サーキットからパチ屋まで、どんな場所にも似合ってしまう
見ても乗っても、なんだかハッピーになれる。そんな原付といえば、やっぱりホンダ・モンキーだ。ライダーの世代によって親しみのあるモデルは違うけれど、モンキーという名前に特別な響きを感じる人は多いはず。50ccモンキーの最終モデルは2017年発売。ついこの前のようにも思えるが、ルーツをたどれば初代のZ100は1961年生まれ。つまり、モンキーはかなり多くのライダーにとって“人生の先輩”みたいな存在なのである。
もともとは多摩テックの園内用バイクとして生まれたZ100をルーツに持ち、公道走行できるレジャーバイクへと発展していったのがモンキーの原点だ。最初から速さや効率だけを追いかけたバイクではなく、乗ることそのものを楽しむための存在。だからこそ、サーキットでも、街角でも、近所の買い物でも、いや極端に言えば“サーキットからパチ屋まで”、どんな場所にいても妙に似合ってしまう。
カブとともにホンダの二輪史を長く支えてきた原付バイクでありながら、モンキーはどこか肩肘張らない。小さな車体に、丸いライト、太いタイヤ、愛嬌のあるフォルム。速そうに見せようとしないのに、なぜか目が離せない。これがモンキーの不思議なところだ。

折り畳みハンドルや小径タイヤを備えたZ50M(1967年)。遊園地生まれのレジャーバイクという出自を感じさせる、シンプルで愛嬌たっぷりのスタイルだ。
みんなの記憶に残るのは、やはりZ50J型
長いモンキー史の中でも、多くの人にとって馴染み深いのはZ50J系だろう。いわゆる1974年の通称4L以降のモンキーは、モトチャンプ世代の記憶にも強く残っているはずだ。ティアドロップ型タンク、折り畳みハンドルのための“クルクル”ノブ、アップマフラー、リヤショック、前後8インチホイール。小さくてかわいいのに、ちゃんとバイクとして成立している。この絶妙なバランスが、多くの人を惹きつけた。
ただし、進化のスピードはかなりマイペースだった。モンキーに12V電装が採用されたのは1992年モデルからで、公式リリースでは「CDI式マグネット点火方式(12V)を新たに採用」と紹介されている。あわせてヘッドライトは12V/25W、補水不要の小型メンテナンスフリーバッテリーも採用。いま見ると当たり前に感じるかもしれないが、モンキーにとってはかなり大きなアップデートだった。
さらに、ミッションが自動遠心式から4速リターン式になったのも、最高出力が2.6psから3.1psになったのも1985年のこと。ゴリラは1978年にすでにリターン式を採用していたから、モンキーとしては7年遅れでの初搭載だった。ここだけ見ると、なんともスローペース。でも、それもまたモンキーらしい。時代がどんどん進んでいく中で、モンキーだけは独自の時間を刻んでいたようなところがある。

1992年モデルは、12V化、12V/25Wヘッドライト、小型メンテナンスフリーバッテリー、カムシャフト軸受部のボールベアリング採用、オートカムチェーンテンショナー採用が主なトピック。実用面もしっかり熟成された。
ぶっちぎりのアンダーパワー。でも、それが最高なのだ
最高出力3.1ps。数字だけ見れば、スーパーカブと同程度のパワーしか出ていない。速さを語るバイクではないけれど、当のモンキーにとってはそんな評価などどこ吹く風。小さなエンジンでトコトコ走り、必要以上に急がず、乗っている本人も周囲もなんだか笑顔になる。そこにこそモンキーの強い個性があった。
速さやパワーを競う世界とは別の場所にいるから、モンキーは凛として孤高なのだ。小さいからこそ楽しい。遅いからこそ味わえる。非力だからこそ、乗り手があれこれ工夫したくなる。スペック表だけでは伝わらない楽しさが、モンキーには詰まっていた。
乗れば女の子から「かわいい〜」と微笑まれ、かと思ったら男子から「猿が猿に乗ってるよ!」とイジられる。そんな不平等すら笑い話にしてしまうのも、モンキーという存在の強さ。誰が乗っても、なんだか少し楽しそうに見える。これはもう、マジカル遊び道具と呼びたくなる存在である。

およそ60年という長い歴史を持つ50ccモンキーの中でも、一番長く愛されたのがティアドロップ型5ℓタンクを備えるZ50J。ハンドルを折り畳むための通称“クルクル”もモンキーの特徴だ。

空冷4ストOHC単気筒エンジンと、モンキーらしさを象徴するアップマフラー。タフなエンジンは、チューニング系カスタムのベースとしても最適で、社外製パーツを組み込めば125cc化も可能。
カスタムパーツは星の数ほど。なんでも受け入れる懐の深さ
モンキーを語るうえで、カスタムの楽しさも外せない。モンキー用のカスタムパーツは、まさに星の数ほど存在した。種類も値段も選び放題で、少し手を入れるだけでも雰囲気が変わるし、やろうと思えばまったく別モノのような一台に仕立てることもできた。
モンキーはカスタムベースとしても人気が高く、自由度もやたらと高かった。たとえばモンキーベースのZII風カスタムなんて遊び方もできる。小さな車体なのに、何を合わせても不思議と受け入れてしまう懐の深さがある。かわいく乗るのも、レーシーに仕立てるのも、パワフルに走らせるのもアリ。いわゆる4MINI(ヨンミニ)の世界を広げてきた“キング”と呼べる発展性こそ、モンキーが長く愛されてきた理由のひとつなのは間違いない。
派生モデルもまたユニークだった。大容量9Lタンクとトップブリッジ式ハンドルでツアラー的な雰囲気を持たせた「ゴリラ」、高剛性フレームと10インチホイールでスポーツ方向へ振った「モンキーR」、デュアルヘッドライトのBAJAルックをまとった「モンキーバハ」。モンキーという土台があったからこそ、こんな遊び心あふれるモデルたちも生まれた。



50ccを守り続けた、小さくて偉大なレジャーバイク
モンキーは2018年に「モンキー125」が登場するまで、50ccという排気量を守り続けてきた。時代は変わり、交通環境も変わり、バイクに求められる性能や装備も変わっていった。それでもモンキーは、小さな車体と50ccの世界を大切にし続けた。
この楽しいミニバイクは、世界中でどれだけ多くのライダーを育ててきたのだろう。最初の一台として、遊びの相棒として、カスタムの入口として、そして眺めているだけで楽しい存在として。モンキーは、ただの原付という枠を軽々と超えていた。
笑う“猿”に福来たる! 見ても乗ってもみんなハッピー。モンキーは最高のレジャーバイクで間違いなし。もちろん、ゴリラも最高である。もし令和の時代にゴリラ125が復活したら……なんて想像してしまうのも、モンキーシリーズが今なお多くの人の心をくすぐり続けている証拠だろう。

小さな車体、丸目ライト、太いタイヤ、アップマフラー。モンキーらしさは、どこを切り取ってもすぐ伝わる。かわいいだけで終わらない“遊び道具感”こそ、このバイクの魅力だ。 ILLUST:大塚 克
SPECIFICATIONS|HONDA MONKEY(1992)
型式:A-Z50J
全長×全幅×全高:1360×600×850mm
ホイールベース:895mm
シート高:660mm
車両重量:63kg
エンジン:空冷4サイクルOHC単気筒
総排気量:49cc
内径×行程:39.0×41.4mm
圧縮比:10.0
最高出力:3.1ps/7500rpm
最大トルク:0.32kgm/6000rpm
変速機:常時噛合式4段リターン
燃料タンク容量:4.5L
タイヤサイズ(前・後):3.50-8・3.50-8
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
価格:16万9000円
※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】