BEVを買うと、何かいいことがあるのか? その1・発電構成のマジック

ところでBEVへの補助金って、何ですか? CO₂削減のため? 電源構成から考えてみる

日産の軽BEV、サクラ。補助金を受けるとリーズナブルな価格で購入できる。
ついに軽自動車にBEV=バッテリー充電式の電気自動車が登場した。中国にはすでに「軽サイズ」のBEVはあるが、日本のお客さん向けに、日本市場が求める性能・機能とクォリティを携えて登場した。まず日産と三菱自動車。ダイハツ、スズキ、ホンダも当然、考えているだろう。しかし、そもそも軽は「税金や保険で優遇されるべき商品」であり、所有にともなう金銭的負担が小さいことが存在理由ではなかったか。「だから補助金があります」と言われても、あまりピンとこない。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

ところで補助金って、何ですか?

「補助金が出るから安く買えます」と、テレビCMは誘う。国の補助金だけでなく自治体の補助金もあるから、軽BWVの車両価格は60万円くらい差し引いて考えることができる。あながち遠い存在ではない。電気代とガソリン代とを比べれば、どんな計算をしても「走行」だけに限れば電気代のほうが1km当たりの運用コストは圧倒的に安い。

ところで補助金って、何ですか?

国の補助金も自治体の補助金も、財源は税金だ。税金は日本国民のほぼすべてが納める。そのなかから気前よくBEV購入者に再分配してくれるのだ。表向きは。しかし、実際には補助金は購入者のフトコロに入るのではなく、自動車販売店を経由して最終的には自動車メーカーに入る。自動車メーカーは補助金によってBEVの製造原価を引き下げることができる。

車両価格250万円のBEVに60万円の補助金が出るとしよう。購入する人は190万円を払えばいい。残り60万円は国または自治体が自動車販売店に支払ってくれる。つまり、BEVを買う人にとっては値引きと同じだ。いっぽう、自動車販売店と自動車メーカーにとっては、購入者への「値引き」分を国または自治体が損失補填してくれることと同じになる。

ほとんどの補助金がそうであるように、補助金はその対象になる「もの」「サービス」の提供者が恩恵を受ける。その「もの」や「サービス」が世の中に何かプラスになることを期待して、あるいは政策的に「こういう方向に世の中を持っていきたい」という意図を持って交付される。

ただし財源には限りがある。過去、エコカー補助金が交付されたときも「予算額に達した時点で補助金打ち切り」だった。いま、日本はBEVとPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)の補助金をかなり盛っている。果たしていつまで続くか。もし、BEVとPHEVの売れ行きに火が着けば、早晩、補助金は減額になるだろう。

ちなみに中国はBEV、PHEV、FCEV(燃料電池電気自動車)を政策的に増やそうとしている。原油輸入量を減らすためだ。そのため、この3カテゴリーをまとめてNEV(ニュー・エナジー・ビークル=新能源車)と呼び、補助金を交付し続けてきた。いまや中国の自動車保有台数が3億台を超えている。ガソリン/軽油の原材料になる原油の輸入量は世界最大。その消費量は1日当たり9238バレル(2018年実績 1バレルは約160ℓ つまり約150万ℓ)とアメリカの約2倍だ。

その昔は重慶原油を輸出していたが、すでに中国は完全な原油輸入国だ。これ以上、原油輸入を増やしたくない。だから乗用車はNEVに置き換える。今年(2022年)からはHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)も推奨している。乗用車の半数はHEVでいいという決断を一昨年下した。

中国政府がNEVのために使ってきた補助金は、2016年が11.6億元、2017年は63.7億元、2018年は143.7億元、2019年は156.9億元。これ以外にもバス・トラックのFCEV開発などでも補助金を使ってきたし2012年から補助金は拠出している。ざっと計算すると、2016年から昨年までの7年間にかぎっても1200億元弱。人民元=円の為替レートを7年間平均16.5円で計算すると約2兆円だ。

日本では、東日本大震災の直後に総額3000億円で国のエコカー補助金制度が「広く・浅く」の方式で実施されたが、これ以上の実施規模のものはない。補助金という形での税の再配分には必ず何らかの不公平が付きまとうから、これでいいと思う。

BEV補助金は何が目的なのか?

さて、BEV補助金は何が目的なのか?

「CO₂(二酸化炭素)排出を抑えることができる」なのか?

【グラフ1】2018年実績と2030年見通しの電源構成

経済産業省資源エネルギー庁の委託を受けてJARI(日本自動車研究所)が行なった調査の報告書(令和元年度)では、2018年実績と2030年見通しの電源構成は【グラフ1】になる。昨年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の内容は盛り込まれていないが、筆者の印象ではこちらのほうがまだ現実的に思える。

第6次エネルギー基本計画はほぼ「絵に描いた餅」としか思えない。その昔、陸軍と海軍が兵器メーカーに突き付けた「現実を無視した過大な要求」によく似ている。計画を練る官僚は、たとえ未達成でも責任を負わない。技術的・制度的に可能だとしても、筆者の手元計算では送電網や再エネ発電も含め民間投資は30兆円を超える。しかし、ロシア・ウクライナ戦争ですでに前提条件のいくつかは破綻している。

【図2】

東日本大震災直後のとある試算では、BEVとHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)のCO₂排出比較は、WtW(ウェル・トゥ・ホイール)で計算した場合は「ほぼトントン」だった。TtW(タンク・トゥ・ホイール)なら、走行中にCO₂を排出しないBEVの圧勝だが、WtWは「どうやって電力を得るか」が問われる【図2】。

【表3】2030年時点での「電力のWtT効率」

【表3】は2030年時点での「電力のWtT効率」を示したものだ。左に化石燃料の比率、つまり火力発電の比率が100%から0%まで10%刻みで記され、その比率に応じたWtTの効率が数字で書かれている。数字が大きいほうが効率は高く、1以上なら素晴らしい。

この表には「国外工程含む」と書いてある。国外工程とは、石油、石炭、天然ガスの算出、輸送、精製といった「クルマの燃料タンクに入れるまで」のエネルギー輸入工程を含んでいるという意味だ。「発電」は、文字どおり発電時の効率。「送配電」は送電・変電を経てBEVの車載バッテリーに充電されるまでの効率を示す。

2030年時点の予測では、国外工程を含むWtTの効率で、ガソリン車は0.875、ディーゼル車は0.893、LPG車は0.904、BEVは0.653と計算された。これに「走行段階」であるTtWの効率を加算した数字が最終的なWtW効率になる。BEVは、TtWは圧倒的に有利だが、ICE(内燃エンジン)の進歩などによってHEVの効率が改善されることを考えると、BEVの優位はそう大きなものではなくなる可能性を否定できない。

WtW。つまり燃料となる資源の採掘や精製、輸送といった段階も加えて「車輪が地面の上を転がる」結果までを含めた計算だと、BEVのCO₂排出は必ずしも劇的に少ないわけではない。それと、これは筆者が取材で得た印象だが、日本でのBEVとPHEVへの補助金は、そう長くは続かない。せいぜい2026年ではないだろうか。その先では、いやでも発電インフラに投資せざるを得なくなる。

「CO₂排出が少なくなるからBEVに補助金を出す」と言われても、そうとは言い切れない試算が、こうした政府委託の研究や公的研究機関などからは出ている。現在の日本は火力発電比率が約77%。【表3】で見るとWtT効率は0.5程度でしかない。5万円か、せいぜい10万円ならわかるが、現在の国庫負担BEV補助金には整合性が感じられない。

ロシア・ウクライナ戦争の結果、EU(欧州連合)はECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部充電で走るBEVとPHEVの総称)への補助金減額に動いている。とくに、ロシアからの天然ガス輸入が途絶えそうなドイツは動きが早い。ECV補助金の段階的廃止が決まるだろう。消費喚起よりも発電方法確保を優先させるためだ。電力の安定供給なしにECVは成立しない。

中国では、昨年のベストセラーBEVだった上海通用五菱汽車「宏光MINI」が値上げされた。原材料費の値上がりを車両価格に転嫁した。長城汽車が「欧拉」ブランドで発売した「黒猫」「白猫」は受注停止になった。これらの安価な小型BEVはもともと補助金対象外であり、徹底した設計簡素化でコストを下げている。それでも、昨今の資源高が価格競争力を削いでしまった。

日本の軽は高効率の660ccエンジンを積み、軽く出来ている。BEV化すれば重たくなる。本来の長所を生かして動力伝達効率の良いMTを積む超軽量仕様(たとえば車両重量700kg以下)に20万円の政府補助金を出すほうがよほど説明がつく。「お受験」燃費(モード燃費)ではなく実燃費への貢献に対して補助金を交付する。これなら「炭素税的発想です」という方便も成り立つ。

軽BEVが年間15万台売れるようになったら、政府は補助金を打ち切るだろう。「初期の導入目標は達成した」と。BEV補助金に使える額は最初から決まっている。軽10万台分のガソリン消費で得られるガソリン税(国税)がゼロになるのだ。補助金も税金も財務省が握っている。それより何より、日本の税収は順風満帆とはほど遠いのが実情だ。

著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…