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畑村耕一博士の「2020年の年頭に当たって」①博士はSKYACTIV-Xをどう見たか? エンジン博士畑村耕一「過給リーンバーンの技術競争が始まった」:自動車用パワートレーンの将来:マツダSKYACTIV-Xの評価は?

  • 2020/01/01
  • Motor Fan illustrated編集部
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2:2019年の注目すべき出来ごと

①過給リーンバーンの技術競争が始まった。スーパーリーン、HCCI、副室リーン?

(1)SIPが終了してスーパーリーンバーンで50%の熱効率の実現の可能性が示された。
1月には日本中の大学を巻き込んだ、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)革新的燃焼技術」の産学連携の5年間の研究成果報告が行なわれた。ガソリン・ディーゼルとも熱効率50%を達成したとしている。
 図1にガソリンエンジンの熱効率向上経過を示す。ガソリンの主要技術は、ングストロークS/B=1.7、高容積比(幾何学的圧縮比)15の基本仕様を選定して空気過剰率λ=2(A/F≒30)のスーパーリーンバーンを実現したことだ。さらに排気エネルギー回収の熱電素子や摩擦損失改善などで51.5%の熱効率を達成する可能性を示している。

図1

 最も注力した技術はスーパーリーンバーンで、従来では着火しないと言われていたA/F30を超えるリーン混合気を安定燃焼させることに成功した。A/F>30になると燃焼温度が1800K(ケルビン。摂氏約15267度)以下でNOxがほとんど発生しないので、三元触媒が使えないリーンバーンでも高価なNOxの後処理が不要になる。具体的手段は、吸気ポート形状で強力なタンブルを生成した混合気に高エネルギーの多重点火することで、図2に示すように電極間の火花が途切れて火炎核が燃焼室内に多数ばらまかれ、圧縮上死点に近づいて混合気が高圧高温になると多点から急速燃焼が始まるというものだ。点火と火炎伝播の可視化と3Dシミュレーションによって火花点火燃焼の基本的な現象を解明したという研究成果は、各自動車メーカによる今後の燃焼開発に大いなる貢献をするものと期待される。

図2

https://www.jst.go.jp/sip/k01_gaiyo.html

②世界初のHCCIガソリンエンジン、マツダのSKYACTIV-Xが市場導入された

図3

 9月には欧州で、12月には日本で待ちに待ったSKYACTIV-Xの販売が開始された(図3)。理想の燃焼と言われたガソリンHCCIエンジンの世界初の実用化である。SIPのような強い乱れと強力点火でなく、内部EGRと高圧縮比による自着火直前のG/F≒30の高温の成層混合気に点火することに図4のように成功した。そこで、HCCIの問題点である燃焼時期をスパークアシストでコントロールして、燃焼時期に大きな影響のあるエンジンと吸気の温度を一定に制御する熱マネージメントと、大きな燃焼騒音を外部に出さないためにカプセルで包み込むエンクロージャーを採用している(図5)。その他、HCCI燃焼の制御とSI運転との切り替え制御などに惜しみなく解析技術を活用した技術を投入している。

図4
図5

この技術を特集したマツダ技報No39には、詳しくその開発経過が紹介されている。
専門家でない読者には難しい内容だが、マツダが全社を挙げて「ワンチーム」になってこのエンジンを開発した雰囲気を味合うことができると思う。世界中どこを見ても、これだけの難しく総合的なエンジン開発ができるのはマツダ以外にないだろう。

マツダ技報No39

 専門家でない読者には難しい内容だが、マツダが全社を挙げて「ワンチーム」になってこのエンジンを開発した雰囲気を味合うことができると思う。世界中どこを見ても、これだけの難しく総合的なエンジン開発ができるのはマツダ以外にないだろう。

図6

 HCCI燃焼と低燃費を実現するために、図6に示す超高圧燃料噴射系(ポンプ、インジェクター)、各気筒毎の筒内圧センサー、NOxセンサー、エンジンルームカプセルを使った温度制御と遮音、24Vマイルドハイブリッド、ルーツスーパーチャージャーとLP(低圧)-EGRの組み合わせ、GPFなどなど……。HCCI燃焼だけでなくそれに付随する新開発技術が目白押しだ。HCCIの陰に隠れて目立たないが、高容積比16.3(国内仕様は15.0)でもノックを抑制する混合気生成技術や早閉じミラーサイクルほかの技術にも注目が必要だ。

 筆者が1990年代にミラーサイクルを開発したときには新開発のリショルムコンプレッサーほかの新しい部品のコストが驚くほど(安定した大量生産時の予測の3-5倍)高くなって販売価格を上げざるを得なくなってしまったように、SKYACTIV-Xもディーゼルエンジンより高い価格設定になってしまったのが残念だ。対照的なのが大成功を収めたSKYACTIV-Gの場合で、この技術には世界初の新規開発部品は皆無だった。長い4-2-1排気管を中心に、既存技術を巧みに組み合わせて当時世界最高の容積比14を実現したのだ。
 世界初のHCCIの実用化は素晴らしいことであるが、実際の燃費値(CO2排出量)をみると、車が重くなってしまったこともあって、マイルドハイブリッドを組み合わせているにもかかわらず、飛び抜けて燃費が優れているわけではなさそうだ。これでは、ストロングハイブリッドに燃費で対抗するのは難しい。コスト面では、大量生産が可能になった時点でもディーゼルエンジンに対しての優位性は大きくないだろう。走りの面では、一部のマニアを除いて、低速トルクが十分あるディーゼルエンジンの方が好まれるはずだ。結局SKYACTIV-XはガソリンHCCIエンジンの限界を示したように筆者は感じている。

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