整備士不足のなか、過酷環境の実車で学ぶ“現場力”

自動車整備士の不足が深刻化するなか、日産自動車大学校の学生による東京都の八丈島での「学生によるおクルマ安心無料点検」が2026年3月15日に実施された。塩害や厳しい使用環境にさらされる島内の車両を対象に、学生が実践的な点検を行なう取り組みで、今回が2回目の開催となる。参加したのは、全国に5つある日産自動車大学校(栃木校、横浜校、愛知校、京都校、愛媛校)から選抜された26名の学生たち。いずれも3年生(この4月から4年生になる)で、すでに二級自動車整備士免許を取得している。

国内の自動車整備士は約33万人で、過去10年で1万人以上減少している。一方で自動車保有台数は約8300万台に達しており、需給ギャップは拡大。有効求人倍率は5倍超と異例の高水準で、平均年齢も約47歳と高齢化が進むなど、整備士不足は深刻化している。若手人材の確保と育成が業界の大きな課題となっている。こうした状況を背景に、日産自動車大学校は学生の実践教育と職業理解の促進を目的として、八丈島での現地点検を実施している。

このイベント、じつは2025年10月に実施されるはずだったのだが、伊豆諸島を襲った台風22号、23号のせいで延期になっていた。仕切り直しとなった今回、学生も教員やスタッフも万全の準備で臨んだ。会場は八丈町役場に隣接する防災広場。学生たちは早朝からテントをたて会場の準備をする。イベント開始時刻の10時になると島の住民のクルマが会場に入ってくる。日産車だけでなく、他銘柄のクルマも多い。軽自動車、ミニバン、軽トラ、電気自動車、比較的新しいクルマ、かなり古く傷みが進んでいるクルマ……リアルワールドならではのバラエティに富んだクルマが学生のもとへ滑り込んでくる。午後になると点検に訪れるクルマが格段に増えた(どうやらWBCの日本vsベネズエラ戦が終わったから……だったようだ)。終了の16時までに点検したクルマは41台。


八丈島の島民にとっても、若い学生たちの来島は歓迎されており、クルマを無料で点検してくれるこのイベントも2回目とあって楽しみにされていたようだ。
自動車整備士不足の課題に取り組む国土交通省や自動車整備振興会の関係者も視察に訪れるなど、注目度も高い。
塩害と過酷環境がクルマに与える影響


八丈島は生活においてクルマが不可欠な地域である一方、海に囲まれた立地による塩害、急峻な地形による負荷など、クルマにとって厳しい環境条件が揃う。
実際の点検では、外観は一般的な軽自動車でも、ドア下部やトランク周辺の腐食が進行し、金属が欠落しているクルマが確認された。さらにエンジンルーム内では、ボディ骨格に腐食が及び、構造強度の低下が懸念される個体も見受けられた。
また、外装の劣化が軽微に見える車両でも、タイヤの状態には深刻な問題が潜んでいた。前輪は装着から4年で溝がほぼ消失、後輪に至っては製造から13年経過したタイヤが使用されているケースも確認され、早急な交換が必要な状況だった。
都市部ではほとんど目にすることがない状態だ。島嶼部特有の使用環境が、クルマの劣化を大きく加速させていることがわかる。


学生が実感した“教室では得られない経験”

点検作業では、タイヤ、オイル、冷却水、バッテリー、灯火類などの基本項目を中心に、1台ずつ丁寧にチェックが行なわれた。
今回の点検に参加したのは、各校から選抜された学生たちだ。日産横浜自動車大学校の大野さん(一級自動車工学科3年)は、次のように語る。
「最初は不安もありましたが、実際にお客さまと話してみて、学校で学んできたことが活かせていると感じました。接客の仕方や説明の方法など、授業で学んだ内容がそのまま役に立ちました」
とくに印象に残ったのは、ユーザー対応だという。
「普段はペーパーを見ながら応対練習をしますが、今回は直接お客さまと向き合うことができました。目を見て話すことや、わかりやすく説明することの大切さを改めて実感しました」
一方、日産愛知自動車大学校の中村さん(1級自動車工学科3年)は、実車ならではの発見を挙げる。
「教わってきたことが、実際のお客さまの言葉と一致していると感じました。また、日産車以外の車両に触れられたことも大きな学びです。軽トラックのエンジン配置など、実際に見て初めて理解できることが多くありました」
さらに、島特有の車両状態にも驚いたという。
「腐食が進んでボディの一部が欠けているクルマもあり、想像以上でした。普段の実習では見ない状態で、とても印象に残っています」







実車からしか得られない学びがある

教室や実習場では再現しきれない“実際の使用環境にあるクルマ”に触れることで、学生は整備士としての判断力や対応力を磨くことができる。
同時に、ユーザーと直接向き合う経験は、整備士という仕事の社会的な価値や責任を実感する機会にもなっている。
整備士不足が続くなか、こうした現場型の教育は次世代人材の育成においてますます重要になるはずだ。来年以降も継続予定というこの取り組みは、学生にも島の住民にも意義の大きい試みだといえる。





