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エンジンオイルの挑戦——トレンドは「長寿命」から「省燃費」支援へ

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エンジンオイルに求められる性能と成分の関係

この20年ほどを振り返ると、エンジンの進歩以上にオイルの性能は向上した。長寿命化が著しく進み、それとは二律背反の関係にあった燃費性能もうまくバランスされた。そして、全世界的に高まるエネルギー効率への要求から、オイルにも性能ジャンプが求められている。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 金属同士が接触し合うことで作動する機械では、潤滑が不可欠である。一般に潤滑には「潤滑油=オイル」を用いる。金属表面に極薄の油膜を形成することで金属同士がじかに接することを防ぐ。とくにエンジンのように高温にさらされる機械では、油膜が切れると焼き付きを起こすので、潤滑は非常に重要である。潤滑能力は潤滑油を送り込むポンプの能力と潤滑油そのものの性能に大きく依存しており、だから潤滑油の性能が問われるのである。

 エンジン内につかわれるエンジンオイルの寿命設計は、自動車メーカーごと、エンジンごと、あるいはそのエンジンの使用目的ごとに異なるが、過去20年を振り返れば格段に長寿命(ロングドレイン)化した。かつて走行5000kmごとの交換が目安だったものが、近年では3万km無交換まで保証されるようになった。これは酸化防止性能の向上による効果だ。オイル中の炭素化合物に酸素が結びついて酸化反応が進むが、フェノール系やアミン系の化合物は酸素との結合連鎖を止める作用があり、エンジンオイルには必ず添加されている。


 また、距離を重ねたオイルによって発生したデポジットがエンジン内部に堆積すると燃料に影響するため、清浄分散剤も欠かせない。しかし、清浄分散剤はオイルの粘度を上げてしまうので、機械にとっては抵抗になってしまう。燃費を悪化させる要因である。近年は燃費に対する要求が高まり、自動車メーカーの純正オイルではとくに燃費向上(つまりフリクションロスの低減)という効果がオイルに求められる。ギヤや軸受けなどは、摩擦損失を低減するとなると表面処理や素材置換などが必要になり、いきなり部品が高価になる。しかし、オイルである程度の対策が可能になれば、機械側は従来のままで済む。よく「機械部品でのフリクションロス低減は1万円オーダー」「オイルなら100円オーダー」と言われるが、0.5%でも1%でも、とにかくオイルで燃費を稼いでもらいたいという要求が現在はますます大きくなってきた。

低粘度オイル設計が解決すべき二律背反

 オイル表記として一般的につかわれているSAE(米国自動車技術者協会)粘度分類は、「W」の前に付く数字が低温時の粘度(Wはwinter)、「-」のあとの数字は高温時の粘度を表す。ふたつの数字で表記されているオイルが、いわゆるマルチグレード・オイルであり、ふたつの数字の差が大きいほど幅広い気候条件に対応できることを表す。近年、自動車メーカーの工場充塡オイルが0W-20になった理由は、モード試験で測定される冷間始動時の燃費を稼ぐ目的と思われる。0Wなら-40°C程度での始動性が保証され、潤滑油技術者が言うところの「シャバシャバなオイル」である。ちなみに、高温側の20という数字は耐熱性を表しているわけではない。

 酸化防止性能と燃費性能の両立は難しい。酸化防止=長寿命化を重点に据えると、そのための添加物量が増え、結果として粘性抵抗が増えて燃費が悪くなる。オイル設計では、こうした二律背反の部分をどうバランスさせて全体性能を向上させるかが重要である。近年はシミュレーションの精度が上がり、添加剤の組み合わせによる効果を相当部分まで予測できるが、それでも実際に試験油を製造してみなければわからないことが多いと言う。

 過去、日本ではエンジンオイルの燃費対策としてモリブデンを主原料とする添加剤「Mo-DTC」を使用してきたが、これを500ppm以上使用するとモリブデン由来のデポジット(かす)が増える。オイル規格の見直しもあり、デポジットを発生させない量での添加に方向転換されたほか、低温時のみ粘度低下させる設計へと移行している。オイルの低粘度化は低温時の燃費に効くが、高温時には油膜の保持が難しくなる。そこで、低温時に粘度低下の効果が大きくなるよう添加剤を工夫している。

 この対策として、ベースオイル(基油)の改良やポリマー系の粘度指数(VI)向上剤添加などが行なわれている。高温時に効くMo-DTCに依存しすぎないよう低温時の特性を改善するという方法だ。また、酸化防止剤や清浄分散剤も粘度を高める要因となるため、効果の高い成分をごく少量だけ添加している。自動車メーカーからの要望は、ピストンリング周りの抵抗低減が最も大きく、ピストンリングメーカーへのオーダーと合わせて大きな改善効果を生んでいる。

出光興産の主力オイル「エコメダリストZEPRO」。近年では国内自動車メーカーの初充塡(工場充塡)オイルに0Wー20が使われる例が増えている。

 近年、「エンジンオイルが減らなくなった」と言われる理由は、ピストンリングも含めたエンジン側の密閉性が向上した効果が最も大きい。シリンダー側壁面を覆うオイルの燃焼室への侵入がごく少量になり、そのため燃料といっしょに燃やされるオイル量が減った、ということだ。これはガソリン車の三元触媒やディーゼル車のDPF(ディーゼル・パーティキュレート・フィルター)にオイル成分の燃えかすが入りにくくなったという効果ももたらしている。

 現在は、世界的に低燃費化が志向されている。当然、オイルにもこれを助ける性能が求められる。以前は長寿命化が最大の要求だったが、近年は燃費が最優先されるようになった。とは言え、使用済みオイルは廃棄物であり、極力減らしたい。長寿命化と低燃費化の新たなバランスの確立がいま、オイル技術者には求められている。

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