「オジサンを喜ばせる」だけのアイテムにあらず

XSR155の発表会会場の中心に置かれたブラックのXSR155を見た瞬間、「間違いない、RZ250だ!」と思った。
丸みを帯びた、往年のバイクらしい明確に独立したタンクは、ピアノブラックと表現したくなる深い艶のある漆黒。そこへ、大き過ぎないやや控えめとも見える赤地にYAMAHAのロゴが映えるグラフィックが配され、ゴールドのラインにより全体が引き締められている。1980年代に一世を風靡した2ストローク250cc、ヤマハRZ250の記憶が、XSR155のブラックモデルに重なって見えた。あの頃、バイク少年だった我々オジサン世代は、きっと目を輝かせながら同じ反応をするはずだ。
しかし、カラーリングを担当したデザイナーの溝越万莉さんに話を聞いて、「必ずしもオジサンを喜ばせるためだけのもの」ではないことがわかってきた。

「XSR155ありき」で生まれたブラック
溝越さんはモーターサイクルのデザイン歴6年。その前は電動アシスト自転車のPASを担当していたという。最近ではオートカラーアウォードでグランプリを受賞したR3や、シグナス、アクシス、ジョグといったスクーター群、さらに中国向けアベニュー、マレーシア向けアバンティスなど多彩なモデルを手がけてきた。

率直な質問、個人的にホワイトにブルーラインのRZが好きだった筆者が「RZをオマージュとしたカラーはなぜブラックを選んだんですか?」と問うと、溝越さんは少し間を置いてこう答えた。
「どちらかというと……XSR155を中心に考えていて、シンプルなカラーで、かつXSRの魅力が拡張されるような色がいいなってなった時に、黒にしようとなりました。色んな方とお話をしていくなかで、だったらRZのブラックとコラボしたらいいじゃない、という順番ですね」

つまり出発点はRZへのオマージュではない。XSR155に何が似合うかを突き詰めた先に、シンプルで力強い黒は必要だろうと決まった。その中で、RZ250のブラックという選択肢が浮かんできた。「じゃあ、RZを意識しなくても、グリーン・シルバー・ブラックというラインナップになったかもしれない?」と重ねると、「なったかもしれないです」とあっさり肯定した。確かに記憶を辿れば、RZ250オマージュありきであれば、1979年の第23回東京モーターショーでセンセーショナルなデビューを果たし、カタログその他でイメージカラーとなったホワイトを選んだかもしれない。

おじさん世代が感じた「RZの復活」は、ある意味思い入れが生んだ幻だったわけだが、若い現在のデザイナーも「これはいい」と納得して選び、仕上げた。そこにあるのは、世代を超えて”あのデザイン”が「普遍的にかっこいい」との証明でもある。

デザイナー自身のお気に入りは「グリーン」
溝越さん自身が最も気に入っているカラーは、RZを彷彿とするブラックではなく、グリーニッシュグレーメタリック2(グリーン)だという。「やっぱりグリーンがお気に入りです」とはっきり言った。

その理由を聞くと、デザイナーとしての狙いが見えてきた。
「155ccになって排気量が増えたからこそ、より自由で闊達な印象を出していきたかった。その印象をカラーリングに反映させたのが、主にこのグリーンのカラーですね」
このグリーンは「ロハスミント」という名の塗料を使った日本市場初の新色。発表会でデザイン担当として壇上に立った溝越さんは「ストロングでタフなのにエレガントでリラックスできる」と表現した。タフなスタイリングのXSR155に、あえてエレガントなグリーンとゴールドを組み合わせるギャップ。

「そういうスタイリングデザインなのに、こうエレガントなグリーンとゴールドを組み合わせるっていう、ちょっとギャップにやっぱり余白が生まれるのかなって思っています。そこが遊び心だと思いますし」
XSRシリーズ含めモーターサイクルが必ず持つシャープさと力強さを抑えたわけですね?と確認すると「はい、”あえて”ですね」と溝越さんはきっぱり答えた。さらに付け加えたのが、このカラーのもうひとつの狙いだ。「今回、男性のお客様だけでなく、女性のお客様や、若い世代の方にも、乗っていただきたいため、ユニセックスな雰囲気も持たせたかったというのが狙いのひとつです」。
なぜ若者は旧車やレトロデザインに惹かれるのか
近年、オジサンたちが不思議に思うほど、若者は旧車やレトロなデザインに魅力を感じているように思えてならない。
「RZ250が現役で人気車だったころ、溝越さんはまだ生まれてないですよね」と聞くと、「そうですね、その時まだ生きてないので……」と笑いながら答えた。では、当時のデザインをどう見るか。

「今見てもやっぱり魅力的だなって思います。RZってやっぱりその当時からデザインの新しさが話題になっていたと思いますが、現在の視点で見ても新しいですし、かっこいいなって思わせるデザインだと思います。若者から見ても美しいと思えるからこそ、こうしてリバイバル的に採用していますね」
クルマでもバイクでも、若い世代が古いデザインを好む傾向がある。なぜなのか? 溝越さんの答えは明確で鋭かった。
「頑張りすぎない感というか、心にゆとりを持てるというか。このモーターサイクルに関してもその自由な遊び心だったりとか、片肘張りすぎないけど楽しめるというコンセプトにあります。そういうマインドって、若い人の中に今あると思うのです。だからこそ昔のレトロ喫茶だったり、旧車とかに惹かれるんだと思います」。

「理論的、合理的じゃない理詰めじゃないところから生まれたものに、心動かされることがありますか?」と問うと、「そう思います。色の組み合わせだったり線だったり、そういうものに余白とかゆとりを感じますね」と返ってきた。
「例えるなら配信がない頃のポップ・ミュージックには必ずイントロがあったような感じですか?」と言うと、「そうそう、その通りだと思います」と溝越さんは笑った。

最新のデザインに欠けていて、レトロ・デザインにあったのは余白だった。効率や速さ、機能や規制や法規だけに最適化されていないからこそ、見る者に自由な想像の余地を与えたのか。いや、もしくは、無理に想像を強いることがなかったのかもしれない。現在のデザインは、性能をカタチに表さないとならない呪縛に囚われすぎているのではないか。デザインだけでない、今の社会そのものが、若者が惹かれる余白を見失っているのではないか。いや、オジサンたちこそ、余白を欲しているハズだ。
バイクはまだまだ若者の乗り物だ

溝越さん自身、かつてXSR700に乗っていた。今は所有していないが、「また乗りたい」と言う。大型に乗っていた経験から、こう話してくれた。
「大型に乗っていて良かったのは、長距離走行だったりとか、高速道路で安定していることです。けれど、ふざけられないというか。このバイクを思いきり楽しむという意味では、これくらいの排気量の方がいいのかなって思います」。
作り手側がそう感じている。これはXSR155の開発コンセプトそのものでもある。
発表会で示されたデータに興味深いものがあった。国内二輪免許取得者数は、コロナ禍の2021年に向け増加し、その前後から下降気味だが、若年層(10〜20代)に関してはそれほど減少すること無く、比率で言えばむしろ増えており、今もその傾向が続いている。2輪免許取得者内での若年層の比率はおよそ55%で、やはり、バイクが若者に支持されるモビリティのエントリーであることは相変わらずなのだ。

XSR155が示した3色のカラーは、ベーシックなシャープさと力強さのシルバー、「余白」と「遊び心」をまとわせたグリーン、オジサンを狙い撃ちしながら若者にも美しいと感じさせるブラックで包囲網を整えた。

XSR155はスペック以上の魅力を秘めたバイクだ。そう思っていたが、逆にそれは狙って作られたものだった。すなわち、十分なスペックをあえて外に出さないデザインとし、誰もが手に触れやすく、そして乗りやすくしたのがXSR155だったわけである。それはかつて、ロールスロイスのカタログ内スペックでエンジン出力値は、「必要にして十分」としか公表されていなかったことさえ思い出させてくれた。

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