将来の空のモビリティ実現に向けた取り組みの一環として、ヘリコプターを活用した移動体験の実証や、地域・行政と連携した防災訓練も実施

トヨタはこのたび、TTC-Sにおける「走る・壊す・直す」を一気通貫で行なう開発プロセスを紹介するとともに、同施設で開発されたレクサスの新型BEV「TZ」を発表した。さらに、同拠点を活用し、将来の空のモビリティ実現に向けた取り組みの一環として、ヘリコプターを活用した移動体験の実証や、地域・行政と連携した防災訓練も実施した。

TTC-Sの原点は、モリゾウことマスタードライバーの豊田章男会長(当時社長)の「ニュルブルクリンクでしかできないことが、なぜ日本でできないのだろう」というひとつの問いにあった。これは、豊田会長がマスタードライバーとして走り込むなかで、長年抱き続けた思いだ。

その背景には、テストドライバーの故・成瀬弘氏がニュルブルクリンクで示した「道がクルマをつくる」という言葉があった。厳しい道を走り、壊れた箇所を見つけ、その場で直し、また走る。このサイクルを一日に何度も繰り返すことで、クルマは鍛えられていく。こうした開発思想を日本で実現する場所として構想されたのがTTC-Sだ。構想開始から約30年、2018年4月の建設着工を経て、2024年3月に全面運用が始まった。

TTC-Sの最大の特徴は、壁のないワンフロア設計により、デザイン・設計・評価・整備といった一連の開発サイクルをひとつの拠点内で完結できる点にある。機能の壁を取り払い、約3000名におよぶ多様な領域のメンバーが同じ空間で連携し、機能横断で一体となって開発に取り組む環境を実現している。

●第3周回路
ニュルブルクリンクを参考に4分の1規模で設計された全長約5.3km、高低差75mのカントリー路をはじめ、下山の自然地形を活かした多数のカーブと高低差を再現。道づくりにはテストドライバーも参画し、造成には10年を要した。「対話できるクルマ」であるかを評価。
●ダートコース
ラリーやダートトライアルといった未舗装路での鍛え込みを可能にするため、モリゾウの「もっとクルマを鍛えたい」という強い思いから計画外で追加造成。モリゾウ自身が横転するまで走り込んだ厳しい路面環境で、ベース車両の耐久評価に加え、GRパーツ開発にも活用。
●整備フロア(1階)
最大40台を収容。テストコース直結の環境で、メカニックがその場で修理・調整を実施。クルマを囲んで職種や領域を越えたメンバーが集まり、一体となってクルマづくりに向き合う場。
●企画・設計部門フロア(2階)
エンジニアがデータを分析し、改善策を検討。ガレージの真上に位置し、即座に連携可能。
●デザイン部門フロア(3階)
クレイモデリングからデジタルレビューまで、造形をつくり込むプロセスを一体で行なえる空間。屋内外でのモデル確認や実寸クレイの仕上げなど、実物を前にした議論がその場で進む。

コースを走り、ガレージで直し、フロアで考え、またコースへ。この循環を毎日繰り返すことで、クルマと、それをつくる人の双方が鍛えられるとトヨタは考える。また、上質さを極めるレクサスカンパニーと、走る歓びを追求するGRカンパニーの事業・開発拠点が同じ場所にあることで、異なる価値を追求するチームが互いに学び、刺激し合いながら、それぞれのクルマづくりを進化させている。

このたびは新型TZの発表とあわせて、将来の空のモビリティ実現に向けた取り組みとして、エアロトヨタ社の機体を活用したヘリコプターによる移動体験の実証に加え、豊田市と連携した防災訓練も実施。
こうした取り組みの背景には、トヨタの創業者・豊田喜一郎氏が抱いた思いがある。1923年の関東大震災発生時、氏は道路が寸断された被災地の現実を目の当たりにし、「道がなくても人を運べるモビリティ」の必要性を痛感した。この思いは1943年のヘリコプター試作機の完成へとつながり、約100年前に「空のモビリティ」への挑戦が始まった。その志を受け継ぎ、トヨタは現在「陸・海・空」の領域で、すべての人に移動の自由と楽しみを届けるという思想を掲げ、取り組みを推進している。

TTC-Sが位置する豊田市内の山村地域は、南海トラフ地震や激甚化する風水害により、集落が孤立するリスクが高まっている。こうした地域課題に寄り添うため、TTC-Sでは地元自治体や地域住民の皆さんと対話を重ねながら、災害時にも頼りにしもらえる拠点づくりを進めてきた。今回はその延長として、豊田市と連携し、災害時の孤立集落対策としてヘリコプターを活用した物資運搬訓練を実施したのである。
2024年3月の全面運用開始以来、TTC-Sは「道がクルマをつくり、クルマをつくる人を鍛える」現場として、トヨタの“もっといいクルマづくり”を牽引してきた。今回の発表は、新型レクサスTZが新たな“下山産のクルマ”として紹介された大きな節目。これまでTTC-Sの発展は、長きにわたり理解と協力を得てきた地域の皆さん、そして豊かな自然環境に恵まれた土地との共生によって支えられてきた。
トヨタは引き続き、地域とともに歩む姿勢を大切にしながら、今後も下山の道で鍛えたクルマとともに、たくさんのカスタマーへ笑顔を届けていく。
「トヨタテクニカルセンター下山」概要
●所在区域:愛知県豊田市(旧下山村)および岡崎市(旧額田町)の一部
●面積内訳
・総面積:650.8ha(6.508㎢)
・施設用地:159.2ha[24%]
・道路:7.1ha[1%]
・調整池等:16.2ha[3%]
・造成緑地:81.8ha[13%]
・残置森林等:386.5ha[59%]
※[ ]内は総面積に占める割合
●事業主体
・用地造成工事:愛知県企業庁
・施設建設工事:トヨタ自動車株式会社
●主な施設
・中央エリア:カントリー路
・東エリア:高速評価路/特性評価路
・西エリア:車両開発棟/来客棟
●投資額:約3000億円
●従業員数:約3000名(2026年5月現在)