
これが入門用カートの走りなのか!!
9月10日にガズーレーシング(GR)が発売した入門用レーシングカート「GR KART」は、モータースポーツ業界に大きな衝撃を与えた。自動車メーカーがレーシングカートを自ら開発・生産すること自体が異例だが、なにより驚かされたのは38万5000円(税込)という価格だ。一般的なヤマハKT100SECエンジン搭載の入門用レーシングカートが新車で80万〜100万円程度とされることを考えれば、いかに画期的な価格設定なのかがわかるだろう。
このGR KARTの開発を後押ししたのが、「モリゾウ」ことトヨタ自動車会長の豊田章男氏だ。自身も10年以上前からカートに親しんできたというモリゾウには、モータースポーツの入り口であるカートを、子どもたちやファミリーにもっと気軽に楽しんでもらいたいという思いがあったという。それは将来のクルマ好きを増やし、自動車業界を支える人材を育てることにもつながる。その思いを形にするべく、開発陣はトヨタ生産方式(TPS)の考え方を取り入れ、徹底したコスト削減によって驚きの低価格を実現したのだ。

そんなGRの思いが詰まったGR KARTを、愛知県の幸田サーキットで試乗する機会を得た。実際に目にしたGR KARTは想像以上にコンパクトながら、引き締まったボディがいかにもスポーティだ。開発責任者の伊東直昭氏によると、低速域でも楽しめ、走るほどに運転スキルが向上するカートをコンセプトに開発したという。搭載されるエンジンは215ccの空冷4ストロークOHVで、最高出力は5.1kW(7PS)。わずか83kgの車体には十分な出力だろう。
まずは乗り込み方のレクチャーを受ける。シートの上に立ち、その両端に手を掛けて下半身を滑り込ませる。アクセルとブレーキのペダルユニットはワンタッチで前後にスライドでき、身長135〜185cmまで対応。さらにステアリングのチルト調整も可能で、いとも簡単にベストなドライビングポジションを決めることができた。
身長175cmの筆者も、簡単な調整でベストなドライビングポジションを確保!


エンジンを始動して、いざ本コースへ。まず驚いたのがブレーキタッチの良さだ。左足で制動力をコントロールしやすく、ストレートからコーナーへの進入時も微妙な踏力の変化にGR KARTは見事に応えてくれる。カート初心者の筆者がもうひとつ驚いたのは、体感スピードの速さだ。わずか215ccの空冷エンジンとはいえ、アクセルを踏み込めば元気よく加速していく。鋼管フレームを採用した車体は、路面からの鋭い突き上げもダイレクトに伝え、それが走りの臨場感をいっそう高めている。
ステアリングの反応はクイックで、最初はコーナーの曲率に対してどれほど操舵すればよいのかわからなかったが、周回を重ねるごとにGR KARTの軽快なコーナリングに魅了されていった。面白いのは、しっかりとアウト・イン・アウトのラインを取らないとリヤが滑り出し、自分のミスをGR KARTが教えてくれることだ。的確に操作しなければ速く走らせることはできない。なるほど、これは確かに運転がうまくなるカートだと腑に落ちた。気がつけば、前を走っていた同業者とサイド・バイ・サイドやテール・トゥ・ノーズの接近戦を繰り広げ、すっかり走りに没頭してしまった。これはめちゃくちゃ楽しい。
トヨタ初のカート生産工場「蒲郡GR KART工房」


これほど本格的な走りが楽しめるGR KARTを、いったいどうやって38万5000円という価格で実現したのか。その秘密を探るべく、午後は愛知県蒲郡市にある「蒲郡GR KART工房」を訪れた。2026年6月に完成した同工房は、TPSの考え方を取り入れ、1台ずつ丁寧に生産する小規模なファクトリーだ。フレーム、アッセンブリー、物流、オフィスの4エリアで構成され、約20名の従業員が働き、生産能力は1日8台。
工程の中でも特に見応えがあったのが、安川電機のAIロボット「MOTOMAN NEXT」によるフレーム溶接だ。GRと同社が共同開発したアーク溶接技術「SFA工法」の知見を応用し、フレームパイプの隙間や温度などを自ら認識・判断しながら溶接を行う。さらに溶接後の品質確認や補正まで自律的に実施。これまで熟練工の技能に頼っていた工程をAIロボットが担うことで、品質の安定化とコスト削減を両立しているのだ。
最新AI溶接と自動車メーカーの生産技術で低価格を実現


もうひとつ、クルマ屋としての矜持が感じられたのが、車体の骨格となるフレーム加工だ。GR KARTはコストを抑えるため、一般的なレーシングカートに用いられる高価なクロモリ鋼管ではなく、安価な鋼管を採用。自動車の生産現場でも使われるパイプベンダーを活用し、高精度な曲げ加工を施すことで、コストを抑えながら個体差の少ない安定したシャシー性能を実現したという。40万円を切る価格はAIを用いた最新の溶接技術や、自動車メーカーならではの生産技術によって支えられているのだ。
ミニバンで容易にサーキットへ!



工房見学後に行われたラウンドテーブルでは、GR KARTを使った今後のレース構想も明らかになった。まず11月14日のスーパー耐久最終戦・富士では、入門カテゴリー「ファーストS耐」の一環として親子カート大会を試験開催する予定だ。さらに2027年からは、全国各地で行われているカートレース「SLカートミーティング」でGR KARTのワンメイクレースを開催する計画もある。ジュニアから大人まで、さらには親子で参加できるクラスも検討されている。
GR KARTが切り開くモータースポーツの未来に期待!


GR KARTが目指すのは、未来のレーシングドライバーを育てることだけではない。子どもから大人まで、家族でモータースポーツを楽しみ、生涯にわたって親しめる環境をつくることだ。自動車メーカーが本気で開発した38万5000円のレーシングカートが、日本のモータースポーツの景色を変える。そんな未来にワクワクすると同時に、筆者自身も思わず1台欲しくなってしまった。
【GR KART関連情報】
車両取り扱い店舗一覧(GAZOO Racing公式)
https://toyotagazooracing.com/jp/grkart/shop/
用品・スペアパーツ(GR KART楽天市場店)
https://www.rakuten.co.jp/grkart/

