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2016年にデビューした初代は発売から6年経過した今でも月平均で5000台以上を販売するヒット作になった「ムーヴキャンバス」。「ムーヴ」の派生車種ながら本家ムーヴよりも売れている、ダイハツにとっても需要な柱に成長した軽自動車だ。そんな注目のモデルがフルモデルチェンジで2代目に進化。「変わった部分」と「変わらなかった部分」に注目しながらレポートしていこう。
変わったのはまず、バリエーションだ
従来のイメージを継承する「ストライプス」に加え、新たに「セオリー」というテイストを追加。モノトーンのシックなカラーを設定し、「ストライプス」にはない独自アイテムとしてベーシックグレードの「X」にまでメッキ調のピンストライプやメッキのリヤバンパーモールをコーディネートしている。
「セオリー」のインテリアカラーはブラウン&ネイビーとし、上級仕様には本革巻きステアリングホイールや本革巻きシフトノブ(どちらも「ストライプス」には設定なし)を用意。早い話が、大人のためのシックで上質なキャンバスというわけだ。先代のキャンバスは“かわいさ”ばかりが強調されていたので、男性や年配のユーザーを取りこぼしていたのは想像に難くない。新型はそこもフォローしていこうというわけである。
もうひとつ、新しいバリエーションとして見逃せないのはターボエンジンの追加。自然吸気しか選べなかった先代に対しては「ターボが欲しい」という声が寄せられていて、新型ではそこも手当した。ライバルの「ワゴンRスマイル」にはターボがないから、ここは明確なアドバンテージとなるだろう。今どきのターボエンジンは低回転域からトルクが太く、排気量を上げたような感覚。加速が力強くなるから運転が楽になるうえに、同じ加速をするなら自然吸気エンジンよりもエンジン回転数を上げなくても済むので音が静かで快適性が高いのもメリットだ。
メカニズムの話をすると、今回のフルモデルチェンジではハード面はすべて刷新された。プラットフォームはダイハツの新世代設計である「DNGA」となり、エンジンもCVTユニットも最新タイプのもの。エンジンはボア×ストロークに変化がないため型式こそ従来通りの「KF型」を継承しているが、2019年発売の現行タントから搭載が始まった最新世代で設計自体が従来世代とはまったく異なるユニットだ。
室内で印象的な変化は、助手席前が平べったく、その下に横長のトレーをもつインパネの採用だ。何を隠そうこの意匠は、コロナ禍を反映したアイデアというから面白い。テイクアウトした食事を停車中の車内で食べることを考慮したデザインなのだという。「コロナ禍を反映したインパネの意匠」というのは、筆者の知る限りこのクルマがはじめてだ。
また、インパネの左右端には「ホッとカップホルダー」という電気のヒーターで飲み物を温めておくカップホルダーも用意。軽自動車クラスでの採用ははじめてだし、“HOT”と“ホッと”を掛けたユルいネーミングも妙にキャンバスらしい。さらにインパネは、ディスプレイオーディオとセットでワイヤレス充電機能も設定。ナビではなくディスプレイオーディオを用意するのはキャンバスからはじまったわけではないが、「スマホネイティブ世代」を見据えたクルマ作りの一環なのだという。
いっぽうで、モデルチェンジで変えなかったこともある
たとえばスライドドアの役割。一般的にスライドドアは後席乗員の乗り降りしやすさのためだが、キャンバスはそうではない。あくまで「前席に2人までで乗る」をメインと考え、スライドドアは乗り降りではなく「後席に荷物を置くときにアクセスしやすくするため」なのだ。言われてみればたしかに荷物は後席に置くことも多いし、そのアクセルも確かにヒンジ式ドアよりも楽だ。そこは新型でも受け継がれ、だからこそ先代同様に荷物を置くためのトレーとなる引き出しが後席下に組み込まれている。
変えなかったことといえばその代表はなんといってもデザインだろう。正直なところ、15m離れた場所にキャンバスを1台置いたら、それを新型か先代かを見分ける自信が筆者にはない。それほどまでに、新型と先代はデザインに変化がないのだ。こんなフルモデルチェンジは、ダイハツでは珍しい。なかには「見た目に新型感がないから買い控えが起こってしまうのではないか?」という心配をする人もいるかもしれない。
果たして、その理由はどこにあるのか
開発陣に質問をぶつけて返ってきたのは「ファンを大切にしたいから」というものだった。
どういうことか? 「先代キャンバスは『キャンバスだ』と一目でわかってもらえたし、一目惚れで選んでもらうことも多いデザインだった。だからガラリと変えるとそんなファンの期待を裏切ることになる。ロングキャビンシルエット、愛嬌のあるスマイルフェイス、そして特徴的な2トーンカラー(ストライプス)はキャンバスにとって欠かせない要素だし、キャンバスらしい個性を継承することが大切」というのだ。
たとえば「ミニ」もそうだし、国産軽自動車でもホンダの「N-ONE」など、フルモデルチェンジでメカニズムを刷新してもデザインは大きく変えないモデルがある。それらに共通する特徴は、デザインが個性的でほかのどのクルマとも似ていないということ。下手に変えると、アイコンを失ってデザインから商品性が破綻する可能性が高いのだ。キャンバスのデザインが変わらなかった理由は、それらと同じなのである。フルモデルチェンジなのに見た目はほとんど変わっていない。それは常識外れであると同時に、開発における「キャンバスとは何か?」という自問自答の結果と言ってよさそうだ。
ダイハツ ムーヴキャンバス セオリー Gターボ 全長×全幅×全高 3395mm×1475mm×1655mm ホイールベース 2460mm 最低地上高 150mm 車両重量 900kg 駆動方式 前輪駆動 サスペンション F マクファーソン・ストラット R トーションビーム タイヤ 155/65R14 エンジン 水冷直列3気筒DOHCターボ KF型 総排気量 658cc 最高出力 47kW(64ps)/6400rpm 最大トルク 100Nm(10.2kgm)/3600rpm 燃料消費率 22.4km/l(WLTC) 価格 1,793,000円