連載

自衛隊新戦力図鑑

世界的な実績を持つ装甲車両

陸上自衛隊は、現在使用している「96式装輪装甲車」の後継として、2022年に「パトリアAMV」の導入を決定した(正確にはAMVの発展型であるAMV XP)。陸自は2010年代に、96式のメーカーである小松製作所のもとで、96式後継車両の開発が進めていたのだが、同社が防衛事業から撤退したことから頓挫し、再度の選定を経てフィンランド・パトリア社製の本車が選定された。ただし、フィンランドからの輸入ではなく国内生産(ライセンス生産)であり、日本製鋼所が製造を担当している。

こちらは96式装輪装甲車。日本の小松製作所が開発した装輪装甲車で、約400両が製造された。日本全国で見ることができる車両だが、近年は老朽化のため故障なども多く、稼働数が低下していた(写真/筆者)

パトリアAMVシリーズは、本国フィンランドはもちろん、ポーランドやスウェーデンなど複数の国に採用されている実績のある装甲車両だ。人員輸送車両として、あらゆる面で96式を上回る性能を持っている。たとえば防護力は、96式が歩兵の銃器や砲弾の破片に耐える程度と言われているのに対して、AMVは最大で25mm機関砲弾に耐え、さらに炸薬量10kgの地雷の爆発から乗員を保護することができる(一般的な対戦車地雷の炸薬量6~10kg)。

富士駐屯地で公開されたAMV。同車は乗員2名(車長、操縦手)に加え、普通科隊員11~12名を乗車させることができる。

AMVとは「アーマード・モジュール・ヴィークル(装甲モジュラー車両)」の略であり、モジュール構造によって装甲防護レベルを調整することや、用途の異なる派生型を作り出すこともできる。公開された車両は、銘板に「装輪装甲車(人員輸送型)AMV」と記されていたが、どうやら指揮通信型、施設支援型、兵站支援型、患者輸送型など派生型も検討されているようだ。

96式と比較して、AMVはかなり大きい。96式が全長6.5m×全高1.9m×全幅2.5mなのに対して、AMVは8.45m×2.66m×3.49mとなっている(イラスト/EM-Chin)

大量導入で陸自の“機械化”が一気に進む

「96式の後継」として導入されたAMVだが、実際の配備は少し異なるかもしれない。現在、96式はほとんどが「即応機動連隊」に集中配備されている。この部隊は装輪式戦車「16式機動戦闘車」を中心とする部隊であり、陸自は16式と連携するための人員輸送車両として「24式装輪装甲戦闘車」の導入を決定している。つまり、即応機動連隊の96式の役割を引き継ぐのは、24式となる可能性が高い。

左の写真は富士駐屯地で公開されたAMVの後部。左下に「JSW(日本製鋼所)」の文字が入り、国産であることを示している。後部中央はランプドアとなっており、右の写真のように大きく開く(左写真/筆者、右写真/クロアチア陸軍)

そうなると、AMVが配備されるのは全国に30個以上ある「普通科連隊(歩兵連隊)」となるだろう。現在、普通科連隊は人員輸送用に防護力の低い「軽装甲機動車」や「高機動車」を充てており、もしAMVが配属されるなら、戦闘力を飛躍的に高めることになる。

今回公開された車両は有人の機関銃塔を装備しているが、無人のRSW(リモート武器システム)の搭載も検討されているようだ。メーカーには、スウェーデンのコングスベルグ社の名前が挙がっている。写真は同社の12.7mm機関銃搭載型「プロテクターRS4」(写真/筆者)

AMVの予算計上は2023年度に始まり、今年度までに82両分が計上されている。最終的な取得数量は、810両との見積もりもあるが、これは96式の381両を大きく上回る(ただし、派生型を含む数字であることに注意)。前述した24式とあわせれば、普通科部隊の機械化(装甲車両化)が大きく前進し、より柔軟な運用が可能となるだろう。

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