歩行者保護の厳格化とコストの問題で姿を消した

スポーツカー
リトラクタブルヘッドライトは昔はスタイリッシュな装備で人気を集めていた。

昔の車に採用されていたにも関わらず消えた装備は少なくないが、スポーツカーなどを中心に人気を集めた格納式のリトラクタブルヘッドライトもそのうちのひとつだ。

リトラクタブルヘッドライトは当時多くのドライバーの憧れを集めたスタイリッシュな装備で、かつてはトヨタ「スプリンタートレノ(AE86型)」やマツダの「RX-7」といった人気車種にも採用され、広く普及していた。

にもかかわらず、いったいなぜ現代の新車市場から姿を消してしまったのだろうか。

交通事故
歩行者やクルマとの衝突によって、前方に飛び出たヘッドライトは危険視された。

そもそもリトラクタブルヘッドライトとは、消灯時にライトを車体内に格納し、点灯時に展開して前方を照らす構造のことである。

フロント部分を低く滑らかにデザインできるため、空気抵抗を減らす目的などで多くの車種に広く採用されており、とくに低いボンネットフードを実現することがスポーツカーのデザインにおいて不可欠だった時代には重宝されていた。

しかし、歩行者と衝突した際の安全基準が国内外で厳格化するにつれて、この構造に対する風向きが大きく変わることになる。

対歩行者の安全を最優先とする保安基準が定められたことで、万が一の衝突時にライトを展開したままだと、前方に飛び出す角張った部品が歩行者に大きなダメージを与えるとして危険視されるようになったのだ。

クルマの整備
車体の体重の増加や部品数の増加によってコスト面などでもデメリットが目立った。

また、ライトを開閉するための専用モーターや配線など、可動部品が増えることによる車体重量の増加も課題となったほか、部品点数が増えることで製造や維持にかかるコスト面での不利な点も重なり、片側だけが開かなくなる経年劣化による不具合のリスクも避けられなかった。

こうした安全面での懸念やコスト、信頼性の問題が浮き彫りになり、メーカーも採用を見送るようになったため徐々に姿を消していったとされる。

技術の進歩で固定式ライトでもデザインと空力性能の両立が可能に

技術の進歩によってヘッドライトの小型化が進んだ。

さらに、自動車の設計技術やヘッドライト自体の性能が進歩したことも、格納式ライトが衰退する要因となったと言われている。

かつては十分な光量を確保するために、大きな電球や大型の反射板を配置する物理的なスペースが必要だったが、その後のプロジェクタータイプやLEDの普及によって、ヘッドライトユニット自体の小型化や薄型化が進んだ。

これにより、わざわざライトを車体内に格納しなくても、固定式ライトのままで十分に低いフロントマスクをデザインできるようになり、スタイリングと優れた空力性能を両立することが可能になったのだ。

空気抵抗を減らしてフロントの車高を低く保つという本来の目的は、固定式の薄型ヘッドライトをボディの造形にうまく組み込むことで容易に達成できるようになったのである。

そのため、重量が増加し不具合のリスクや製造コストもかさむ格納式の複雑な構造を、あえて採用する合理的な理由が失われていった。

リトラクタブルヘッドライトを採用するクルマはほとんどないが、それでも旧車ファンの間では今でも人気がある。

こうしてリトラクタブルヘッドライトは、固定式ライトの技術向上と安全性を重視する時代の流れとともに、その役割を終えたとされる。

現在でも旧車ファンの間ではその独特な動作やたたずまいが根強い人気を集めているが、自動車の進化と安全基準の歴史を物語る、象徴的な装備といえるだろう。