初代三菱パジェロが生んだ価値を探る:火曜カーデザイン特集 パジェロはその役割を終えた! 次に求めるのは時代を変えるクルマ
- 2020/08/25
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CAR STYLING編集部 松永 大演
三菱パジェロが生産終了となったが、このことはパジェロというプロダクトの役割が終了し、次なるモデルへの大きな変革期を示しているようだ。ここでは、初代パジェロ登場の背景から、パジェロというクルマの実像を探ってみよう。
「パジェロでニコタマにショッピング」がおしゃれ
当時の空気感として、例えば奥様がパジェロで世田谷の二子玉川のタカシマヤに行く……というのが素敵、といったイメージを持つほどだったのだ。そこにあったのは、キャンプやスキーなどのアウトドアスポーツを楽しむアクティブなヤングカップルやファミリーの乗るべき、おしゃれな車として捉えられていた。
残念ながらその点でいうならば、トヨタ・ランドクルーザーや日産サファリなどは、やはり泥臭く=強い泥のイメージがあり、パジェロとはちょっと違うものだったと記憶している。
現在の視点で見るならば、大きく変わらないような気もするのだが、当時の空気感では絶対的な差が生まれていた。そのことは、それ以降に同じデザインで小型のパジェロ・イオや軽自動車のパジェロ・ミニが登場し好評を得たことでも証明されるだろう。
1973年に提案されたパジェロスポーツ・ジープ
ではなぜパジェロが人気を得たのか? その答えを探るには、初代発表の9年も前の1973年の東京モーターショーにまで遡る必要があった。
実はこの時のショーに三菱パジェロスポーツ・ジープというモデルが登場している。パジェロは山猫を示すと説明されていたが、ジープJ52をベースとした、コンセプトモデルといえるもの。当時、すでに三菱ジープやトヨタFJ40型ランドクルーザーなどが登場し、それらは商用だけでなくかなりマニアックなオフローダーからも高い評価を得ていたが、1970年にはスズキから初代スズキ・ジムニーが登場することで少しオフローダーの門戸が広がった。
オフロードフリークの存在と、ジムニーの登場によって、レジャーユースへのクロカン四駆の活用価値は高まって行く機運が見え始めた。実際にはパジェロスポーツ・ジープの登場と同時に、トヨタからも同じようなコンセプトでランドクルーザー(FJ40)をベースとしたマリンクルーザーというモデルも出品されていたほどだ。
とりわけ、パジェロスポーツ・ジープのスタイルは基本をジープとしながらも、“Uni Guard Line”というスタイルテーマをもち、上半身は居住スペースとして綺麗に、下半分は高いオフロード性を活かすべく、汚れてもいいというもの。フロント周りをジープとしながらも、サイドからキャビンはジープとは異なるオリジナルデザインとなっていた。
商用ジープとは異なり、ラリーカーのような大型のフォグランプ、高度計/電圧計も装備。さらにヘビーデューティ装備として機械式ウインチや転倒しても乗員を保護するロールオーバーバーを採用していた。
またVHF用アンテナ装備というからテレビ受信機も搭載するなど、単なる悪路を走破するだけの車でなはないことがわかる。
そして街中でも扱いやすい初代パジェロ登場へ
ここまで力を入れるのは、もうひとつの事柄も大きかったはずだ。ジムニー登場の同年、イギリスではランドローバー社からレンジローバーが発表されている。こちらもこれまでの軍用モデルから、劇的な転身を果たしたモデル。
英国王室など貴族が狩をするためのクルマという位置付けをも得るモデルとなった。上半身はまさに高級車。その脚周りにオールラウンドの機能を与えたものだった。エクステリア、インテリア共に洗練されたデザインは、いまでも注目するべき存在でもある。
これらの要素によって、クロカン四駆が進む方向には大きなもうひとつの道が見えてきたのだと思う。まさにそれは、当時でいうクロスオーバーの思想だった。
そして1979年の第23回東京モーターショーでは、パジェロIIというコンセプトカーが発表された。
パジェロスポーツ・ジープのコンセプトから大きく前進し、直線基調の洗練されたボディは、一般ユースという以上に「遊ぶための車」を実践したスタイルだった。堅牢さのためだけのデザインではなく、後部を幌として脱着可能とし、さらにルーフも外せるタルガトップスタイルを持っていた。一見しただけで、この四駆がどんな車であるのかは、そのデザインが明確にそして詳細に説明することができていた。
そして1982年に初代パジェロが誕生する。その下回りはジープ同様のラダーフレームながら、フロントをダブルウイッシュボーン式としたものだった。パジェロII発表の前年に登場したピックアップ4x4トラックのフォルテに採用されたものとの説明だったが、この2車はすでに大きなひとつのプロジェクトとなっていたと見るべきだろう。つまりは、パジェロとフォルテのために開発されたラダーフレームだったのだ。
これまでクロカン四駆に必須な絶対的な走破性能は、前後ともにリジッド(固定)式サスペンションが基本となっている。三菱ジープをはじめ、その後もランドクルーザーやサファリも継承していくことになる。しかしパジェロはあえてフロントにダブルウイッシュボーン式の独立懸架を採用し、オンロードの快適性を狙った。ピックアップのフォルトにしてみれば、4WDだけではなく2WDが主流。しかも、オンロードでの用途が中心となる。それらを考えれば、フロントをリジッドするのは決して得策ではないのだ。こうして両車のニーズが整合したことになる。
初代パジェロの登場にあたっては、単に「ジープの長根の経験がある三菱がより洗練されたボディを乗せて成功した」
と見ることもできるが、こうして実際のプロダクトを見て行くとそんなに単純なことではなく、長い年月の中で深く商品性が検討され、シャシー部分など多くをピックアップと共有するという、うまいマネジメントなどがバランスして成立したものだった。
そうして見ると、初代パジェロのデザインは実に戦略的であり洗練されている。
3ドア仕様を見るとわかるが、水平基調のキャラクターラインは数mmたりとも上にも下にも移動できないと感じるほどのバランスのよさを持つ。これはコンセプトカーであるパジェロIIで試されたサイドまで回り込んで開くシェル型ボンネットとの整合性を狙ったもの。だが、このアイデアはレンジローバーに用いられたものだ。パジェロは実際にはシェル型のボンネットは採用せず、キャラクターラインだけを活かしていた。またこの手法は、むしろジウジアーロ氏がピアッツアで採った案とも似ているのだが、そのコンセプトカー、アッソ・ディ・フィオリが1979年の発表だったのでパジェロIIの方が1年早いことになる……。
これまでのクロカン四駆の造形が、生産性、合理性、やパネル強度、リペア性、ローコストなどを狙ったものであったのに対して、実に乗用車的、ステーションワゴン的であったことが他の違いを大きく感じさせることになった。
そしてパジェロに関心を持つ人たちに「欲しい」と思わせる決定打となったのが、インテリアのデザインだ。インテリアも直線基調であるばかりか、フラットな棚の上に整然と四角い箱が配列されるもので、それがメーターパネル、センターのサブメーターとしてあしらわれる。もはやカーデザインではなく、前進的な家具のようなプロダクトデザインの世界観を見せたものだった。それこそ、流用されたシフトノブやウインカーレバー類がいかにも古臭く見え、なぜここを変えなかったのだろうか? と思えるほどだった。
ここまで見てみると、初代レンジローバーからインスピレーションを得たという憶測は拭いきれないが、フォルムやディテールのバランスのよさという点では、ややレンジローバーはアクが強くパジェロはパジェロとしての完成度の高いオリジナリティを感じることも事実だ。
こうして見てくると、パジェロが作ってきたものは新たな市場だった。時代に迎合するというよりも時代を作る存在だった、という点が極めて大きな成果でもある。もし次代のパジェロを求めるのならば、やはり時代を変える存在であって欲しい。それがパジェロの使命なのではないだろうか。
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