Mazda Roadster PS
11年目にして最高の販売台数を記録

冒頭から私事で恐縮だが、趣味はランニングである。コロナ禍の気晴らしに始めて以降コツコツ走り続け、週末や出張の朝走ることを楽しみにしている。ただし素質には恵まれず、たまに大会に出ても凡庸かそれ以下のスピードしか出ないが、自分なりの満足度は高い。そんな話を最初に書いたのは、日本のスポーツカーの誉とも言えるライトウェイトスポーツカーである「マツダ ロードスター」に久々に試乗したからだ。
今年6月の商品改良を受けて、9月に伊豆で開催された試乗会に参加した。4代目となる現行型NDのデビューは2015年なので、今年異例となる11年目を迎えたが、それでも2025年の国内販売台数は過去最高となる1万台超を記録したという。モデルライフ終盤の成熟期に至って記録更新したことは特筆に値する。電動化待ったなしの時代に、素朴な自然吸気1.5リッター直4エンジンをフロントに縦置きし、6速MTあるいはATを組み合わせて、モーターのアシストなしに後輪を駆動するというパッケージを新規に興すのは難しい。まさに不朽の名作あるいは生ける伝説と言っても過言ではない。昨今のスーパースポーツ界隈によるMT回帰もプレミア要素となっている。
魅力はやはり性能と価格のバランスだろう。つまり速すぎず高すぎずのバランスだ。ランニングも趣味としては安価でウエアとシューズがあればどこでも楽しめる。最近物議を醸す皇居周りを走れば、レーシングカーのような速度差で追い抜くランナーもいるが、当方は地に足のついた速度でのんびりとランニングを楽しんでいる。そんな気軽さが魅力として共通していると新型ロードスターを走らせている時に思い至ったのだ。
最大のトピックは新特別仕様車「PS」

ともあれゲンロクWebは自動車媒体なので、まずはプロダクトの解説をせねばならない。今回の商品改良では走行性能やエンジンサウンド、ステアリングフィールなど細かい点に手が加えられた。起点は国連の自動車騒音規制「R51-03フェーズ3」対策だという。面白いのは規制対策を性能の制約と捉えるのではなく、走りの質を磨くための挑戦に置き換えたところだ。
そして商品改良最大のトピックは新特別仕様車「PS」の登場である。PSはピュアスポーツを意味し、ロードスターの本質となる軽快な走りを、よりダイレクトに楽しむために設定されたグレードだ。標準の「Sスペシャルパッケージ」をベースとして、専用チューニングを施したビルシュタイン製ダンパーやブレンボ製対向4ポットキャリパー、レイズ製16インチ軽量アルミホイールなどを装備する。ホイールはブラック塗装、ブレーキキャリパーはシルバー塗装とし、インテリアもエアコンダイヤルやエンジンスターターリングをブラックで統一。グレーのソフトトップと組み合わせることで、スポーティと落ち着いた雰囲気を両立させた。ソフトトップは従来「Sレザーパッケージ」のみ装着していたインシュレーター付きで車内の静粛性を高めていることも注目だ。
もうひとつのトピックが、ボディカラーのジンクグリーンメタリック追加である。ND型では初となるグリーン系ボディカラーであり、魂動デザイン以降のマツダ車としても初となる。ジンクグリーンメタリック着想の源は、工業製品の防錆処理に用いられるジンククロメートプライマーだ。その色や質感がタフな印象を与え、自然を想起させる従来のグリーンとは異なり、都市にも自然にも映えるクールな色合いを狙ったという。取材日が分厚い雲に覆われた雨だったため、本来の色味はわからなかったが、NDのスタイリッシュなシルエットにマッチしていた。ちなみに初代NA型のネオグリーンを、そのままND型に採用するとやや重たい印象になるそうだ。
新旧モデルの比較試乗を通じて感じた違い

最高出力136PS/7000rpm、最大トルク152Nm/4500rpmを発揮するエンジンの性能は変わっていないものの、加速応答改善制御が採用されたほか、MT車にヒールアンドトゥアシスト制御が導入された。後者はドライバーがヒールアンドトゥをした際にエンジン回転数を足す機能で、自動的に回転数を補正する従来型オートブリッピングとは異なり、あくまでもドライバー操作の支援を志向する。
試乗会では新旧モデルの比較試乗ができた。伊豆のワインディングを走らせると改良の効果は想像以上に明確で、新型は確かにアクセルのレスポンスがよく、パワートレイン全体の動きにも緻密さが感じられた。レブリミット直前まで出力を絞らずに走れるようにエンジン制御も変更されており、高回転域まで使い切る楽しさが増して、ドライバーの意思に対して素直に応えることに好感を持った。
懸案の車外騒音規制への適合に向けて、吸気系には専用レゾネーターやエアクリーナーのリブを追加し、排気系ではサイレンサーを大型化。ソフトトップモデルにはインダクションサウンドエンハンサーも標準装備された。車外騒音を抑えつつ、車内はエンジンの音を雑味の少ない、自然でリニアなものに仕立てた。実際、静かなエンジンサウンドを予想したが、ドライバー目線での体感では何も変わっていない。
タイヤも専用品へと変更された。トレッドパターンや溝の深さ、ゴムの柔軟性に加え、サイドウォールの剛性まで見直すことで、通過騒音を低減しながらもウエット性能を確保したという。実際、この日降りしきる雨の中のコーナリングでも限界付近での挙動は穏やかで安心感があった。
さらに、タイヤの特性に合わせて電動パワーステアリングの制御も最適化され、微小な操舵ではアシストを抑えつつ、高荷重領域では必要なアシストを確保した。これまでロードスターのハンドリングに不満を感じたことはなかったが、それ以上に切り始めの軽快さを保ちつつ、コーナリング中の手応えにも一貫性が生まれたように感じた。これらの改良には、モータースポーツ活動を通じて得た限定生産車「マツダスピリットレーシング」の知見も活かされているという。
意外と大きいPSとRSの違い

今回の試乗では様々なグレードに乗る機会を得たが、やはり印象に残ったのはPSだった。ロードスターらしい軽快さを失うことなく、より安心して踏める雰囲気を持っている。ブレーキングからコーナーへと進入し、旋回姿勢をつくり、立ち上がりへと移行する一連の動作が自然で、追い込んでもクルマの挙動を読み取りやすい。サスペンションは単純に硬くする方向ではなく、リヤのスプリングレートを高めてロール剛性を見直す一方で、ダンパーの縮み側減衰力を低減した。旋回時の姿勢を安定させながら、ロードスターらしいしなやかな乗り心地を守るためのセッティングだ。
意外だったのは、直前に乗った最上位スポーツグレードのRSだ。スプリングとダンパーはPSと同じはずだが、乗り味にしっとりとした上質さがあり、欧州の高級スポーツカーを思わせる落ち着きと重厚感が感じられた。剛性が高くクッションの薄いレカロシートや装備も含めて、スポーティなだけでなく、長く付き合える満足感を重視したキャラクターであると感じた。PSはRSに対して約20kg軽量で、これが軽快に感じた理由か、短時間豪雨のウエット路面では確信は得られなかった。
ちなみにRSと異なり、PSはレカロシートやBOSEオーディオを装備しないが、シートヒーターやACCなど嬉しい装備を備えている。走りを優先しつつも、普段使いで我慢を強いられるようなモデルではなく、スポーツ走行と快適性がうまくバランスしていると感じた。PSはRSのような上質さよりも、グレード名通りによりピュアに走りを楽しませてくれる。
スポーツカーを取り巻く環境変化の中で

今回の商品改良はエンジン出力アップも外観刷新もない非常に地味な内容だ。それでもアクセル、ステアリング、サス、タイヤ、そしてサウンドに至るまで、ドライバーが感じ取る要素を丹念に磨き上げたことで、クルマ全体の完成度を高めた。旧型では路面から伝わるゴトゴト音や振動が目立つ場面でも、新型では不快感が少なく、操作に対する反応もクリアだ。路面の雨量が多かったこともあり、ノイズや乗り心地は結論を待たねばならないが、ステアリングやシフトのタッチも含め、総じてクルマの質感が一段引き上げられた印象だ。数字だけでは語れない、操作に対する明快な反応や限界域での扱いやすさこそがこのクルマの価値だ。
11年目を迎えてなお過去最高の販売台数を記録した背景には、手の届きやすい価格だけでなく、クルマを操る楽しさを純粋に味わえるというロードスターならではの価値があるのは言うまでも無い。冒頭述べたランニング人口はコロナ禍の1000万人で本邦はピークアウトしており現在は700万人ほどまで低下しているというが、スポーツカーを取り巻く環境はむしろ誉のありがたみを感じやすい時代に突入している。
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
SPECIFICATIONS
マツダ ロードスター PS
ボディサイズ:全長3915 全幅1735 全高1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1030kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:100kW(136PS)/7000rpm
最大トルク:152Nm(15.5kgm)/4500rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤサイズ:195/50R16
燃費(WLTC):16.9km/L
車両本体価格:366万3000円

