13年ぶりに来日したビルを直撃!

ハーレーダビッドソンというモーターサイクルメーカーの名称が、そのまま創業者の名に由来していることは、バイクファンの間ではあまりにも有名だ。
1903年、アメリカ中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで誕生したこのブランドは、ウィリアム・S・ハーレーと、アーサー・ダビッドソンをはじめとするダビッドソン兄弟の名を組み合わせたもの。“HARLEY-DAVIDSON”というネーミングは、まさにブランドの原点そのものだ。
そして、その血脈は今なお途切れていない。創業家の系譜は現代へと脈々と受け継がれ、ブランドに深く関わり続けている。
創業家4代目のビル・ダビッドソン氏(以下、敬称略)も、そのひとりだ。設計を担ったアーサー・ダビッドソンのひ孫にあたり、1984年に同社へ入社。マーケティングやブランド戦略、さらにはコミュニティ活動の中核を担ってきた。
現在もCEOアドバイザー兼ブランドアンバサダーとして、ブランドの最前線に立ち続けている。
新たなプラットフォーム「RIDE」

米国ハーレーダビッドソンは4月10日、新たなグローバルブランドプラットフォーム「RIDE」を発表した。同時に公開された新ロゴには、オレンジで記された“RIDE.”の文字に、歴史あるバー&シールドを重ねたデザインが採用されている。
そして、プレスリリースには以下のようにある。
1世紀以上にわたりモーターサイクルカルチャーを牽引してきたブランドの歴史と価値観を称えながら、現代のライダーに寄り添い、未来へと進むハーレーダビッドソンの新たな方向性を示すもの。
RIDEは単なるスローガンではありません。それは、ハーレーダビッドソンを形づくり、動かし続けてきた中核となる精神そのものです。行動であり、感情であり、そして生き方が1903年の創業以来、ハーレーダビッドソンの DNA に深く根付いてきました。
ハーレーは、単なるバイクの「所有者」を持つブランドではなく、情熱を共有するライダーのコミュニティです。RIDEという概念は人と人をつなぎ、心を解き放ち、走った距離を物語へと変えていきます。〜ハーレーダビッドソン ジャパン プレスリリース 2026年4月10日より
何度も読んだが、はっきり言ってよくわからない。そう感じていた筆者は、絶好の機会を得た。なんと、ビル・ダビッドソンが13年ぶりに来日し、インタビューさせてもらえるのだ!

話は『RIDE』についてから始まった。インタビュールームに入ったビルは、壁にかかったキービジュアルを見るなり、「This is me!(これは僕だよ)」とジョークを飛ばし、場を和ませた。
『ヘリテージクラシック』の上で軽やかにジャンプし、カメラに向かってピースサインを送るライダー。その正体は、もちろんビルではない。撮影用に起用されたモデルだ。

しかし、話を聞き進めるうちに、「これは僕だよ」という言葉は単なるジョークではなく、核心をついているのかもしれないと思えてくる。
ビルにとってハーレーは、生業でありながら、それ以上に人生そのものでもある。幼い頃から身近にあり、日常の中に溶け込み、価値観を形づくってきた存在であることは想像に容易い。そしてそれは、彼だけに限った話ではない。
ハーレーに乗る多くのライダーたちもまた、単に移動手段としてではなく、人生の一部としてこのブランドと向き合っている。走る楽しさはもちろん、所有する歓び、誇り、そして仲間との時間、そうしたすべてを含めて「ハーレーに乗る」という体験が成立しているのだ。
「RIDEとは何か?」
筆者が聞くと、ビルはこう答えた。
「これまでハーレーダビッドソンが最も大切にしてきたのは“走る楽しさ”です。その姿勢はこれからも変わりません。“RIDE”は、それを最もシンプルに、そして力強く表現できる言葉だと思っています」
「これまでは限定的な期間で、さまざまな方向のキャンペーンを展開してきました。しかし“RIDE”は、今後も永く継続していく新たなグローバルブランドプラットフォームとなるものです」
「“We Ride With You”というフレーズがあります。これは父であるウィリーG・ダビッドソンが生み出したものです。直訳すれば“共に走る”ですが、私たちは“いつでもあなたのそばにいる”という意味を込めています」
「実際、世界中で多くのライダーと出会いますが、“ハーレーに乗って人生が変わった”であるとか、“これこそ自分の人生だ”と言ってくれる人が本当に多い。私たちのモーターサイクルが、これほどの喜びをもたらしているのであれば、それは素晴らしいことです」
前輪の赴くままに旅に出よう

そう語ったあと、ビルはキービジュアルに添えられた一文に話を移した。
“Life, liberty, and the pursuit of happiness”(生命、自由および幸福の追求)。1776年、アメリカ独立宣言での有名な言葉だ。
「“Liberty”(自由)には、前輪の赴くままに旅に出ようという意味が込められています。そして”幸福の追求”は、ただバイクに乗る時間だけではなく、カスタムを楽しんだり、アパレルを選んだり、ディーラーに立ち寄って仲間と語らったり、そんな幸せな時間を過ごして欲しいという願いです」
ハーレーダビッドソンはオートバイそのものだけでなく、その先にある時間や体験までを提供している。そんな思想が浮かび上がる。
では、120年以上にわたって愛され続けてきた理由はどこにあるのか? その問いに対し、ビルは即答した。
「Look(ルック)、Sound(サウンド)、Feel(フィール)を大切にしたモノづくりを続けてきたことです」
その象徴として挙げたのが、1990年の『FLSTF ファットボーイ』だ。
「当時は存在しなかった唯一無二のスタイルでした。Look、Sound、Feelにフォーカスしたことで、多くの支持を集め、いまではブランドを代表するアイコニックな存在になっています」
一方で、時代は大きく変化している。電動や水冷化など、環境規制に対応するための技術進化は避けては通れない。その中での方向性について問うと、ビルは迷いなくこう言い切った。
「向かうべき方向は明確です。ハーレーらしさを大切にしながら、お客様の夢や望みを叶える製品を送り続ける。その使命が変わることはありません」
新型について尋ねると、「将来のラインナップは、ここで話すとクビになってしまうので言えません」と笑ってかわす。そこで質問を変え、「これまでで最も好きなモデルは?」と投げかけると、ビルはしばし考え、静かに口を開いた。
「(1903年の)シリアルナンバー1です」
それは、ハーレーダビッドソンの原点とも言える一台。ブランドであり、同時に家族のルーツでもある。
ファンとの交流
ビル・ダビッドソンがやってくる! その一報を受け、ハーレーダビッドソンシティ西東京(東京都西東京市)には、平日にもかかわらず多くのファンが詰めかけた。
ビルは気さくに声をかけ、写真撮影やサインにも応じながら、言葉を交わしていく。ファンと同じ目線で語り、同じように“走ること”を愛する一人のライダーとしてそこにいる。インタビューで語られた“RIDE”という言葉の意味は、ここでも示されていた。

バガーレース世界選手権は盛況!
今シーズンからMotoGPと連携して併催される、バガーレーサーによる世界選手権『FIM Harley-Davidson Bagger World Cup Series』(ハーレーダビッドソン・バガーワールドカップ)は、欧州ラウンドを中心に全6戦/計12レースで争われる。
開幕戦は発祥の地であるアメリカ。テキサス州オースティン近郊に位置するCircuit of the Americas(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)において、レース1が3月28日、レース2が翌29日に開催された。
このシリーズが注目を集める理由は、単なる新カテゴリーの誕生にとどまらない。巨大なフェアリングを備えたグランドアメリカンツーリングモデル、いわゆる“バガー”が、サーキットで限界まで攻めてバトルするというインパクト。そして、そこで磨き上げられたハイパフォーマンスは、確実に市販モデルやカスタムシーンへとフィードバックされていく。
従来の“ゆったりと走るハーレー”というイメージとは一線を画す、新たな価値観。いま、そのムーブメントはレーストラックから生まれ、ストリートへと波及し始めている。
アパレルをより充実、専門店もオープン

レースという極限の世界とは対極にある、日常のカジュアルシーン。そこでもハーレーダビッドソンは、着実に存在感を強めてきた。
単なる移動手段を超え、“生き方”としてのブランドを提示してきた同社にとって、アパレルはその思想を最も身近に体現できる領域のひとつだ。
『Dickies』(ディッキーズ)との2度目となる限定アパレルコレクション『Built to Outlast』を4月23日から発売。アメリカのインダストリアル・ヘリテージを背景に、耐久性と機能性を極めてきたディッキーズのDNAと、ハーレーダビッドソンが持つ反骨のスピリットが融合した。
「ハードに着込み、長く使う」という思想は、「タフに働き、遠くまで走る」というライディングの哲学とも重なり合う。無骨で普遍的なワークウェアのスタイルは、流行とは無縁の価値を持つ。そこに宿るのは、使い込むことで完成していくリアリティと、決して妥協しない姿勢だ。それはまさに“働く者”と“走る者”に共通する精神性そのものと言えるだろう。
ブランドの持つ世界観をより多くの人々に広めていくため、新たな接点づくりにも踏み出している。東京・新宿(新宿マルイ メン1階)に誕生した『ハーレーダビッドソン STYLE 新宿』は、アパレルと雑貨に特化したライフスタイル型ストア。モーターサイクルを売らないこの空間には、「まずは身につけるものからハーレーに触れる」という新しい導線が設計されている。
約184平方メートルの店内には、常時1000点以上のアイテムが並び、その規模は国内最大級。ここでは“乗る人”だけでなく、“まだ乗っていない人”にもブランドが開かれている。実際、ロゴTシャツやカジュアルウェアを日常に取り入れるスタイルは、若年層を中心に着実に広がりを見せている。
1910年代、レーシングジャージの製作からスタートしたハーレーダビッドソンのアパレルは、いまやアメリカンカジュアルの象徴的存在へと進化した。年間約500点もの新作が投入され、日本全国の正規ディーラーや公式オンラインショップなどでも展開されるなど、その裾野は広がり続けている。
ハードとしてのモーターサイクル、そしてソフトとしてのアパレル。両輪で展開されるブランド戦略は、“走る”という体験を中心に据えながらも、その価値を日常へと拡張していく試みだ。
昔からそうであったのかもしれないが、ハーレーダビッドソンは今、バイク乗りたちのコミュニティの外側からも、人々のライフスタイルにより深く入り込もうとしている。
















