ホンダ・CRF250L<S>……649,000円

‘20年以前のモデルは大きめのハロゲンヘッドライトが特徴だったが、’20年以降は薄いLEDヘッドライトになり精悍な姿に。ホイールも黒くなって引き締まっている。試乗できたのはオフ性能を追求し前後足回りが長くなっている〈S〉タイプ。カラーはこのエクストリームレッド一色で、〈S〉タイプではないスタンダードの方はより都会的なスウィフトグレー一色だ。他に兄弟車種としてカウルがついてタンク容量の大きいCRF250RALLYとそれの長足版〈S〉もラインナップ。価格は足の長さに関わらずCRFが64万9000円、RALLYが79万2000円(それぞれ税込み)だ。

なぜなくなってしまったのか…

オフロード車需要はいつでも一定数あるものだと思っていたが、現在の国産各社ラインナップを見ると必ずしもそうでもなかったのかもしれない。軽二輪(250㏄)クラスを見渡すと、カワサキは空冷2バルブのKLXがあり、スズキはオフというよりはアドベンチャーのVストローム250SXがあるが、250㏄フルサイズの本格オフはもはやこのCRF250Lのみなのである。
この背景はオフロード趣味が林道トコトコ系からもっと趣味性の高い競技系へとシフトしたという背景もあるように思う。その証拠に国内外のコンペモデルは常にマーケットがあり、エンデューロレースなどもファンが多い。近年、オフロードというバイク遊びは気軽な泥んこ遊びからもう少しマジなものになったのかもしれない。
もう一つは、250㏄という排気量枠内で各種規制に対応しつつ、かつて盛り上がっていたモデルたちのような性能を確保しにくいということもあるだろう。特に様々な補器類が必要になっている近年、重量増が最大の敵であるオフ車にとっては苦難の時代である。そんな難しさを別アングルから解決したのが、250㏄枠を飛び出したDR-Z4かもしれない。
軽二輪枠にとらわれないことで良きバランスを達成した。
しかしさすがリーディングカンパニー、ホンダは250㏄枠の中でCRFブランドを熟成させ、車検のない気軽なオフ車を追求してくれている。結果、今となっては孤高の存在になっているのだ。

デビューから14年

オフロードは悪コンディションでも楽しめてしまうものだが、土砂降りのオンロードは我慢の走りとなってしまうのは致し方ないところ。ただオフで感じた活発なイメージに対して、オンロードでは淡々と走るような、ツーリング向けの良きおとなしさがあるようにも感じられた。

CRF250Lのデビューは2012年だ。それまでの「ホンダのオフ車と言えば」であったXRからそのポジションを引き継いだわけだが、ツインカムの水冷エンジンをはじめ完全なるニューモデルとなったCRFに対する当時の反応は様々だった。オフファンからすると車重が重くなったことを残念がる声があり、それによりオフ性能を疑問視する向きもあったが、一方でフロント周りの剛性バランスなどからオンロードでのコーナリングはオフ車の域を超えて良好だったため、オフ性能全振りのファンではなくもう少しマルチにオフ車というものを楽しみたい層からは歓迎された。明るい大型のヘッドライトもプラスポイントだった。
 XRや、あるいはCRMといったかつてのホンダのオフ車群に対して「勝っているか」という尺度ではなかったように思う。新時代のマルチなオフ車としてCRFはデビューしたのであり、だからこそここまで続いているのだろう。
‘17年にマイナーチェンジされローダウン仕様を追加。’20年に今の形へとフルモデルチェンジした。よりコンペモデルに寄せたスタイリングとなり、ヘッドライトはLEDを採用、4㎏の軽量化を果たしたのもトピックだった。また、初代ではオンロード含めた総合性能がCRFの持ち味だったのに対して、このモデルチェンジではオフ性能を改めて追及。吸気側カムの変更などにより中低回転域を強化し、ミッションも1~5速をローレシオ化。フレームもオフ性能を追求した新作となり、また通常版の他に〈S〉モデルを設定し、こちらは前後のサスペンションストロークを260㎜確保。総合性能の高さは確保しながら、改めて「オフ車」としての性能をアピールした形だ。
今回試乗できた現行車は基本的にこのモデルチェンジから大きくは変わっていないが、エンジン排熱コントロールとサス設定を調整するマイナーチェンジが去年行われている。試乗は‘20年のモデルチェンジ時以来のため6年ぶりとなる。


オフ性能に舌を巻く

6年前の試乗時にも大刷新されたオフ性能には心から惚れ込んだ。それまでのCRFも合法的に踏み入れることができる林道などのシチュエーションにおいて、別段オフが苦手だと思ったことはなかったが、新型は軽くて振り回せて自由自在。何よりもオフロードシーンにおけるアクセル入力に対するエンジンの反応が格段に良くなっていて、スロットルでバイクの動きをコントロールできる感覚がまさに「オフ車」となっていた。

長雨によりかなりヌタヌタとなっていた路面で、しかもジムニーによるワダチも多かったが、とてもコントローラブルなエンジン特性と良く動きかつ軽やかな足周りのおかげで、ノーマルタイヤ&ノーマル空気圧のままでも十分楽しめた。250㏄という排気量ながらクロス化されたミッションのおかげもあり中低回転域のトルクが豊かに感じられ、高めのギアで大きくアクセルを開けて、トラクションを活かしながら上り坂を攻略する、といった場面も大変に楽しかった。


 今回の試乗も大枠ではその時の試乗と同じ印象なのだが、それでも「やっぱりいいなぁ!」と改めて感激してしまった。試乗できたのはストロークの長い〈S〉 モデルの方のため、よりオフ性能を追求した版と言える。試乗コースはリニューアルオープンした「しのいリンク」のオフロードコース。モトクロスコースのようにジャンプやこぶが連続するフープスなどはなく、林間を縫っていく林道のようなコースなのだが、アップダウンはそこそこにあり、またジムニーも走るため四輪の轍は多め。加えて晩夏の長雨でグッチャグチャというシチュエーションに最初は気が引けたが、CRFは驚くほど高い走破性を見せてくれたのだ。
ピカピカの広報車ゆえにとにかく転びたくない気持ちが先行し、最初は足をついて二足二輪でヨチヨチ走っていたのだが、途中で足回りの良さに気づいてスタンディングでペースアップ。ジムニーの轍に入ってしまってもバランスはとりやすいし、そこからまた出てくるのもちょっとしたキッカケ作りで難なくこなしてしまう。「お! こりゃいい!」と気をよくして積極的な走りとなっていった。


積極的な走りを支えてくれるのはやはりスロットルレスポンスのよさだろう。アクセルひと捻りでフロントから荷重を抜いたりリアに荷重をかけたりが思いのままできるため、難しいシチュエーションでもバイクを思い通りに動かすことができ、‘20年のモデルチェンジ時にショートレシオ化したのが効いていると感じる。
また極低回転域の粘りも頼もしく、ヌタヌタ路面では早々に2速にシフトアップしてアクセルを大きめに開ければ、トルクがしっかり地面をつかんでくれて上り坂でエンストすることも、逆に路面をひっかいて滑ってしまうこともなくトコトコと登り切ることができた。
足の長い〈S〉 モデルだけにいざというときに足が付けないのはオッカナイ、と当初は思っていたが、その「いざというとき」がなかなか訪れないのが嬉しいし、そして実はサスペンションの初期沈みがかなり大きいため、シート高880㎜という数値よりはだいぶ足はつくという印象だ。やはりオフ車ならばオフ性能をしっかり満喫したい、と思うライダーであれば、250㏄枠でも唯一のフルサイズであるCRFを選ぶと良いと思うし、そしてぜひとも〈S〉を選んでほしいとも思ったオフロード試乗だった。

スマートなオンロード性能

予想以上に活発な走りができたオフロードに対して、オンロードの印象は逆に落ち着いたものだった。先のモデルチェンジで1~5速はクロス化したことはすでに書いたが、オンロードにおいては5速までは矢継ぎ早にシフトアップする印象。各ギアで高回転域まで引っ張ってもあまり明確なパワーバンドはないため、中回転域トルクを各ギアで繋いだ方が速度は乗るようだ。
対する6速はロングとされているそうで、トップギアクルージングは快適だった。ただ上り坂に差し掛かるような場面では失速をはじめ、シフトダウンが必要となることも。追い越し加速も同様だ。オフロードではあれだけ反応が良くパワフルに感じたエンジンだったが、オンロードにおいてはそういった印象はなく、むしろおとなしくてツーリング向けの味付けに感じられた。
 ハンドリングにクセはなく、かなり強い雨が降っている中でも怖がらずに走らせることはできた。ただ長足の〈S〉モデルであるということもあってサスペンションがかなり動くため、’20年以前のモデルに対すると「オフ車感」のようなものは大きく感じる。オンロードでペースアップするとリアブレーキを引きずってサスの動きを落ち着かせる、といった小技を使いたくなることもあった。

進め! CRFブランド

悪天候ではあったものの、6年前の試乗が思い出される好印象となった今回。特にオフロード性能の高さは再確認でき、しばらく試乗することがなかったゆえにCRFの存在を忘れそうになっていたことを恥じた。
ホンダの250㏄オフと言えばやはりXRブランドが長らく強かった。それに対してCRFブランドは定着していっているのだろうか?という気持ちもあったのだが、いつの間にか熟成が進んで、ライバルがいなくなってしまったこともあって孤高のポジションに君臨していることに気づかされる。
特に大排気量バイクは昨今価格も高くなり、また各種電子制御などにより複雑化しているのも今のトレンド。それに対してCRFはとてもシンプルで、誰にでもわかりやすい接しやすさがある。価格も税込み64万9000円と現実的な路線を守ってくれていると言えよう。
オフロードファンには特にこの〈S〉モデルを薦めたいが、そうではなく、日々の移動の相棒として軽量でチカラがあってカッコいいオフ車が欲しいという人にも、あるいは維持費が抑えられて道を選ばないツーリングマシンが欲しいという人にも、〈S〉ではない方という選択肢もある。今や貴重な「ニーゴーオフ」の存在に改めて納得したのだった。

足つき(ライダー身長185㎝・体重75㎏)

シート高は880㎜と決して低くない数値ではあるものの、車体をサイドスタンドから持ち上げただけでかなり沈むし、またがればさらに大きく沈むため、停めてある姿から想像するほど足つきは悪くない。ただ足を降ろしたところにちょうどステップがあるため、足を真下に降ろせずに少し開いてしまうのが惜しいところ。ステップの少し前か後ろにずらして降ろせばいくらか足つきが向上するのだが…。

ディテール解説

倒立フォークの前周りは’20年以前のモデルはかなりどっしりとしていてオンロード向けな印象だったのに対し、モデルチェンジ後はオフ車的バランスに改められた。今回のようなヌタヌタ路でも自在に扱えたのはとても好印象。なおタイヤもタイヤ空気圧も純正のままでの走行である。〈S〉タイプは(前後とも)260㎜のストローク量を確保している。ブレーキは一般的なものでオフロードでのコントロール性は上々、今回はフルウェットだったためオンロードでの絶対制動力は試せず。

立派なアルミスイングアームにリンク式モノショックを備える。オンでもオフでもリアブレーキはとてもコントローラブルで、場面によっては動きすぎると感じるリアサスを落ち着かせるための細かな入力にも応えてくれた。なおブレーキディスクは前後ともウェーブタイプを採用する。
CRFデビュー当初のオンロード色の残るエンジンから、すっかりオフロード車のエンジンへと生まれ変わっているDOHCユニット。ギアレシオの変更によるパワーの取り出しやすさも大きく貢献していると感じる。なおレブル250などと共有するユニットなのだが、ドレンボルトの取り出し口を見直すなどすることで最低地上高を確保するといった取り組みもなされている。
ワイドでグリップの良いステップはまさにオフロード車のソレ。シフトペダルも先端が折れ曲がるオフ仕様だ。
〈S〉 モデルに限って、スタンディングやオフロードでの激しい動きに合わせた専用のシートを採用する。RALLYモデルはシートが青というのも特徴。
車体左側にはキーでロックできるスペースも。書類などをしまっておける。
250㏄クラスにはそもそも複雑な機構はついていることが少ないが、それでもスイッチボックスが最低限の機能だけというのは、なんだかそれだけで落ち着く。またオフ車でもハザードを備えているのも嬉しいところ。ただホンダ車全般のホーンボタンとウインカースイッチが上下逆というのはどうしても慣れず、試乗中も何度か不必要にホーンを鳴らしてしまった。小石などから手を守るナックルガードも標準装備。
ハンドル形状は一般的なオフ車であり違和感はゼロ。オフロードでの扱いやすさもオンロードでの快適性も十分だ。モダンな異形ミラーも視認性は良好だった。タンクはスリムながら7.8L容量を確保する。メーターは多機能デジタルで、タコメーターやギアポジという便利機能も。メーター右側にはABSオフスイッチも備え、オフロード走行時にリアタイヤのみABSをオフにしてブレーキで振り出したりといったアクションを可能にさせてくれる。
タンデムシート部とフラット形状となるテールのおかげで、荷物も固定しやすそう。純正で荷かけフックが装備されているし、独立したヘルメットホルダーも備えるなど、ストリートやツーリングシーンでの利便性も確保されている。純正オプションでキャリアも有。なおヘッドライトやウインカーはLEDとしているのに、テールランプだけ昔ながらの電球式なのは謎だ。

主要諸元

CRF250L
車名・型式: ホンダ・8BK-MD47
全長(mm):2,210〔2,230〕
全幅(mm) :900(920)
全高(mm) :1,165〔1,205〕
シート高(mm)★:830〔880〕
車両重量(kg):141
燃料消費率(※1)(km/L):国土交通省届出値:定地燃費値(※2)(km/h) 47.5(60)〈2名乗車時〉
燃料消費率(※1)(km/L): WMTCモード値★(クラス)(※3)32.4(クラス 2-2)〈1名乗車時〉
エンジン種類: 水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒
総排気量(㎤):249
最高出力(kW[PS]/rpm):18[24]/9,000
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm): 23[2.3]/6,500
燃料タンク容量(L): 7.8