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2024年、D-MAXレーシングの末永正雄選手の引退に伴い、S15シルビアを引き継いでD1GPにシリーズ参戦した田野選手。参戦2戦目でいきなり3位表彰台を獲得する鮮烈なデビューを飾り、初年度はシリーズランキング12位という成績を収めた。そして翌年、D-MAXの社員ドライバーでもある彼に、Team TOYO TIRES DRIFTへの加入と、ゼロから製作するニューマシンGR86でD1GPに挑むという大役が託された。

これまでD-MAXは、S15シルビアで3度のシリーズチャンピオンを獲得してきた。しかし、その一方でD1GP参戦にあたり、一貫して掲げてきたポリシーがある。それは、市販品とまったく同じスペックの自社製品を中心にマシンを構成し、D1GPという最高峰の舞台で勝つことで、その実力を証明することだ。
つまり、今後ドリフト用アフターパーツの主流が86/GR86へと移り変わることを見据えたD-MAXにとって、GR86でのD1GP参戦は避けて通れない道だったのだ。

こうして、GR86向けD-MAX製品を実戦で開発するテストドライバーとなった田野選手。これまでのD-MAXドライバーと大きく異なるのは、3DCADを用いた設計業務も担当していることだ。設計から開発、テスト、そしてフィードバックまでを一人でこなせる点が、彼の大きな強みとなっている。
「GR86に乗ると決まって、まず課題になったのがフロントの足まわりでした。シルビアでやってきたように、ユーザーの方々にも手に入れやすい価格で、取り付けのハードルも低くするためには、純正形状から大きくレイアウトを変えないことが第一でした。
ただ、D1GPで周囲を見渡すと、フロントの足まわりにはステアリングラックをメンバーの前側に移設するワイズファブを使っているチームばかり。ラックを後ろ側に配置した純正形状では、フィーリングがイマイチだという話も多かったんです。自分でもさまざまなメーカーのナックルやアームをベンチマークしていくと、その時点で市販されていた純正形状のパーツでは、D1GPで通用しないだろうということが何となく分かりました」と田野選手は振り返る。
「純正形状のままD1GPで勝つには、まだ世に出ていない形で切れ角を確保しなければならないと思い、まずは3Dスキャンから始めました。CAD上でアームやラックの位置をシミュレーションしながら、さまざまな形状を試していったんです」。

数多くの図面上で試作を重ね、今シーズンはキングピン角とトレール角を寝かせ、セルフステアをより大きく効かせる方向へとアップデートしたナックルを投入。さらに、車高調のアッパー側をオフセットさせ、位置を調整できる試作パーツも持ち込んだ。

ステアリングラックを純正同様にメンバー後方へ配置したまま、切れ角を増やしていくと、逆関節の症状が発生する。こうした弊害をどう解消するかが、田野選手を最も悩ませたポイントだった。ラックの移設は最小限の加工にとどめ、純正位置から前方へ15mm、下方へ10mmオフセットしている。

リヤの足まわりも市販化を前提に純正形状をベースとするため、競技車両で主流となっているワイズファブとは異なるアプローチが必要になる。
「純正のリヤまわりは、そもそも大きく沈み込ませない設計思想で作られています。また、ストローク量が増えると、トー変化がイン側からアウト側へと変わる場面もあり、ストロークによる悪影響が出やすいんです。これを素直な特性に変えようとすると、市販品として成立しないほどレイアウトを変更する必要があります。そこで今は、なるべくリヤをバンプさせない方向でセットを組み立てています」。。

車高調には、D-MAXのエントリーモデルである「スーパーストリート」を採用。市販品とまったく同じスペックで使用しているのは、自社製品の性能に対する自信の表れでもある。スプリングはHKS製で、レートはフロント14kg/mm、リヤ6kg/mm。フロントをややハイレートに設定している。バンプラバーも追加されているが、底付きするほどストロークさせる場面はないという。

リヤブレーキには、プロジェクトμ製の2×2ポットキャリパーを採用。油圧サイドブレーキも備えている。フットブレーキのパッドは、車内のブレーキバランサーで調整しきれない場合、コースに応じて変更するそうだ。重視しているのは前後のブレーキバランスで、制動力の強さはペダル操作でコントロールしている。
こうして足まわりのセットアップを煮詰めていく一方で、GR86での参戦初年度となった昨年は、ニューマシンゆえのトラブルに悩まされ、ベスト8入りはわずか2回にとどまった。しかし今年の筑波戦で、長らく悩まされてきたアクセル周辺のトラブルを解決。ようやくGR86本来のポテンシャルを引き出し、自分の思い描く走りができるようになったと、田野選手は明るい表情を見せてくれた。

エンジンは、参加車両の中で最も速いGR86を作るというテーマのもとに製作された。スノコのE85燃料の使用を前提に、高圧縮比とカムプロフィールにこだわった2JZを搭載。ブライアン・クロワー製のピストン、コンロッド、クランクを組み込み、排気量は3.4Lへと拡大されている。

タービンにはG40を採用し、HKSのF-CON Vプロでエンジンを制御。最高出力は約1000psに達する。セッティングはドゥーラックが担当している。

冷却系は、ウォーターポンプに純正品を使用しながらリヤラジエター化。ステアリングラックにはシルビア用を流用する一方、パワーステアリングはオペル純正ポンプを用いた電動式としている。ポンプはエキゾーストマニホールドなどとの干渉を避けるため、室内の助手席足元にレイアウトされた。


ドライバーの田野選手は痩せ型ということもあり、ブリッドのゼロCSプラスは本人の体格に合わせてクッションを追加した特注品を使用。ステアリングはナルディ製の330mm径で、素材はスウェードにこだわった。「革と違って滑りにくいことがとても重要」と、操作性を重視した選択だ。

今シーズンはシーケンシャルドグミッションをホリンジャー製からサムソナス製へと変更。シフトタッチが好みに合っていることに加え、RS90という強化仕様のミッションが入手できるようになったことも理由だという。


エクステリアには、Team TOYO TIRES DRIFTでのGR86デビューに合わせて製作された、D-MAXの「レーシングスペック」ワイドボディキットを装着。テールランプもD-MAX製で、ボンネットはMスポーツ、リヤウイングはサード製をチョイスする。フロントウインドウを含むガラス類はポリカーボネートへと変更し、軽量化を図っている。

こうしてGR86を“走る開発室”として最前線で走らせる田野選手にとって、次なる目標は開発した製品の実力をユーザーに示すこと。その究極のゴールが、D1GPでの優勝だった。そして、そのチャンスは早くも2026年の第8戦オートポリスで訪れた。


純正形状をベースとした自社製ナックルを装着したGR86は、アングルキットを使用する他チームのマシンを上回る角度を実現。単走予選を2位で通過した。決勝では、ラジコンドライバー時代から因縁のある蕎麦切選手のGR86と対戦。サドンデスにもつれ込んだ2本目の追走では、今大会初となる後追いフルマークを披露し、悲願の初優勝を果たした。
『国内最高峰のドリフト競技で勝てるポテンシャルを備えながら、誰もが手軽に装着できるGR86の足まわり』。それは、GR86でドリフトを楽しむユーザーにとって大きな希望となるはずだ。D-MAX製パーツの市販化が待ち遠しい。
⚫︎取材協力:D-MAX
⚫︎TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)
【関連サイト】
D-MAX
https://www.dmax-cs.com/
