内燃機関超基礎講座 | トヨタ・プリウスとHEV用エンジンの20年【下】
- 2021/05/08
- Motor Fan illustrated編集部

そもそもの出発点は「燃費を2倍にする」ことだった。内燃機関と電気モーター/発電機の組み合わせは、その目的のために生まれた。正式な開発スタートは1995年2月であり、すでに20年以上前である。世の中がハイブリッド・エレクトリック・ビークル=HEVの時代に突入するのは1997年12月の初代プリウス発売からである。とかく「電気」側が注目されるHEVだが、その性能の半分はエンジンが担っているのだ。内燃機関には、まだまだ果たさねばならない役目がある。
TEXT&PHOTO:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
*本記事は2016年11月に執筆したものです

内燃機関超基礎講座 | トヨタ・プリウスとHEV用エンジンの20年【上】
そもそもの出発点は「燃費を2倍にする」ことだった。内燃機関と電気モーター/発電機の組み合わせは、その目的のために生まれ...
【上編より続く】
しかし、エンジンを止めると三元触媒はどうなるか——プリウスは燃費だけでなく排ガス性能も最先端を狙っていたので、この部分も検証が行なわれた。その結果、エンジンを止める前にフューエルカットし、「カラ回し」にしてから止めることで三元触媒内をリーン雰囲気にしておき、再始動時にはほんのわずかな燃料リッチを使って触媒内をちょうど良い状態にする制御が採用された。
それはいいとして、エンジン停止によって三元触媒の温度が下がり再活性化に時間がかかるのでは?——と、当時私は技術者氏に質問した。答えはこうだった。
「三元触媒は400°C程度で活性化し、有害成分を除去しますが、プリウスの1NZ-FXE型エンジンはアイドリング中の排ガス温度が高くてもせいぜい200°Cです。つまり、アイドリングさせていると三元触媒にとっては冷気を浴びせられることになるのです。冷気を当てずに、そのまま保温しておくほうが触媒温度が下がらないのです」
これも現在では当たり前の知見である。アイドリングストップが普及した理由のひとつはこれだ。では、冷間始動時はどうなのか。寒い朝にプリウスを始動させたときはどうなのか。当時の技術者氏にふたたび聞いてみた。
「プリウスはシリーズパラレル方式のHEVですから、エンジンを駆動に使わないで始動・発進が可能です。始動直後は、エンジンを三元触媒の暖機のためだけに使うことができます。VVTを使い、1200~1300rpmで点火を遅角して排気温度を上昇させ、三元触媒のために急速暖機させています。現在のプリウスも同じです。エンジンだけのクルマだと、目一杯に遅角させたらトルクが出ずに走れませんが、THSはそこでモーターを使えます」

THSはその後、モーターのパワーを上げるため昇圧を取り入れた。さらに組み合わせるエンジンの排気量を1.8ℓに拡大し、モーターに減速機構を取り入れた。初代THSには減速機構がなかったが、たとえば2分の1減速前提ならモーターを高回転運転させトルクは減速によって増幅できる。THS IIはこの効果を狙った。
では、エンジン側はどう進化したのか。初代プリウスの1NZ-FXE型エンジンはアイドリング直上から4000rpmまで使う前提で設計され、それ以上の回転域は切り捨てた。耐久性のベースは4000rpmであり、そのぶん低フリクション設計に重点が置かれたのだ。ピストンリングの張力を下げ、メタル部分を幅狭にしていた。これによってダウンスピーディング効果も得ていた。そして全域ストイキ運転である。
いま思えば、歴代プリウスのエンジンがその後の世代のトヨタのガソリンエンジンの雛形になっていることに気づく。初代はアトキンソンサイクル、VVT、低フリクションの3点セットであり、その後、ほかのエンジンシリーズに展開された。2代目は、エンジンはあまり変えずに相棒であるモーターが進化した。未知数だったモーターの、どこをどう変えればさらに全体効率がよくなるのか、だんだん使い勝手がわかってきた結果である。言い換えれば、エンジンの進化がモーターを引っ張ったことにもなる。そして、3代目プリウスでエンジン排気量を1.8ℓへと拡大した際にクールド(冷却)EGRが採用された。理由は「全域ストイキを守る」ことだった。
「3代目プリウスのキモの部分は、むしろエンジンです。最大出力点でもEGRを入れていました。WOT(ワイドオープン・スロットル)なのでEGR率は5%程度ですが、これで助かりました。高負荷でのEGR率5%は低負荷側の30〜40%に相当します。EGRを入れられるぎりぎりまで投入しました。このEGRと73kWの出力と排気温度で三元触媒を守っていました」
このクールドEGRもその後、トヨタの標準装備になる。もうひとつ、3代目プリウスではベルトレスエンジンが実現した。もともと電動エアコンであり、オルタネーターはエンジンのクランク軸直結のモーター兼発電機で代用するから、ベルト駆動していたのはウォーターポンプだけだった。信頼性が高く安価な電動ウォーターポンプを使えるようになったことで、初のベルトレスが実現した。

4代目は、最大熱効率40%という目標がエンジンに対して掲げられた。これを直噴ではなくポート噴射のまま実現する。エンジン名称は3代目プリウスの2ZR-FXEのままだが、中身は変わった。40%実現のための最大の変更点はEGR率だった。気筒ごとのEGR量を均一にするため、まるで吸気マニフォールドのような4-2-1管のトーナメント型EGR通路を作り、これを吸気系に組み込んだ。しかもEGRガスの出口は気筒ごとにチューニングされている。ガス流動の特性を見極め、4気筒それぞれでEGR量をそろえている。
しかし、あちこちを細かく改良しても40%に届かなかった。機械損失も徹底的に叩き、その結果8割の部品が新設計になった。それでも最大熱効率40%に、小数点以下の数値で届かなかった。開発の最終段階で採用されたのは、シリンダー壁面の冷却水通路に挿入するウォータージャケットスペーサー(WJS)だった。
その部品を見せていただいた。ステンレス製で円弧状の枠を4気筒分並べた構造で、四角くて黒い樹脂部品が取り付けられている。このWJSは吸気側と排気側に専用の形状が充てられる。この部品が40%を達成した最後の種だと聞いて驚く。

「オープンデッキ構造のシリンダーブロックですから、排気側と吸気側の冷却水路はできるかぎり対称に設計します。そうしないとヘッドボルトを締めたときに微妙な変形が出やすくなります。しかし、吸気側と排気側では冷却要件が異なります。それと、エンジン生産ラインの都合で言えば、なるべく同じ加工で済むようにしたい。そのため、冷却水路はこうした要件で設計し、実際の冷却性能のチューニングではWJSを使います」
だから吸気側と排気側に入れるWJSの形状が違っていたのだ。そして、黒い樹脂の部分が流量と流速をコントロールするエクスパッドと呼ばれる部品である。さらに、ボア間の冷却のため冷却水の流速をコントロールする衝立がところどころにステンレスの曲げ整形で形づくられている。ものすごく細やかな設計である。
これ以外では、クランクシャフトのメインジャーナルの改良、冷間始動直後にEGR冷却を一時的に停止させるフローシャッティングバルブの追加、燃焼室形状の変更、ピストンリングへのオイル供給量チューニングなど、機械部分の見直しが多岐にわたった。新規設計部品が8割というのは、こうした細かな見直しの結果である、しかしコストは上昇していない。
このエンジンをそのまま使うプラグインHEV仕様では、フライホイールにワンウェイクラッチ(OWC)が組み込まれる。これによって加速時に発電機をモーターとして加勢させることができるようになった。ほかの部分はいっさい変更なし。唯一THSユニットの前側半分のハウジングが変わっただけである。
初代から現在まで、プリウスのTHSはエンジンの力を発電と駆動の両方に使うという方式を継承している。エンジン直達項がある電力リサイクル型HEVである。そして、エンジンと直結されたMG1はトルクセンサーの役を果たすサーボモーターである。エンジンが発生しているトルクを計測できるから、エンジンから車軸にかかっているトルクをつねに把握でき、不足分はMG2に指示して取り出す。97年に発売された初代プリウスが、基本構造を変えずにブラッシュアップできた背景は、このエンジンとモーターの直達という部分にあるだろう。直結しているから、双方の進歩が性能なければ性能は向上しない。だからエンジン設計が重要であり、システムの半分を担っている。
トヨタの技術者氏はこう言う。
「THSは機械分配式です。電気分配式という選択肢もあります。初代THS開発のときには、どちらにするかずいぶん悩みました。実は現在も悩んでいます。当時に比べてモーターやインバーターがものすごく進歩し、コストも安くなりました。THSはコストパフォーマンスも含めての性能が重要なのです。より多くのモデルに搭載し、CO2削減効果を広い面積で得る。そういうHEVです。だから悩むのです」
次世代のTHSは変わるのか、それとも変わらないのか。いずれにしても、エンジンがシステムの半分を占めることは変わらないだろう。
【了】
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