高圧洗浄機や投光器、ジャイロキャノピー e:で、モバイルパワーパックを共用・運用

東京・大手町で建設が進む「Torch Tower」。延べ床面積約55万m²、現場で働く作業員は数千人規模に及ぶ。2028年に完成すれば地上62階、高さ約385mという日本で一番高い摩天楼となる。

東京駅近くの常盤橋地区で建設中のTorch Tower。2028年完成に向けて、建設が進められている。

この建設現場でホンダが東京都、建設機械レンタルのカナモトとともに取り組むのが、「Honda Mobile Power Pack e:(以下、モバイルパワーパック)」を活用した交換式バッテリー共用化の実証事業だ。東京都の「令和8年度規格型バッテリー活用機械導入促進事業」として2026年8月20日に実証を開始した。検証期間は2027年3月まで。三菱地所が実証場所を提供し、三菱地所設計が工事監理、清水建設が施工を担当する。

手に持っているのがモバイルパワーパック。「持ち運び可能」「高い安全性」「マネジメントユニット搭載によるデータの活用」といった特徴がある。1個の価格は10万8900円。

モバイルパワーパックは、容量1314Wh、質量約10kg。ホンダの井上美智代氏(二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 事業企画部 電動商品企画課長)は、「モバイルパワーパックは、EVバイクだけでなく、さまざまな電動機器に利用できます。屋内外の作業においても、複数の機器で共通して使用できることが特徴です」と説明した。

ホンダの井上美智代氏(二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 事業企画部 電動商品企画課長)

今回の実証に投入するモバイルパワーパックは74個。合計すると約97kWhの電力量になる。充電・交換用として、Gachacoの4個用小型バッテリー交換機を7台、日東工業の9個用小型バッテリー交換機も2台設置する。

さらに電動二輪車「ジャイロキャノピー e:」を2台、着脱バッテリー式ポータブル電源「Honda Power Pod e:」を4台用意。そのほか、DONKEYの自走式台車「CP200」、CuboRexの自走式台車「CuGoMEGA M2 MPP」、スーパー工業の高圧洗浄機「SLR-2006MPP」、ライトボーイの投光機「LB20LM-H」、デンヨーの投光機「PL-241SLB」、日星工業の投光器「LEDフィールドライトF1」、和光機械工業の投光器「WL601SLBAS-3」といった機器がモバイルパワーパックで運用されることとなる。

実証事業の概要を説明したカナモトの斉藤朝子氏(特需営業部 課長代理)によれば、現場ではこのほかポンプ、バキュームクリーナー、電動工具、保冷・保温機器などにも活用するという。投光器については「軽量なライト型やバルーン型など、4種類を比較します。それぞれの作業にどのタイプが適しているかを検証します」とのことだ。

カナモトの斉藤朝子氏(特需営業部 課長代理)
ジャイロキャノピー e:の荷台部分にモバイルパワーパックとポータブル冷温蔵庫を搭載。夏は冷たい飲料や保冷剤、冬は温かい飲料を提供するための機器としての活用も想定されている。

今回の実証で注目なのは、機器ごとに専用のバッテリーを持たせるのではなく、同じバッテリーを異なる機器で使い回す点にある。

建設業界では、メーカーや機器によってバッテリーや充電器の規格が異なるため、機器が増えるほど管理するバッテリーや充電器も増えていく。ホンダは、共通仕様の交換式バッテリーを複数の機器で使えるようにすることで、この負担を減らせると考えている。

また、検証の対象には、充電と交換に加えて「持ち回り」が挙げられている。例えば、投光機で使ったバッテリーを取り外して充電済みのものと交換し、外したバッテリーは交換機へ戻して充電したうえで次に必要な機器へ回す。こうしたサイクルが実際の建設現場で成立するかを確かめるのが狙いだ。

東京都も、2035年までに都内で新車販売される二輪車を100%非ガソリン化する目標を掲げ、EVバイクの導入を支援している。東京都の産業労働局長・吉村恵一氏は、今回使うのが異なるメーカーの機器でも使用できる共通仕様の交換式バッテリーであるとしたうえで、「本事業は、建設現場において、EVバイクと電動機械で同じバッテリーを共用する国内初の取り組みとなります」と述べた。

東京都の産業労働局長・吉村恵一氏

「単なる実証にとどまらず、実際の現場で実装していくことを目指しています。さまざまな現場における交換式バッテリーの活用を広げることで、バッテリーシェアリングサービスの拡大や、それに対応したEVバイクのラインアップ充実につなげていきたい」(吉村氏)

建設現場で使えば、電源ケーブルも減らせる

実証事業のキックオフイベントは、Torch Tower内でタワークレーンや建設機械、作業員、仕上げ工事などの情報を一元管理する統合管理室「Smart Control Center」で行われた。その場所へ移動する際、現場の脇を歩いたのだが、建設機械が出す騒音はかなりのもの。電動化が進めば、作業環境の改善にも大きく貢献することだろう。

実証の場に建設現場が選ばれた背景には、電動化にともなう別の課題もある。

建設機械の電動化が進んでも、電源ケーブルが必要な機器は残る。清水建設の仲林清文氏(常盤橋プロジェクト副総支配人)は、「現場内に配線を敷設することは手間がかかり、生産性を低下させる要因になります。また、配線が現場内の足元や上空に広がることで、安全面のリスクにもなります」と課題を挙げる。

清水建設の仲林清文氏(常盤橋プロジェクト副総支配人)

「仮設照明や送風機などの機械も、バッテリー式のものはまだ少なく、現場では電源ケーブルを接続して使用するケースが多くあります。今回の交換式バッテリーは、そのまま電源として使用できるため、大いに期待しています」(仲林氏)

実証場所を提供する三菱地所の宮ノ内大資氏(TOKYO TORCH事業部 開発1ユニット ユニットリーダー)は、「交換式バッテリーを活用することで、エネルギーの安定供給や作業環境の改善につなげられるものと期待しています」と語った

三菱地所の宮ノ内大資氏(TOKYO TORCH事業部 開発1ユニット ユニットリーダー)

今回の実証では、バッテリーの使用状況や消費電力も記録する。斉藤氏は「実際の運用における消費電力や使用頻度を可視化し、必要なバッテリー台数やCO₂削減効果を定量的に算出します」と説明した。発電機や電源ケーブルを使った場合の騒音や、設置・移動の手間との違いも比較する。

ホンダは2050年に、すべての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラルの実現を目指している。ホンダの一瀬新氏(執行職 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部長)は、「その実現に向けて、製品そのものの電動化に加え、エネルギーをより便利に利用できる仕組みづくりが重要だと考えています。一つのバッテリーを複数の機器で共有することで、工場や建設現場をはじめとする各種設備の電動化促進にもつながり、持続可能な社会の実現に貢献できると考えています」と述べた。

ホンダの一瀬新氏(執行職 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部長)

今回の実証事業で導入される電動機器は、現場で使用される機器のごく一部にとどまる。コストの観点から考えても、建設機械のすべてを電動化することはまだまだ現実的ではない。しかし、社会貢献や作業環境の改善という観点から、電動化を進めることには大きな意義がある。

また、想定している用途も建設現場に限らない。斉藤氏は「Torch Towerを起点に、東京発のモデルを構築します。EVバイクと電動機械を組み合わせた運用モデルを確立し、建設現場だけでなく、農業、屋外イベント、災害時の避難所など、さまざまな場所への展開を目指します」と説明した。

一瀬氏は今回の取り組みについて、「単なる製品の実証ではありません。交換式バッテリーを活用した新たなエネルギー利用の仕組みを社会に実装していくための重要な一歩だと考えています」と位置づけた。現場で働く人の声を聞いて課題を抽出し、得られた知見を今後の製品やサービスの進化につなげるとしている。