連載

北京モーターショー2026

GT3マシンと1200PSの公道用ハイブリッド4WDスーパーカーの二本立てを計画

中国は世界最大級のBEV市場として知られる。しかし、BEVがもはや当たり前の存在となった今、デザインの画一化や性能の頭打ちなどもあり、市場では苛烈な価格競争が繰り広げられる事態となっている。そこで一部の中国自動車メーカーでは、PHEV(プラグインハイブリッド車)やREEV(レンジエクステンダーEV)人気の盛り上がりもあり、他メーカーとの差別化やブランドの強化も目的として、内燃機関の開発にも力を入れ始めている。北京モーターショー2026でも、複数の中国自動車メーカーが新型エンジンの展示を行なっていた。

長城汽車(GWM)もそのなかの一社。モーターサイクル用の水平対向8気筒エンジン+8速DCTは先日ご紹介したが、さらにド級のマシンが控えていた。排気量4.0LのV8ツインターボを内製し、それをミッドマウントしたFIA GT3規格のレースマシンと、それを母体としたハイブリッド・スーパーカーを開発しているというのだ。

水平対向8気筒はなぜ存在しなかったのか? 中国SOUOが作った“異端エンジン”を読み解く【北京モーターショー2026】

水平対向8気筒――。その言葉を聞いて、現実の量産エンジンを思い浮かべられる人はほとんどいないだろう。だが北京モーターショー2026の会場には、それを“本当に作ってしまった”メーカーがいた。長城汽車グループ傘下SOUOの新型ツアラーに搭載されるこのエンジンは、なぜ生まれたのか。

いったいどんなマシンなのか。北京モーターショー2026で公開されたローリングシャシー(のモックアップ)が展示されていた。詳しい情報は公開されていないので、推測を交えながらその概要をご紹介しよう。

北京モーターショー2026で公開された「GF」アーキテクチャーのローリングシャシー(展示モデル)。V8をミッドに積み、その後方にトランスアクスルを直結している。

長城汽車では、自社開発した同モデルのアーキテクチャーを「GF」と名付けた。「Great Faith(確固たる信念)」の略で、サーキット精神への信仰と中国のモータースポーツ発展を牽引するという意気込みが込められている。長城汽車はこの「GF」アーキテクチャーを基に、GT3レースカーと公道走行用のハイブリッド・スーパーカーというふたつのモデルの開発を進めている。

「GF」アーキテクチャーの核となる技術は三つ。まずは自社開発の4.0L V8ツインターボだ。バンク角は90度で、過給器は左右バンクの谷間に2基のタービンを収めるホットインサイドVの配置を採る。ホットインサイドVは最近のハイパフォーマンスモデル用エンジンでは定番のレイアウト。排気ポートからタービンまでの距離を短縮することでレスポンスの向上が図れるほか、排気系を中央にまとめることでコンパクト化にもつなげられる。

後方に縦置きされたV8ツインターボ。アルミ鋳造を多用し、エンジン単体で30kg軽量化したという。
V8を真正面から。左右バンクの谷間にツインターボを収めるホットV配置がよくわかる。下部にはクランクプーリーと、補機を回すリブ付きベルトが見える。

オイルの潤滑ではドライサンプ方式を採用する。1.5G以上のハイスピード旋回時にも安定した潤滑を実現するだけでなく、クランクケース下部のオイルパンを廃することでエンジン全高を50mm低減させ、マシンの低重心化にも貢献する。プレスカンファレンスでは、自社開発のエレクトロニック・コントロール・ソフトウエアの採用もアピールしていた。吸気の安定性を向上させる適応型アルゴリズムを採用しており、各気筒の燃焼を正確に制御するという。

前端(写真右)の縦型円筒はドライサンプ用オイルタンクとみられる。
エンジン直後のトランスアクスル。トランスミッション後端から折り返してトルクをディファレンシャルに伝達するシャフトはカーボンファイバー製のようだ。

軽量化も徹底している。シリンダーヘッドカバーやオイルパンなどにはアルミニウム合金を採用するほか、チタン合金製サイレンサーで重量を40%削減。さらにシリンダーライナーを廃して特殊コーティング技術(プラズマ溶射など)に置き換えるなど、エンジン単体で30kgの軽量化を達成した。

組み合わされるトランスミッションの形式は明らかにされていない。トランスミッションとディファレンシャルが一体化したトランスアクスルはV8エンジンの後端に配置される。そして、トランスミッションとV8エンジンの間にはP2モーターが組み合わされていると思われる。

「GF」のフロント部。

フロントユニットは左右ドライブシャフトを備えたeアクスル構造を採用するようだ。フェラーリの初の市販PHEVロードカー「SF90」のような左右独立の2モーター方式ではなく、1基のモーターとディファレンシャルギヤを組み合わせたレイアウトと思われるが、どうだろうか。

V8パワーユニットの最高出力は、GT3レースカー仕様の場合はレギュレーションの関係で600PSに抑えられるものの、公道仕様ではフロントとリヤにモーターを加えたハイブリッド4WDとなり、そのシステム出力は1200PSを超えるというから驚きだ。

V8エンジンを搭載したFIA GT3と公道仕様のマシンを同時に開発中…と聞けば、トヨタガズーレーシングのGR GTとGR GT3が頭に浮かぶが、駆動方式には大きな違いがある。GR GT(GT3)は限界領域までの扱いやすさを考慮してFRレイアウトを採用したが、長城汽車版はミッドシップ・レイアウトを採る。これが「GF」アーキテクチャーの技術ハイライトのふたつめで、その狙いを長城汽車は「純粋に走行性能を追求したため」と説明する。

「GF」を真横から見る。写真右が車両前方となる。

ミッドシップはエンジン重心を車体中央に寄せることで慣性モーメントの低減が図れるほか、フロントフードの高さを抑えることで空力性能を向上させられるメリットもある。全高はGT3仕様で1.2m以下に抑えることを目標としているという。

「GF」アーキテクチャーのもうひとつの注目技術が、5年の歳月をかけて開発したというCFRP(カーボンファイバー)モノコックだ。これもGR GT(GT3)ではオールアルミ骨格なのとは対照的。重量は130kg未満(アルミ構造比で約40%軽量)、ねじり剛性は4万Nm/degを謳うが、この剛性値はランボルギーニ・レヴエルトに匹敵するものである。

その製造も、専用の自社工場で行なわれる。3400枚の炭素繊維シートを、20名のエンジニアが48時間連続して手作業で積層するというから、並大抵の手間ではない。

「カーボンファイバー製モノコック」と謳って展示されていたのがこちらのフロア部分。バルクヘッドやキャビン上部は別体構造になっているようだ。PHEVでは中央の凸部にバッテリーが収まるのだろうか。

長城汽車がGT3にこだわる理由は、技術のアピールだけではない。中国製のレーシングマシンと中国人のドライバーとでトップカテゴリーに参戦する。「全華班(オールチャイナ・チーム)」でモータースポーツに挑むことで、世界第1位の自動車生産数を誇る中国を「規模大国」から「文化強国」へと成長させるのがその狙いだ。

長城汽車はSF90をベンチマークだと公言するが、ブースに飾られていたデザインスケッチを見ると、そのスタイリングもなかなか魅力的。空力テスト用の風洞実験施設まで自前で建設したというから、その力の入れ具合は相当なものだ。来年の上海モーターショーでGT3車両がデビューする計画とのことなので、実車を目にするのが今から楽しみである。

ブースの壁に飾られていたデザインスケッチ。
こちらのデザインスケッチは別案のようだ。
GT3マシンのイメージ図と思われる。いかにもミッドシップ・スーパーカーらしいフォルムだ。

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