
カバー類をまとわず、フレームやシート下スペースまで見せ場にしたズーマー。スクーターなのにネイキッドスタイルは、登場から20年以上経った今見ても新鮮だ。
余白を感じさせてくれる素材としての魅力
ズーマーが登場した時、多くの人が「カッコいい」と思ったはずだ。丸目2灯のデュアルヘッドライト、むき出しのフレーム、前後の極太タイヤ。いわゆるメットインスクーター全盛の時代に、ここまで思い切ったスタイルで出てきたのだからインパクトは大きかった。スクーターといえばカウルで覆われていて、シート下にはヘルメットが入る。そんな常識に対して、ズーマーは真逆の方向へ振ってきた。
もちろん、便利さだけで見れば割り切りは多い。どこにも普通のメットインスペースはないし、コンビニフックのような気軽な実用装備もない。けれど、その不便さを単なる欠点にしなかったのがズーマーのすごいところ。シート下の空間にはスケートボードやスポーツバッグを積むことができ、多少はみ出してもOK? 荷物を隠すのではなく、ライフスタイルごと見せるような使い方を提案していた。
もちろん、メッシュバスケットや純正オプションパーツ、社外製パーツも数多く用意され、乗る人が自分のスタイルに合わせて作り込める余白も大きかった。使い勝手よりスタイル優先。そう言ってしまうと乱暴だけど、ズーマーはそこがよかった。普通の便利スクーターではワクワクしない人に向けて、最初から“遊び道具”として生まれてきたのだから。

ノーマルでも十分にイカしているのがズーマーの強さ。130幅の極太タイヤ、デュアルヘッドライト、むき出しフレームの組み合わせで、普通の50ccスクーターとはまったく違う存在感を放っていた。
Nプロジェクトが生んだ “初のスクーターモデル”
ズーマーは、ホンダの若手開発集団「Nプロジェクト※」から生まれたモデルでもある。Nプロジェクトとは、若者のライフスタイルに合う魅力的な製品を開発するために結成されたチームで、エイプに続く第2弾としてズーマーを送り出した。ホンダ公式でも、ズーマーは「新たなスクーターカテゴリーを創造するモデル」として紹介されている。
その狙いは、車体を見ればすぐ分かる。ネイキッド、つまりカバーのないスタイル。クレアスクーピーのモジュールアルミフレームを一部に採用しながら、リヤ側にはスチール製パイプフレームを組み合わせ、フレームそのものをデザインの主役にしている。普通なら隠すものを、あえて見せる。カウルを脱いだら超クール。まさにそんなスクーターだった。
エンジンは、クレアスクーピーやDioにも採用されていた水冷4ストローク50ccエンジンをベースに、吸排気系や駆動系をリファインしたもの。最高出力は4.9ps/8000rpm。数字だけを見れば速いモデルではないけれど、ズーマーの魅力はそこだけではない。ゆったりしたシート、極太タイヤ、見た目のインパクト、そして“これに乗ってどこへ行こう?”と思わせる空気感。移動手段というより、自分のスタイルを見せる道具だったのだ。
※ 「Nプロジェクト」とは、若者のライフスタイルに合う魅力的な製品を開発するNEWプロジェクトの略で、若い研究者で構成された開発チーム。

シート下はヘルメット収納ではなく、スケートボードやスポーツバッグなどを積めるフリースペースとして設計。荷物を隠すのではなく、ライフスタイルごと見せるような発想がズーマーらしい。
大きな荷物を想定して「シート下」をデザイン

街ゆく若者の大きな荷物を見て、どうしてもスマートに収納させたくなった開発者。そこからラフスケッチ段階で、積載を考えたデザインにしたという。試作車の段階からスケボーを積載するなど、ライフスタイルのショーウィンドウ的な狙いがあった。※開発スケッチ

カタログの中でも、溢れんばかりのバックをズーマーのシート下に積んでいる写真が使われている。これも、開発者の意向が反映していたかもしれない。
ノーマルでもイカしてる! だからカスタムも映えた
ズーマーは、ノーマルの時点でかなり完成度が高かった。低めのシートで足つきもよく、ストリートファッションが好きな女性にも人気があった。かわいいだけでも、便利なだけでもない。ちょっと無骨で、ちょっとユルくて、でもちゃんとオシャレ。そんな独特のバランスがあった。
そして、カスタムベースとしての魅力も大きかった。カウルの両サイドにステッカーを貼るようなカンタンなチューンから、ビレット系パーツを使ったギラギラした仕上げ、メッシュバスケットの追加、ローダウン用のシートフレーム、さらにはハーネスやケーブル類をフレーム裏へ隠す“ワイヤータック”的な上級カスタムまで、遊び方はとにかく幅広かった。
フレームがむき出しだからこそ、手を入れた部分が見える。普通のスクーターなら内側に隠れるようなところまで、ズーマーではカスタムの見せ場になる。ハーレーのように、最初からカスタム前提に見えるシンプルな構成。そこにオーナーの好みを足していけるから、ズーマーは日本のストリートカスタムシーンに強く刺さったのだ。
日本発のズーマーカスタムは海外にも広がった
筆者Sとしても、ズーマーのカスタム文化にはかなり思い入れがある。ハワイ取材へ行った際、JDMスタイルが海外でリスペクトされている空気を肌で感じた。ズーマーは、ただ国内で人気だっただけではない。北米でも販売され(北米名:RUCKUSラックアス)、日本のカスタムショップが作り上げたスタイルが、海外のユーザーやショップにも影響を与えていたのだ。
ロング&ローでワイド、国内ブランドのパーツを取り入れ、ビッグスクーターカスタムのエッセンスも感じさせるJDMスタイル。対して、北米仕様のパーツを取り入れながら、よりシンプルに見せるUSDMスタイル。どちらもベースにあるのは、ズーマーという車体の“余白”だ。フレームを見せ、シート下を見せ、足周りを見せる。だからこそ、文化として広がった。
もちろん、ズーマーは万人向けの便利スクーターではなかった。シート下収納トランクもないし、実用装備もかなり割り切っている。それでも、乗る前からワクワクする50ccスクーターはそう多くない。便利なだけなら、ほかにも選択肢はある。けれど、ズーマーは原付スクーターを“移動の道具”から“自分を表現する道具”へ変えた。そこに、エポックメイクな1台としての価値がある。

ロー&ロングで、さらにワイドでド派手な印象のJDMスタイル。国内ブランドのパーツを使用して、ビッグスクーターカスタムのエッセンスも感じられる。アンダーカウルの装着もJDMらしいところだ。

北米で流行していたUSDMスタイル。ロー&ロングスタイルは同じだが、JDMよりシンプルな印象。北米仕様のパーツを取り入れているのも特徴。引き算でメイクするクリーンな魅せ方が特徴だ。
エンジンスワップまで受け止めた、クセの強い人気者
ズーマーのカスタムが濃くなっていった理由のひとつに、エンジン周りの事情もある。純正エンジンはクランクケースとシリンダーが一体構造のため、ボアアップで排気量を上げるには不向きだった。そうなると、もっとパワーを求める人はエンジン載せ替えへ向かう。シグナスX系のエンジンに積み替えたり、海外ではGY6系エンジンへスワップしたりする例も多かった。
普通なら「そこまでやる?」と思うところだが、ズーマーだと不思議と納得してしまう。もともと車体がカスタム前提のような構成で、フレームもシート下もむき出し。そこにエンジンスワップ文化が乗っかっていったことで、ズーマーはさらにクセの強い存在になっていった。
ズーマーが好評だったことで、後にBiteも登場した。好き嫌いが分かれるデザインではあるけれど、あの“チョンと座る”自転車のようなシートを含めて、Nプロジェクトらしい実験精神は感じられる。Ape、Zoomer、Bite、Soloと続いた流れは、2000年代前半のホンダが若者に向けて本気で遊んでいた証拠でもある。
10年以上売れ続けたロングセラー、その理由はスタイルにあった
ズーマーは2001年に登場し、その後も長く販売が続いたロングセラーモデルだ。2007年には電子制御燃料噴射装置のPGM-FIや触媒装置を採用して環境性能を高め、2011年には発売10周年を記念した「ZOOMER 10th Anniversary」も登場している。車体色とフレームをホワイトでそろえ、シリーズ初のレッドシートを採用したこのモデルも、ズーマーらしい個性を強調した仕様だった。
つまりズーマーは、一発ネタの変わり種では終わらなかった。むしろ、そのクセの強さが長く支持された。便利さだけを追うなら、もっと分かりやすいスクーターがある。速さだけなら、ほかにも選択肢はある。でも、ノーマルでここまでイカしていて、カスタムすればさらに化ける。そんなスクーターはなかなかない。
カウルを脱いだら超クール。ズーマーはその言葉がよく似合う。普通のスクーターなら隠すところを見せ、便利さよりスタイルを優先し、若者のファッションやカスタム文化まで巻き込んでいった。ワクワクしないわけがない。ホンダ・ズーマーは、ストリートシーンを変えた裸のスクーターだった。

2011年には発売10周年を記念した特別仕様も登場。ホワイトの車体とフレームに、赤いシートを組み合わせたカラーリングで、どことなく日本をイメージしたカラーリングだ。
SPECIFICATIONS|HONDA ZOOMER(2001)
全長×全幅×全高:1860×735×1025mm
ホイールベース:1265mm
シート高:735mm
車両重量:84kg
エンジン:水冷4ストロークOHC単気筒
総排気量:49cc
最高出力:4.9ps/8000rpm
最大トルク:0.46kgm/7000rpm
燃料タンク容量:5.0L
燃費:75.0km/L(30km/h定地走行テスト値)
タイヤ(前・後):120/90-10・130/90-10
ブレーキ(前・後):ドラム・ドラム
車両価格:18万9000円
※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】

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