安い。でも、なんでもいいわけじゃない

トゥデイやレッツ4の魅力は、自転車選びに近いところがある。移動手段として使うなら、スポーツモデルや太いタイヤの個性派じゃなくてもいい。買い物先の駐輪場で目立ちたいわけでもないし、強く主張したいわけでもない。フツーでいいのだ。

ただし、なんでもいいわけじゃない。毎日使うからこそ、エンジンはちゃんとかかってほしいし、荷物も入ってほしい。燃費もよくあってほしいし、取り回しも軽いほうがいい。つまり、安いだけではダメ。生活の道具としての基本性能をきちんと満たしていることが大事なのだ。

原付スクーターは、日常の生活に溶け込むバイクとして、労働者から学生まで幅広く乗られてきた“ファストバイク”的な存在。平成になると、そうした生活密着型の原付スクーターにもコスパ重視のモデルが登場していった。その代表格が、ホンダ・トゥデイとスズキ・レッツ4だった。

どちらも派手なスポーツモデルではないし、豪華装備で威張るタイプでもない。でも、必要な実用性を確保しながら、価格に本気で挑んでいた。いわば“安くていいもの”の世界。ミニバイクシーンにおいて、安さは立派な価値だったのだ。

シンプルな外観とやさしいカラーで、生活の足としてなじみやすい雰囲気を持つホンダ・トゥデイ。安さを前面に出しながらも、22Lのメットインやコンビ・ブレーキなど、毎日の足に必要な実用性はしっかり押さえていた。

トゥデイは9万4800円 “手軽に買える”を形にした

ホンダ・トゥデイは2002年に登場。メーカー希望小売価格は9万4800円(消費税含まず)で、当時の50ccスクーターとしてかなり思い切った価格設定だった。しかも、ただ安いだけではない。空冷4ストローク50ccエンジンを搭載し、シート下には22Lのメットインスペースを確保。前後輪連動のコンビ・ブレーキシステムや盗難抑止システムも備え、日常の足として必要な装備をきちんと押さえていた。

さらに、50ccスクーターとして国内初という10色のカラーバリエーションを標準設定。安いモデルだから色も少ない、ではなく、選ぶ楽しさも用意していたところがトゥデイらしい。

低価格を実現できた理由のひとつが、ホンダのグローバルネットワークだ。トゥデイは日本で研究・開発し、アジア諸国で部品を調達。中国・新大洲本田摩托有限公司が生産を担当したモデルだった。もちろん、そう聞くと“安さ優先”のイメージを持つ人もいるかもしれない。でも、トゥデイは日常で必要なものをしっかり備え、買いやすい価格に落とし込んだ。そこがエライのだ。

トゥデイは低価格モデルでありながら、カラーバリエーションも豊富だった。価格を抑えながら“選ぶ楽しさ”まで用意していたところも、ヒットにつながった理由のひとつ。画像は2004年に追加されたオベロングリーンメタリック。

レッツ4はFIなのに9万9800円!  合理メカで勝負した

いっぽうのスズキ・レッツ4は2004年に登場。メーカー希望小売価格は9万9800円(消費税抜き)で、こちらも9万円台を実現したコスパ重視のスクーターだった。しかも注目したいのは、低価格モデルでありながらFIを採用していたこと。トゥデイがキャブレター仕様だったのに対し、レッツ4はディスチャージポンプ式フューエルインジェクションを用いた新開発4スト50ccエンジンを搭載していた。

このエンジンは、5.0psの出力と80km/Lの30km/h定地燃費を両立。FIというと高価なイメージもあるが、レッツ4に採用されたディスチャージポンプ式FIは、一般的に別々の部品となるインジェクターと燃料ポンプを集約して一体化した、シンプルで低コストなシステムと説明されている。つまり、ただ装備を削って安くしたのではなく、FIを小排気量スクーターに載せるための合理的な仕組みまで考えられていたわけだ。

さらにレッツ4は、エンジンの生産を中国の提携工場で行い、車体の組み立てを愛知県の豊川工場で行う生産体制を採用。低価格を実現するために、メカニズムと生産面の両方から工夫していた。しかも、シート下にはヘルメットを収納できるパーソナルスペースも備えている。安さだけを見ると地味に思えるかもしれないが、FI採用で9万円台、さらに実用スクーターとして必要な収納性まで押さえていた点は、もっと評価されていいポイントだ。

2004年に9万9800円(消費税抜き)で登場したスズキ・レッツ4。ディスチャージポンプ式FIを採用しながら9万円台を実現した、スズキらしい合理派スクーターだ。

カタログからも伝わる、軽くて身近な実用スクーター感

レッツ4のシリーズカタログを見ると、標準モデルのレッツ4だけでなく、レッツ4パレットやレッツ4バスケットも並んでいる。表紙には「あなただけぴったり、みつけましょ。」というコピー。これは、レッツ4シリーズが単なる廉価スクーターではなく、日常の使い方に合わせて選べる身近な乗り物として展開されていたことを伝えている。

標準モデルは軽量でコンパクト。パレットは少しおしゃれ寄り。バスケットは買い物に便利なカゴ付き。どれも強く主張するタイプではないが、毎日の生活にスッと入ってくる。これこそ、レッツ4らしい魅力だった。

レッツ4、レッツ4パレット、レッツ4バスケットを並べたシリーズカタログ。標準モデルだけでなく、使い方に合わせて選べる身近な実用スクーターとして展開されていた。

また、カタログでは「軽量×コンパクト=レッツ4!」という分かりやすい見せ方もされている。装備重量68kgという軽さ、センタースタンド掛けのしやすさ、取り回しのよさをアピールしているのは、いかにも生活の足らしい。燃料残量やウインカー、エンジンチェック、バッテリー電圧低下を知らせるインジケーター付きのメーターパネル、買い物袋を掛けられるコンビニフックなど、地味だけど毎日効く装備も紹介されている。

こういう部分を見ると、レッツ4はただ安いだけのスクーターではなかったことがよく分かる。目立つ豪華装備ではなく、使う人が毎日ラクに扱えること。そのための軽さや装備を、必要なところにきちんと入れていたのだ。

装備重量68kg(乾燥59kg)の軽い車体や、メーターパネル、コンビニ用フックなど、毎日の使いやすさに直結する装備が紹介されている。

割り切りも必要。安くするための工夫が見えてくる

もちろん、低価格を実現するための割り切りもあった。レッツ4は標準仕様でフューエルメーターがなく、外装は着色樹脂で塗装ではなかった。けれど、それをマイナスだけで見るのはちょっと違う。シート下にはヘルメットを収納できるパーソナルスペースを備え、毎日の足としての便利さはきちんと確保していた。塗装を省く、装備を絞る、でも必要な機能は残す。そうしたバランスこそ、レッツ4のうまさだった。

トゥデイもシンプルな作りではあったが、こちらは塗装された外装を持ち、フロントフェンダーは分割式で、ハンドルもバーハン風にデザイン。キャブレターモデルは「とにかく遅かった」という印象も語られているが、街乗りの足として考えれば必要十分。なにより価格が手頃だったから、カスタムベースとしても気兼ねなく遊べた。

レッツ4は丸みを帯びたフォルムに可愛さがあり、カゴ付きモデルのレッツ4バスケットでは、シャッター付きのフロントバスケットも便利だった。安い、軽い、使える。そこに少しだけ自分らしさを足せる。これもミニバイクらしい楽しさだ。

“安さという価値”をバカにしちゃいけない

安いバイクというと、どこか軽く見られがちだ。でも、本当に安くてちゃんと使えるものを作るのは、とても難しい。豪華にするのも、速くするのも、もちろん大変。でも、必要な装備を残しながら、価格を抑え、毎日使える耐久性や扱いやすさまで成立させるのは、また別の意味で高度な仕事だ。

ホンダ・トゥデイは、9万4800円という価格で「手軽に買えるスクーター」を形にした。スズキ・レッツ4は、FIを採用しながら9万9800円に抑え、軽さ(68kg)と優れた燃費(80km/L)も両立した。どちらも、ミニバイクシーンにおいて大切な“安さという価値”に正面から向き合ったモデルだ。

速くなくても、派手じゃなくても、生活の中でたくさん走ったバイクは記憶に残る。気負わず乗れる。気兼ねなくイジれる。毎日の足としてちゃんと役に立つ。トゥデイとレッツ4は、そんな当たり前のようで難しい価値を証明した、9万円台の実力派スクーターだったのだ。

SPECIFICATIONS|HONDA TODAY(2002)

全長×全幅×全高:1695×630×1030mm
ホイールベース:1180mm
シート高:695mm
車両重量:75kg
エンジン種類:空冷4ストOHC単気筒
総排気量:49cc
最高出力:3.8ps/8000rpm
最大トルク:0.37kgm/6500rpm
燃料タンク容量:5L
燃費:65km/L(30km/h定地走行)
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
タイヤ(前・後):80/100-10・80/100-10
価格:9万9540円(税込)/9万4800円(消費税抜き)
※スペックは2002年モデル

SPECIFICATIONS|SUZUKI LET’S 4(2004)

全長×全幅×全高:1665×605×985mm
ホイールベース:1150mm
シート高:685mm
車両重量:59kg(乾)
エンジン種類:空冷4ストSOHC2バルブ単気筒
総排気量:49cc
最高出力:5.0ps/8000rpm
最大トルク:0.46kgm/6500rpm
燃料タンク容量:4.5L
燃費:80km/L(30km/h定地走行)
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
タイヤ(前・後):80/90-10・80/90-10
価格:10万4790円(税込)/9万9800円(消費税抜き)
※スペックは2004年モデル

※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】