Honda NEW e:HEV:ドライバーが我慢しないモーターリッチのハイブリッドシステム

かつて3種を取り揃えていたホンダのハイブリッドシステムは、e:HEVと名を変えた旧i-MMDに収斂しつつあり、これを急速に拡大している。そして新たにシビックにこれが採用された。どのようなユニットなのか、ご紹介しよう。
TEXT:萬澤龍太(MFi) FIGURE:HONDA

モーターファン・イラストレーテッド vol.187から転載

ご存じ、e:HEVとはシリーズハイブリッドシステムを基本として、エンジン出力を都度、駆動輪にもダイレクトに繋げることも可能な構造で、非常に独創的かつ合理的。偶然か、三菱自動車のPHEVシステムが同様の機械構造をとるものの、あちらは電池リッチな印象がある。また、日産のe-POWERは定石どおりのシリーズ式で「地産地消」のイメージ。奇しくも3ブランドでそれぞれ異なるキャラクターとしているのは非常に興味深い。

出力/トルク値から判断するにH4型駆動モーターか。一次/二次ともに減速比は未発表。最高速度は180km/h。なお、車重はエンジン車に比べて100kgほどの増加という。トーショナルダンパーの見直しにより低トルク域での振動特性を向上、NV性能を高めている。走り出した後はロックアップ、エンジンのストイキ領域拡大と合わせ、ドライバビリティと効率をともに満足させる。IPU〜PCU間の高圧ケーブルにアルミ導線を用いるのもトピックで、ホンダ初の採用。
車種
(モーター型式)
モーター
最高出力
モーター
最大トルク
一次減速比最終減速比駆動力車重
ヴェゼル(H5)96kW253Nm2.4543.9097317N1350-1400kg
フィット(H5)80kW253Nm2.4543.4237060N1180-1200kg
ステップワゴン(H4)136kW315Nm2.4543.8889218N1790-1820kg
オデッセイ(H4)135kW315Nm2.4543.8888710N1890-1930kg
CR-V(H4)135kW315Nm2.4543.8888122N1610-1650kg
アコード(H4)135kW315Nm2.4543.4217916N1560kg
インサイト(H4)96kW267Nm2.4543.4216984N1370-1400kg
シビック(H4?)135kW315Nmエンジン車は1360-1370kg。
ここから+100kg程度
2022年現在のe:HEV各車の駆動系スペック比較。駆動力は機械損失を1として計算。
ローターの新旧比較で、左側が従来型/右側が新開発品。ストレスフリーを目指した構造としている。なお、白いところが磁石挿入部で、大型化していることが見て取れる。もちろん使用する磁石はホンダお得意の重希土類フリー型。

今回新しく登場するシビック用のe:HEVは、エンジン、PCU(制御系)、IPU(バッテリーユニット)を新開発品、トランスアクスルについては改良品とした。注目のエンジンは直噴を採用し高効率運転領域を拡大することで低燃費化、さらにNV対策を多々盛り込み静粛性と円滑性を実現している。個人的には(基本的に)シリーズハイブリッドなのに直噴が必要なのかとも感じたものの、本機は今回の採用にとどまらず、将来の環境規制を見据えた今後のホンダの基本ユニットになっていくと聞いて合点。そのための土台を固め、まずはハイブリッド用としてデビューということのようだ。

新開発2.0L直噴エンジン。自然吸気仕様で、VVTを用いる高膨張比サイクルとする。燃焼技術については高速燃焼を図り、ストレートポートによるタンブルを発生する考え。さらにEGRを大量導入することでポンピングロスの低減とNOx排出量の抑制を実現する。トピックは直噴技術の採用で、これによりストイキ領域を拡大、最大熱効率は41%をマーク。直噴燃焼によるNVの増加の手当てもありクランクを高剛性化、バランサーも装備する設計。吸気音の減退を図るインシュレーターも装備した。
高効率を実現するテクノロジー。直噴インジェクターは側方式で最大35MPaの噴射圧。直噴となるとPMの発生が懸念されるところ、生じやすい低回転高負荷域では噴霧を工夫することで壁面付着を最小限に抑える制御とした。直噴のメリットを存分に発揮しノッキングが発生する高負荷領域も使用、噴霧による気化潜熱でこれを抑え、ストイキでの出力向上を実現している。使用燃料はレギュラーガソリン、幾何学的容積比(圧縮比)は13.9とした。

試乗はクローズドのテストコース上で相当条件がよかったため「粗探し」には向かない状況。とはいえ、必要最小限にとどめるバッテリーからの電力と上手にバランスをとりながらエンジンの「発電+駆動併用」の絶妙な制御で走るのは旧i-MMDで感心したとおり。アップダウンが多いコース設定であるためか、モーターリッチであるはずのe:HEVの振る舞いはエンジンの存在が目立つ印象で、これはドライバーの加減速意思とエンジン運転状態を強くシンクロさせる設計思想によるもの。ボディ/シャシーの刷新もドライバビリティの向上を大きく助けている。いずれ、公道で試乗してみたい。

Motor Fan illustrated特別編集「ホンダのテクノロジー」

自動車のみならずモーターサイクル・飛行機・発電機などのライフプロダクトまで手がけるホンダは年間3000万基のパワーユニットを生産する文字どおりの「世界一のパワートレーン・カンパニー」だ。
この特別編集誌は、ホンダの研究開発を支える本田技術研究所全面協力のもと、自動車用エンジン、ハイブリッド技術、電気自動車、燃料電池の技術と戦略はもちろん、HondaJetや航空宇宙への挑戦、スーパーカブをはじめとするモーターサイクルのパワートレーン技術について、豊富な写真、図版を使って掘り下げます。電動化時代の開発を支える風洞やテストコースの現地取材も敢行。ホンダがこれからどんなわくわくするパワートレーンを作ってくれるのか。どんな戦略なのか。ホンダファン、自動車ファン、アナリスト必読です。 

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著者プロフィール

萬澤 龍太 近影

萬澤 龍太

Motor-FanTECH. 編集長かろうじて大卒。在学中に編集のアルバイトを始めたのが運の尽き…