価格が高騰しているものの……?
2000年代に入って最も価格が上がった二輪の絶版車と言ったら、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、おそらく、1970~1980年代中盤にカワサキが生産した大排気量並列4気筒車の空冷Zシリーズではないだろうか。
何と言っても、1990年代まではフタケタ万円台の車両がゴロゴロしていたのに、昨今では300万円以上のプライスタグが珍しくないのだから。

ただし、それは第一世代のZ1やZ1-RやZ1000MkⅡ、エディ・ローソン/AMAスーパーバイクチャンピオンレプリカとして販売された第二世代のZ1000R・Z1100Rなどに限った話で、1981年にデビューした第二世代の兄弟車、ベーシックモデルにしてレース用ホモロゲーションモデルのZ1000Jと、当時の旗艦を務めたZ1100GPの価格は、そこまで高騰していない。

その理由に関して、世間にはルックスがちょっと野暮ったいからという説を挙げる人がいるようだけれど、第二世代のZシリーズは基本設計の多くを共有していて、Z1000J・Z1100GPをZ1000R・Z1100R風に仕立てることは容易なのだから、それだけではないだろう。では他にどんな理由があるのかと言うと……。

国内販売が行われなかった第二世代
少なくとも日本では、新車時のインパクトを感じた人がほとんどいないことが、個人的には理由のひとつという気がしている。
と言うのも、750cc以上を販売しないという独自の自主規制が存在した一方で、まだ逆輸入車が一般的ではなかった1980年代初頭の日本では、Z1000JとZ1100GPを購入対象と考えるライダーは希少な存在で、詳細な情報やインプレを掲載するメディアはほぼ皆無だったのである(当時の日本で大きな注目を集め、メディアが熱心に取り上げた逆輸入車は、並列6気筒のホンダCBXやカワサキZ1300、過給機装着車のホンダCX500ターボなど)。

もちろん、当時の日本で正規販売が行われなかったことは、同時代のライバルだったホンダCB900/1100FやスズキGSX1100E/S、さらには第一世代のZシリーズも同様である。
ただし、それらの多くに排気量を縮小した750cc仕様が存在したのに対して、1981年以降のカワサキが日本で販売した750cc並列4気筒車は、Z1000J・Z1100GPの排気量縮小仕様ではなく、既存のZ650の排気量拡大仕様だったのだ。
その戦略は決して間違いではないものの、結果的に第二世代のZシリーズが、第一世代からどんな進化を遂げていたのかは、日本ではあまり理解されていないように思う。

と言っても、僕自身もZ1100GPのスタンダードに乗ったことはないのだが、Z1000Jを含めた他のZシリーズは、これまでに数多くの車両に試乗しているし、過去にはZ1000Jの前任に当たる1979年型Z1000MkⅡを所有していたことがある。
そしてそういった経験を持つ立場から空冷Zシリーズ全体を見ると、第一世代と第二世代のライディングフィールは別物なのだ。

第一世代を凌駕する性能
僕がZ1000Jを初めて体験したのは、当時の愛車だったZ1000MkⅡを自分好みに近づけるべく、前後ショックやライディングポジション、吸排気系などをアレコレいじっていた1997年。
端的に言うならZ1000Jは、僕がZ1000MkⅡに抱いていた不満を見事に解消し、理想の特性を実現していたのである。

その日の僕が最初に感心したのは車体の軽さと信頼性・安定性が抜群のハンドリングだった。
乾燥重量が245kgのZ1000MkⅡに対して、Z1000Jは230kgだから、軽く感じるのは当然のことなのだが、乾燥重量がZ1000Jと同じ230kgのZ1と比較するなら、フレーム剛性や前後重量配分、ディメンションなどの最適化が図られたZ1000Jのハンドリングは、自由自在にしてかなりの無理が利く、という印象だったのだ。

また、良好な乗り心地とここぞ‼という場面での踏ん張りを高次元で両立した足まわりにも、僕は目を見張った。
そんな特性が実現できた主な原因は、キャスター角(第一世代が一貫して26度だったのに対して、第二世代は27.5~29度)とリアショックの取り付け角度を寝かせたことのようで、いずれの角度も立ち気味のZ1000MkⅡの場合は、抜本的な改造を行わないとこの特性は実現できない……と、僕は感じたのだ。

なおパワーユニットに関しては、Z1000MkⅡより排気量が少ないにも関わらず(1015→998cc)、最高出力が93ps/8000rpm→102ps/8500rpmに、最大トルクが8.1kg-m/6500rpm→9.2kg-m/6500rpmに向上したことが、Z1000Jの最大のトピックである。

とはいえ僕がZ1000Jで驚いたのは、キャブレターを強制開閉式→負圧式に変更したことが主因と思えるパワーの引き出しやすさ、スロットルの開けやすさと、フロントのエンジンマウントにラバーを導入したことによる振動の少なさだった。
誤解を恐れずに表現するなら、Z1やZ1000MkⅡと同系とは思えないほど、Z1000Jのパワーユニットは洗練されていたのだ。

そんなわけでZ1000Jに感銘を受けた僕は、1981年に海外在住で第一世代のオーナーだったら、速攻で第二世代に乗り換えると思った。
その際にZ1000JとZ1100GPのどちらを選ぶかは何とも言い難いところだが、リアルタイムで第二世代を体験していたら、第一世代に乗り続ける理由は見つからなかっただろう。
カスタムブームと旧車としての資質

もっとも前述したように、Z1000JとZ1100GPの中古車市場における人気は、第一世代のZ1やZ1-RやZ1000MkⅡ、第二世代のZ1000R・Z1100Rなどに及ばないし、そういった傾向は近年だけではなく、1980年代後半の日本で空冷Zシリーズの再評価が始まって以来、ずっと変わっていない。

その最大の理由を、新車を体験した人がほとんどいないから……と、僕は感じていたのだが、改めて考えると、カスタムも大きな要素だろう。
と言うのも1980年代後半以降の日本の空冷Zシリーズの世界では、ありとあらゆる部分に手を加えるフルカスタムが大流行し、そういう状況下でノーマルの性能差はあまり話題にならなかったのだ。
しかも第一世代に勘所を抑えたカスタムを行えば、第二世代と互角以上の性能が獲得できてしまうのである(第二世代より第一世代のほうが、カスタムの許容範囲が広いと言う人もいる)。

また、視点をガラリと変えてノーマルを楽しむという見方をするなら、クラシックバイクとしての魅力は、ワイルドにしてゴリゴリしたフィーリングが味わえる第一世代のほうが上だと思う。
逆に第二世代の場合は、コンディションが良好なら1990年代以降のビッグネイキッドと大差ない感覚で乗れてしまうので、人によっては物足りなさを感じるのかもしれない。

でも僕自身は、1997年の初試乗時の印象が脳内に鮮明に残っているからか、やっぱり第二世代が大好きなのである。だから出先でZ1000JやZ1100GPに遭遇すると、“そのバイクの価値、僕はわかっていますよ‼”という思いを込めて、つい熱い視線を送ってしまう。

当記事のタイトル写真に使ったZ1000Jカスタムもそんな車両で、僕が常日頃から懇意にしているオザワR&Dで出会った際に、細部をじっくり観察していたら、同店の小澤さんがオーナーの大野さんとの仲を繋いでくれて、いろいろと話をしているうちに試乗が決定。その印象は、近日中に公開予定の第2回目で紹介したい。
主要諸元(1981年型)
車名:Z1000J
型式:Z1000-J1
全長×全幅×全高:2265mm×820mm×1145mm
軸間距離:1520mm
最低地上高:140mm
シート高:805mm
キャスター/トレール:27.5°/99mm
エンジン形式:空冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC2バルブ
総排気量:998.6cc
内径×行程:69.4mm×66mm
圧縮比:9.2
最高出力:102hp/8500rpm
最大トルク9.3kg-m/7000rpm
始動方式:セル・キック併用式
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:キャブレター(ミクニBS34)
トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギアレシオ
1速:2.643
2速:1.833
3速:1.429
4速:1.174
5速:1.040
1/2次減速比:1.737/2.733
フレーム形式:ダブルクレードル
懸架方式前:テレスコピックフォークφ38mm正立式
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:3.25V-19
タイヤサイズ後:4.25V-18
ブレーキ形式前:φ270mm油圧式ディスク
ブレーキ形式後:φ270mm油圧式ディスク
乾燥重量:230kg
燃料タンク容量:21.4L
乗車定員:2名
