2輪でも4輪でもない“第3の乗りもの”を目指した

ホンダ・ストリームを、ただの「後ろ2輪スクーター」だと思ったら大間違い。1981年に登場したこのモデルは、Hondaが新しいカテゴリーとして打ち出した“スリーター”の第1弾だった。

Honda公式では、スリーターを「スリーホイールで、スイング機構をもち2輪車の軽快性と4輪車の快適性を合わせもつ乗りもの」と説明している。つまりストリームは、単純に倒れにくい三輪車を作ったのではない。2輪車のように軽快に走れて、4輪車のようにゆったり乗れる。そんな“第3の乗りもの”を目指した、かなり野心的な50ccだったのだ。

当時のスクーターと比べると、ストリームはかなり高額だった。1981年モデルの価格は19万8000円。50ccスクーターとしては気軽に買える価格ではなかったが、そのぶん見た目も中身もかなり凝っていた。大きなシート、四輪車を思わせるボディ、独特のリヤ周り。誌面では「新時代を切り拓くホンダの挑戦!」と紹介されているが、まさにその言葉が似合う1台だった。

堂々としたボディに、後ろ2輪の独特なスタイル。ストリームは、いま見てもかなり異色な存在だ。

乗用車感覚を狙った装備と、専用メカの本気度

ストリームのおもしろさは、外観のインパクトだけではない。フロントボディとリヤユニットの連結部にはナイトハルト機構を採用し、コーナリング時にフロントボディが左右にスイングする仕組みを持っていた。つまり、三輪なのに車体を傾けて曲がれる。ここがストリーム最大の見どころだ。

さらに、リヤ2輪の駆動軸にはデファレンシャル・クラッチを装備。左右の回転差を補正し、自然なコーナリングを狙っていた。こう書くと少し難しく聞こえるが、要するに「3輪でも気持ちよく曲がれるように、かなり考えて作っていた」ということ。

装備もまた、妙にクルマっぽい。フロントには5kgまで積載できるトランクと、2kgまで積載できるグローブボックスを装備。メーターまわりは、各種メーターやインジケーターを見やすく配置した乗用車感覚のインストルメントパネルとなっていた。さらにフロアマット、ロゴ入りホイールキャップ、マッドガード、ステップボードに装着できるミニラックなど、オプションパーツも充実していた。四輪っぽい高級感と、50ccスクーターらしい手軽さ。その両方を狙っていたのがストリームなのだ。

フロントには、5kgまで積載できるトランクを装備。スクーターでありながら、四輪車のボンネットを思わせる作りがストリームらしい。


各種メーターやインジケーターを横長に配置したインストルメントパネル。Honda公式でも“乗用車感覚”を狙った装備として紹介されている。


後ろ2輪の存在感は強烈。リヤの駆動軸にはデファレンシャル・クラッチを備え、左右の回転差を補正することで自然なコーナリングを狙っていた。※撮影車はオーナー車のためノーマルと異なる部分がある場合があります。

ジャイロXで街へ広がり、カスタム文化にもつながった

ストリームの翌年、1982年にはジャイロXが登場する。誌面の対談でも「ジャイロXのヒットが大きく流れを変えましたよね」と語られているが、スリーター文化を一気に街へ広げたのは、やはりジャイロXだった。

ストリームが乗用車感覚や新しい乗り味を前面に出していたのに対し、ジャイロXはよりビジネスユース寄り。前後に積載スペースを設け、不整地に強いノンスリップデフも装備するなど、配達や業務用途で使いやすい方向へ進化していた。ちなみに、ノンスリップデフが付くのはジャイロXからで、ジョイやジャストには装備されていなかった。

さらに大きかったのが、宅配ピザ文化とのタイミング。1985年にドミノ・ピザが日本初上陸した時期と重なり、一気にジャイロXを街で見かけるようになったという記憶が語られている。ここからスリーターは、変わりダネの乗りものではなく、街で働く乗りものとして定着していく。

Hondaのスリーターは、ジャイロXだけで終わらない。1983年にはジョイとジャスト、1984年にはロードフォックスが登場した。ジョイは女性向けに機構を簡略化し、軽さと10万円以下の価格を実現したモデル。ジャストはよりパーソナルユースに振った姉妹車で、曲線主体のカウルデザインがおしゃれ。ロードフォックスは三輪バギー風の遊び心満点なモデルで、当時は大ヒットとはいかなかったものの、いまでは中古車人気も高い。

いっぽうで、ジャイロシリーズはカスタムベースとしても独自の文化を作っていった。リヤタイヤのトレッドを広げてミニカー登録したり、ワイドホイール化したり、スタイル重視で楽しむユーザーも多い。さらに「ジャイロの125cc仕様があったら」「ロードフォックスも125ccなら楽しそう」といった妄想まで飛び出すあたりが、スリーターという題材の奥深さだ。

1981年のストリームから始まったHondaのスリーターは、ジャイロXで働く三輪として街に広がり、ジョイ、ジャスト、ロードフォックスで個性を広げ、さらにジャイロキャノピーやカスタム文化へとつながっていった。ストリームは、そのすべての出発点。三輪なのに傾く。その不思議で本気なメカニズムから、スリーターの世界は始まったのだ。

40年以上前のモデルと思えない、完成度の高いハンドリングに驚き!
「ホイールベースも長くシートもふかふかで乗用車感覚の疾走感。バンク角も十分で安定したハンドリングが楽しめる。ブレーキさえ気を遣えば今でも十分通用する走りだ(サンタサン)」

スタイルも走りもふた味違う個性派揃い!

1981年に初のスリーター「ストリーム」が登場したと思ったら、82年、83年、84年と立て続けにスリーターモデルをリリース!ビジネスユースであったり、女性向けだったりと方向性は違うけれど、どれもワクワクするフォルムなんです。

1982年 ジャイロX
ストリームで培った三輪の美点を活かし、前後に積載スペースを設けてビジネスユースに特化。不整地に強いノンスリップデフも装備する。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高:1595mm×625mm×1395mm/ シート高:-/車両重量:86kg/エンジン種類:空冷2スト単気筒/総排気量:49cc/ 最高出力:5.0ps/6500rpm/最大トルク:0.56kgm/5000rpm/ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム/タイヤ(前・後):3.75-8・5.4-6/価格:17万9000円

1983年 ジョイ
ホンダのスリーター第三弾。女性向けに機構を簡略化して46kgの軽さと10万円以下の価格を実現。デフ機構がないので駆動は片輪のみだ。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高:1505mm×575mm×915mm/シート高:690mm/ 車両重量:51kg/エンジン種類:空冷2スト単気筒/総排気量:49cc/ 最高出力:3.7p s/6000r pm/ 最大トルク:0.47kg m/5000rpm/ブレーキ( 前・後):ドラム・ドラム/タイヤ(前・後):2.75-10・3.00-8/価格:9万9800円

1983年 ジャスト
ジョイの姉妹車で、よりパーソナルユースに主眼を置いて開発。当時流行していた曲線主体のカウルデザインでお洒落感を演出している。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高:1520mm×620mm×945mm/シート高:-/車両重量:57kg(乾)/エンジン種類:空冷2スト単気筒/総排気量:49cc/最高出力:3.7ps/6000rpm/最大トルク:0.47kgm/5000rpm/ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム/タイヤ(前・後):2.75-10・3.00-8/価格:12万9000円

1984年 ロードフォックス
三輪バギー風で遊び心満点。ジョイ&ジャストの姉妹車だが、フレームはオリジナルで、エンジンも出力を高めスポーティに仕立てている。
SPECIFICATIONS
全長× 全幅× 全高:1595mm×605mm×915mm/シート高:-/車両重量:63kg/エンジン種類:空冷2スト単気筒/総排気量:49cc/ 最高出力:4ps/6000rpm/最大トルク:0.49kgm/5500rpm/ ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム/タイヤ(前・後):3.00-8・4.50-6/価格:13万9000円

1981年 ストリーム
エンジンユニットがスイングするナイトハルト機能やリヤ2輪の回転差を補正するディファレンシャルクラッチなど独自の機能が満載。メカニズムのカタマリのようなモデル。
SPECIFICATIONS
全長×全幅×全高:1665mm×570mm×970mm
ホイールベース:1210mm
シート高:658mm
車両重量:79kg
エンジン種類:空冷2スト単気筒
総排気量:49cc
最高出力:3.8ps/6500rpm
最大トルク:0.46kgm/5000rpm
燃料タンク容量:4ℓ
燃費:74km/ℓ(30km/h定地走行)
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
タイヤ(前・後):3.00-8・3.00-8
価格:19万8000円

※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】