先生(右):損 保太郎
某損保サービスセンターに勤務。無保険のまま事故を起こした人の厳しい現実を目にすることも。今回は、任意保険の必要性を現場目線でレクチャーする。

生徒(左):モン太
保険に入ってはいるものの、これまで使ったことはなし。「事故を起こさなければ必要ないのでは?」と考えているようだ。

バイクでも賠償額が1億円超に!? 自賠責保険だけでは足りないことも

排気量が小さなバイクでも、歩行者や自転車、ほかの車両と衝突すれば重大事故につながる可能性がある。自賠責保険には支払限度額があるため、高額な損害賠償をすべてカバーできるとは限らない。

モン太 二輪車の任意保険加入率が5割に届いていないことにビックリだモン。保険に入るのは常識だと思っていたモン。

損 保太郎(以下、保太郎) そうだね。最新の統計でも、二輪車の任意保険普及率は対人・対物賠償ともに5割未満なんだ。ただし、この統計には一般原動機付自転車などが含まれていないから、「全バイクの半数以上が未加入」と単純には言えない。とはいえ、乗用車と比べて普及率が低いのは間違いないよ。

モン太 でも、ボクも事故を起こしたことはないモンし、みんなが入っていないなら、入らなくてもいいんじゃないかと思ってきたモン。

保太郎 そう考えてしまう人もいるかもしれないね。だけど、排気量が小さいからといって、事故の被害まで小さくなるわけではない。50ccの原付でも、歩行者や自転車とまともに衝突すれば、相手を重傷、あるいは死亡させてしまう可能性があるんだ。

保太郎 万が一、バイク事故で相手を死亡させてしまった場合、損害賠償額が1億円を超えることもある。自賠責保険から支払われる死亡事故の限度額は、被害者1名につき3000万円。後遺障害は程度に応じて75万円~4000万円、ケガは120万円が限度なんだ。自賠責で補いきれない損害については、任意保険がなければ原則として加害者本人が負担することになるよ。

モン太 何千万円、場合によっては1億円以上を自分で支払うなんて、とても無理だモン……。

保太郎 そのために任意保険の対人賠償責任保険があるんだ。自賠責は交通事故の被害者を救済するための最低限の補償で、相手のクルマや物、自分自身のケガなどは補償されない。任意保険は自賠責だけでは足りない部分を補うものだと考えてほしいね。

保太郎 ちなみに、クルマの任意保険に加入している人なら、「ファミリーバイク特約」を付けることで、一般的に125cc以下のバイクを運転中の対人・対物事故などへ備えられる場合があるよ。

モン太 クルマの保険に付けられるなら便利だモンね!

保太郎 ただし、クルマの任意保険とまったく同じ補償が受けられるとは限らない。補償内容や対象となる家族の範囲は保険会社や契約タイプによって異なるし、バイク本体の損害は補償されないのが一般的だ。加入前に契約内容をきちんと確認しておこう。

モン太 やっぱり、任意保険はこのまま続けるモン!

小さな接触でも高額に! センサー付き車両の修理費に注意

近年のクルマは、バンパーやドアミラー、ヘッドライトなどにもカメラやセンサーが組み込まれている。見た目では小さな傷でも、部品交換や調整作業によって修理費が高額になることがある。

保太郎 交通事故では、クルマと接触する可能性も高いよね。そのクルマの修理費は、装備の高度化などによって高額になる場合があるんだ。

モン太 なんで~!? 修理工場が儲けているモンか?

保太郎 そういうワケではないんだ。近年のクルマはハイテク化が進んでいて、例えばバンパーには駐車支援用のセンサーや、衝突被害軽減ブレーキに使うレーダーなどが組み込まれていることがある。

保太郎 すり抜け時などに接触しやすいドアミラーにも、カメラやウインカー、電動格納機構などが備わっている。LEDヘッドライトもユニット化が進み、車種によっては部品だけで20万円を超えることもあるんだ。

モン太 クルマが進化した分、修理費も高くなっているってことなんだモンね。

保太郎 そういうこと。しかも、センサーやカメラの付いた部品を交換した場合、交換して終わりではなく、正しく作動するように調整する「エーミング」が必要になることもある。見た目は小さな傷でも、部品代や塗装、脱着、調整作業まで含めると、想像以上の修理費になる可能性があるんだ。

モン太 バイクで少しこすっただけでも、安心できないモンね。

保太郎 物損事故で高額になるのはクルマだけではないよ。電柱や信号機、ガードレールなどの公共物も、設備本体の費用だけではなく、撤去や復旧、交通規制などの費用が加わり、請求額が数百万円規模になる場合もある。

モン太 とても簡単に払える金額ではないモン。やっぱり対物賠償も必要だモンな。

保太郎 そうだね。賠償金を支払わずにいれば、被害者から裁判を起こされる可能性もある。判決などで支払い義務が確定したあとも支払わなければ、預金や給与、財産などが差し押さえられることもあるんだ。

モン太 ひぇ~。やっぱり任意保険には絶対入っておくモン!

相手への賠償だけで大丈夫? 自分のケガに備える人身傷害保険

対人・対物賠償は、事故の相手に対する補償だ。ライダー自身が負傷した場合に備えるには、人身傷害保険など、自分のケガを補償する契約についても考えておきたい。

保太郎 ここまでは、事故を起こした相手側への賠償について話してきたけれど、「人身傷害保険」は自分自身や同乗者のケガなどに備える保険なんだ。自賠責保険では、運転者本人のケガは補償されないからね。

モン太 保険代理店の人に勧められたけど、保険料が高くなるから付けなかったモン。

保太郎 補償を増やせば保険料も上がるから、ランニングコストを抑えたい人がためらう気持ちは分かるよ。損害保険料率算出機構の2025年3月末時点の統計では、二輪車の「人傷実損払」の普及率は「17.6%」と、2割に届いていない。対人・対物賠償と比べても、かなり低い水準なんだ。

モン太 自分のケガに備えているライダーは、意外と少ないんだモンね。

保太郎 だけど、ライダーの身体がむき出しになるバイクは、事故で大ケガをする可能性がある。事故の相手が任意保険に入っていて、きちんと対応してくれればいいけれど、相手が無保険だったり、ひき逃げで加害者が分からなかったりすると、十分な補償をすぐに受けられない可能性もあるんだ。

モン太 相手が無保険だったら、何も補償されないモンか?

保太郎 必ずしもそうとは限らないよ。事故の状況によっては、相手車両の自賠責保険や無保険車傷害保険、政府の保障事業などを利用できる場合もある。ただし、補償範囲や請求条件が決められているし、対物損害は政府の保障事業の対象にならない。すぐに十分な補償を受けられるとは限らないんだ。

保太郎 そんな時、自分の人身傷害保険が付いていれば、契約内容に応じて、自分の保険会社から補償を受けられる。過失割合にかかわらず、実際に生じた損害について、治療費や休業損害、精神的損害などが対象になる場合があるんだ。自損事故や相手が無保険の場合に備えられる商品もあるよ。

モン太 事故でケガをしたうえに、治療費や仕事を休んだ分まで心配するのはつらいモンね。

保太郎 そういうこと。ただし、補償される事故や保険金額、対象となる人の範囲などは契約によって異なる。人身傷害保険を付けていれば、どんな場合でも全額補償されるというわけではないから、約款や重要事項説明書を確認しておこう。

モン太 考えたくはないけど、重傷になった時や相手から十分な補償を受けられない時に助けになる保険なんだモンな。もう一度検討してみるモン!

保太郎 任意保険は、事故の相手への賠償だけではなく、自分や家族の生活を守るためのものでもある。保険料の安さだけで決めず、「誰を」「どんな事故から」「いくらまで守りたいのか」を考えて選ぶことが大切だよ。

※ここでは一般的な自動車保険について解説しています。補償内容、保険金額、対象となる運転者や事故の範囲は、保険会社、商品、契約内容、特約などによって異なります。詳しくは、ご加入の保険会社または保険代理店へお問い合わせください。

※任意保険の普及率は、損害保険料率算出機構「2025年度 自動車保険の概況」に掲載された2025年3月末時点の数値を参照しています。同統計の保有車両数および付保台数には、一般原動機付自転車と特定小型原動機付自転車は含まれていません。

※この記事は月刊モトチャンプ2024年8月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】