア駆動のダイレクトドライブは(さらに言うなら2スト単気筒エンジンと前後10インチタイヤも)姿を消すこととなった。

一方のスーパーカブシリーズは、1958年型C100以来、シリンダーをほぼ水平配置とした4スト単気筒+自動遠心式クラッチという構成を維持しつつも、2009年以降はバックボーンパイプ+モノコック構造のフレームを段階的に廃止。
車体後半部の外板が骨格だったかつてとは異なり、以後のスーパーカブシリーズは樹脂製外装の内側にパイプフレームが存在するのだ。

そして各メーカーが廃止した伝統に対して、マニアの中には異論を唱える人がいたようだけれど、近年のスーパーカブシリーズの売れ行きは依然として絶好調だし、2000年頃には約5万台だったベスパの年間生産台数は、最近では約20万台にまで上昇している。

それはすなわち、ベスパにとってのハンドシフトとダイレクトドライブ、スーパーカブシリーズにとってのバックボーンパイプ+モノコックフレームは、世間ではあまり重要ではなかったということなのだろう。

とはいえ、今回の試乗で久しぶりにPX200E経験した現在の僕は、どうしてベスパは、こんなに面白い機構を捨ててしまったんだろう……と、感じている。その詳細は、近日中に公開予定の第2回目で紹介したい。
