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日本の名エンジン EJ20:現在も使われる水平対向の傑作機 スバル EJ型エンジン【EJ20】スバルを支え続けただけじゃない。WRCを制した水平対向エンジンの名機

  • 2019/08/16
  • Motor Fan illustrated編集部
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2002年インプレッサ STI専用高強度クランクシャフト

思うところをかたくなに守り続けるメーカーがある。それを“老舗”と呼ぶ。自らの思想の正しさを信じなければ、アイデンティティなど保てるわけがない。たとえ頑固と言われようが、正しいものは正しい。そういう気概に支えられている技術は決して古びたものではない。富士重工業(現SUBARU)が作り続けていた水平対向エンジンもそうだ。EJ型水平対向4気筒エンジン。スバルを支え続けた名機と言っていいだろう。

TEXT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)

 現在スバルの多くの車種に搭載される主力エンジンの座を長年担ってきたのがEJ20だ。レガシィというブランドをとおして、そのハイパフォーマンスなキャラクターを築き上げた原動力となったエンジンである。これを語る時に無視出来ないのは、デビュー当初にセンセーショナルな話題をさらった世界速度記録の樹立だ。

 スバルがこだわりのAWDシステムを超高速で安定して疾走させた事実は、EJ20が既に侮れないポテンシャルと確かな耐久性を備えていることを物語るに十分なインパクトがあったのだ。もともとスバルのクルマはフロントに水平対向の4気筒エンジンを縦置き搭載する。その左右対称デザインと低重心設計をアピールする特異なクルマ造りでそのブランド力と、多くのファンを築き上げてきたことは既に良く知られている。

 何しろ現在もなお、水平対向エンジンにこだわる自動車メーカーはスバルとポルシェだけなのだから世界的にも実に貴重な存在なのである。

 2010年に登場したフォレスターにはロングストローク化された新世代ボクサーエンジンのFB型が加わったがEJ型は現在もなおスバルブランドの多くの主力モデルに搭載されるメインエンジンであることに変わりはない。

 レガシィを始めB4やインプレッサに搭載。DOHC16バルブでデビューしたエンジンだが、標準仕様としてSOHC16バルブヘッドを組み合わせ、少し穏やかな性能に仕上げられたタイプもある。またDOHCにはインタークーラーターボモデルも揃えられ、高性能エンジンの代表格に相応しい存在だ。先ずはそのルーツに触れておこう。富士重工業が独創的な会社であるイメージを確かな物にしたのがボクサー4とAWD(全輪駆動)の採用を推進した点にあることは疑いの余地が無い。しかし、そもそもエポックメイキングな新機種投入で注目を集めたのは、1966年登場のスバル1000(ボアは72mm)のEA型エンジンだった。
 
 東京は芝のプリンスホテルで大々的に開催された発表会。その催しに出席できた理由は、もはや定かではないが当時中学生だった筆者はなぜかその会場に居た。テラスの大窓こそ開放されていたが、屋内に展示された新車の内の1台はエンジンが掛けられており、それに気づかないほどの静かなアイドリング音に度肝を抜かれたことを今でもハッキリと覚えている。

 当時はまだ、エンジンや走行騒音の静かさを競ったり評価する概念は、市場にはまだあまり芽生えていなかったと思うが、会場にいた多くの人が、スバル1000の静粛性には、一様に驚かされていたのは言うまでもない。
 
 ボンネット全面がワイドに開くフードの中を覗くと水冷エンジンに見慣れた普通の冷却ファンは存在せず、薄いラジエターが二つと小さな電動ファンがあった。平常時はファンが回らない静かさに加え、左右シリンダーの往復運動が互いに振動を打ち消し合うと説明された水平対向エンジンならではの静粛性も相まって、当時のクルマとしては格段に静かだったのだ。

 防振防音対策に今ほど高度な技術力がなかった時代だけに、エンジンそのものの音振が如何に優れた素性のよい仕上がりだったかが想像できるだろう。当時のクルマは大同小異、エンジンルームの中は空いた状態で地面が見えるのが常だったが、初めてボクサーを見たときは、他のライバルよりもより小さくコンパクトに見えたのも印象的。エンジンルームの底の方に横に寝かされたシリンダーには興味津々だった。

 さらにFF方式の採用も新鮮だった。ミニを始めオースチンぐらいでしかその存在を知らなかった当時の筆者にとって、それがどんな乗り味なのか、早く乗ってみたい衝動にかられたのを覚えている。後輪駆動用のプロペラシャフトを通すトンネルの無いフラットな室内フロアはとても広く快適。さらにトランクルームの巨大さも群を抜くレベルにあった。1ℓエンジンの搭載は大衆車需要をターゲットとしたハズだが、どこか高級車を思わせる、プレミアムな雰囲気を漂わせていたと記憶している。第一世代ボクサーとして活躍したこのEA型エンジンが開発されたのは1961年に試作されたEA41Xの796cc(ボアは65mm)に始まり、以後60mmだったストロークはそのままに、ボアアップのみでなんと倍の排気量に至る、1595ccのEA71型(ボアは92mm)まで拡大してきた歴史を持つ。

 もともとのショートストロークエンジンが排気量の拡大に伴い超ショートストローク化への道をたどってきたわけだ。1100のFF-1や1300Gスーパーツーリングなどは、とてもホットなイメージがあり、現在のレガシィ人気の素を築いたことは間違いないと思う。

名機ゆえにその姿は不変

 1980年代も終わろうとする1989年に、EJ型エンジンはデビューした。もちろん水平対向エンジンである。スバル初の乗用車であるスバル1000から使われてきたEA型がその先代。EA型では3個だったクランクシャフト支持ベアリングは5個になり、高出力化へ対応。クランクシャフトは長くなり、ボアピッチも拡大された。高出力化を意識しつつも全体はコンパクトにまとめることが求められたため、極端なまでに薄いウェブを持ったクランクシャフトなど、その構造は芸術的とさえ言える繊細さを誇っている。今なお現役で使い続けられているエンジンである。

型式:EJ203
種類:水冷水平方向4気筒SOHC
総排気量(cc):1994
ボア×ストローク(mm):92.0×75.0
圧縮比:8.5
最高出力(kw/rpm):103/5600
最大トルク(Nm/rpm):186/4400

OTHER SIDE

先代は傑作機 EA型

ボクサーの歴史は、スバル1000に載せられたEA52に始まっている。今見てもシンプルで美しいフォルムが印象的。低重心設計に貢献するパワーユニットであることが、一目でわかるデザインだ。もともと800cc で開発はスタートしたが、市販版は1ℓ。その後このエンジンはボアアップによる排気量拡大の路線を歩む。1966年デビュー当初からオールアルミエンジンで設計されるなど多くの先進性を誇っていた。

基本構造は継承~EJ型誕生

〈2.0ℓ・ターボ〉1989年、初代レガシィの投入にあわせて新開発されたのがEJ20である。これによりスバルのボクサーエンジンはハイパフォーマンスを発揮する色濃いキャラクターが加えられることになった。コグドベルトで駆動されるツインカム16バルブのNAが基本となるが、よりパワフルなターボモデルを筆頭に、シングルカムの1.8ℓなどバリエーションの充実が図られた。ボア×ストロークは92×75mmの超ショートストロークタイプだ。
〈1.8ℓ・NA〉
〈2.0ℓ・NA〉
〈2.0ℓ・ターボ〉

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