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McLaren Solus GT
F1マシンと変わらないドライビング体験
マクラーレン ソーラス GTは、米国・カリフォルニアで開催中のモントレー・カーウィークにおいて、マクラーレン・オートモーティブのミハエル・ライタースCEOがによってアンベールされた。
ソーラス GTの車重は1000kg以下、1200kg超のダウンフォースを発生するエアロダイナミクス性能を誇り、5.2リッターV型10気筒自然吸気エンジンをリヤミッドに搭載する。シングルシーターのレーシングカーを除けば、すべてのマクラーレン・モデルよりも速いラップタイムをたたき出すパフォーマンスを備え、そのドライビングエクスペリエンスは、F1マシンのドライブと変わらない一体感が得られるという。
マクラーレン・オートモーティブのライタースCEOは、ゲームの世界から飛び出したソーラス GTについて次のように説明する。
「マクラーレン ソーラス GTは、バーチャルレース『グランツーリスモ SPORT』ために作られたマクラーレンのコンセプトカーを現実化したマシンです。一般道の制約やレースのレギュレーションから完全に解き放たれ、マクラーレンのあらゆる専門性をフルに駆使したことで、現実のクルマとなったのです。まさにマクラーレンのフロンティアスピリットを象徴する1台です」
徹底的に追求されたエアロダイナミクス
ゲームの世界から飛び出した強烈なエクステリアデザインは、インスピレーションとなった「グランツーリスモ SPORT」のバーチャルカーを驚くほど忠実に再現した。
そのベースには、これまでマクラーレンが実戦の世界で積み上げてきたエアロダイナミクス理論と、「すべてのものに理由がある」というマクラーレンのデザイン理念がある。さらに空力性能を磨き上げるため、CFD(数値流体力学)と風洞を駆使した、エアロダイナミクス研究・開発も行われたという。
エクステリアの特徴的な要素は数多くあるが、特に目を引くのはセンター配置のシングルシートを覆うスライド式キャノピーだろう。タイヤは空力的な形状のポッドで覆われ、サスペンションアームの先に配置。巨大なフロントスプリッターから取り込まれたフレッシュエアは、グラウンドエフェクトトンネルを通過して、フルワイドのディフューザーから排出される。
レーシングカーのようにインテークはコクピット上に配置し、ロールフープ・カバーと一体化。冷却用フレッシュエアをエンジンへと供給すると共に、自然吸気エンジンならではの魅力的な吸気音も発する。サイドポッドにラジエーターを内蔵したのもレーシングカーからのインスピレーションとなっている。
マシンの総重量をも超えるダウンフォース量の鍵となったのが、ツインエレメントの固定式リヤウィング。ダウンフォースとドラッグの比率も最適化され、ストレートでのパフォーマンスが押し上げられると共に、コーナリング性能も高められている。
ドライバー専用に特注製作されるシングルシート
ソーラス GTの特別なドライビングエクスペリエンスは、エンジンを始動する前からスタートする。特徴的なコクピットキャノピーは、浅い弧を描いて前方へとスライドし、現れた開口部からシートへと乗り込む。一般的な自動車用ドアはもちろん、他のマクラーレンモデルを象徴するディヘドラルドアとも異なり、まるでジェット戦闘機へと搭乗するようだ。
さらに特別感を高めるのが、ドライバーとパフォーマンスだけにフォーカスしたインテリアと、その中央を占めるシングルシートだろう。シートポジションは固定式となり、ソーラス GTの25名のオーナーはモータースポーツでおなじみの「シートフィッティング(シート合わせ)」の機会が提供される。ペダルボックスの位置を調整できる点もレーシングカーと同じだが、座った状態で操作できる便利なリモートコントロールシステムを備えている。
ステアリングホイールは、マクラーレンの生産モデルの中でも独特なデザインを採用した。F1からインスピレーションを得ており、狭いシングルシーターのサーキット専用モデルに合わせて、ディスプレイと基本的な操作系をステアリングに一体化。ステアリングの先にはガラスの「バブル」が覆い、ヘイロー型コクピット保護装置が組み込まれた。
ステアリング前方に設置されたリヤビューディスプレイには、ロールフープ内の広角カメラからの映像が流れる。ドライビングポジションがセンターとなるため、180度を見渡せる完全に左右対称の視界を得ることができる。これに加えて、ドラマチックなスタイルのホイールポッドも、コース上でのライン取りを助けるという。
ドライビングシートは個々の体型に合わせて型取りするほか、FIA認可のレーシングスーツ、ヘルメット、HANSが各オーナーに合わせて特注され、無線通信が可能なイヤーピースも含まれる。また、完全なドライバー育成指導プログラムも提供される。新しいサーキット専用ハイパーカーをオーナーがフルに活用できるよう、マクラーレンは万全のサポートが用意された。
最高出力840psを発揮する自然吸気V10ユニット
ソーラス GTは、専用開発されたモータースポーツ由来の5.2リッターV型10気筒自然吸気エンジンを搭載。少数生産の削り出しコンポーネントを使用するため、最高回転数は1万rpmを超え、究極のパフォーマンスとスリリングな一体感を実現した。エンジンのレスポンスを強化するため、サーキット走行以外には不向きな各気筒独立のバレル式スロットルを採用。また、完全なギヤ駆動のため、カムシャフトや補機類を駆動するチェーンもベルトも存在しない。
最高出力840ps、最大トルク650Nmを発揮。このスペックに加えて構造的特性も、このエンジンが選ばれた理由だ。マクラーレンのプロダクションモデルとしては初めて、エンジンがシャシーの一部を構成。これはレーシングカーとしては一般的な手法であり、カーボンファイバー製モノコックの後方に追加のシャシーストラクチャーやサブフレームが不要になるため、大幅な軽量化が可能になった。
ギヤボックスもレース由来の7速シーケンシャルを採用。鋳造部とケースが組み合わされた専用設計となり、ケースはアルミニウムとマグネシウム製パネルで構成される。これをエンジン後方に搭載し、リヤサスペンションはギヤボックスケースに取り付けられる。
その内部はストレートカットギヤで、これをカーボンファイバー製多板クラッチでエンゲージ。これはアグレッシブなシフトが要求されるサーキット走行に理想的な仕様だという。ソフトウェアが制御する完全自動のシステムのため、ドライバーのクラッチ操作は不要。これは、ピットレーンから発進する際に非常に有効な仕様となっている。
3Dプリントで製作されたチタン製パーツ
ソーラス GTは、カーボンファイバー製モノコックをベースに開発。開発・製造は、少数生産の専門的な手法が採り入れられた。そのひとつが、事前にカーボンに樹脂を含浸させる「プリプレグ」工程だ。これにより構造的強度が高まり、素材の均一性が確保された。前後のシャシーストラクチャーもカーボンファイバー製で、レーシングカーと同様にエンジンとギヤボックスが残りのシャシーを構成する。
今回導入された付加価値の高いマテリアルは、カーボンファイバーだけではない。トップクラスのモータースポーツから採用したテクノロジーとして、3Dプリントによるチタン製コンポーネントが導入された。チタン製コンポーネントは、ヘイロー型コクピット保護ストラクチャーとロールフープに採用。マクラーレンのプロダクションモデルで3Dプリント成形のチタンを構造材に採用したのは今回が初。思いどおりのデザインを可能にし、軽量化にもつながった。
サスペンションはダブルウイッシュボーン式。インボード式トーションバーダンピングを、フロントはプッシュロッド式、リヤはプルロッド式で作動する。前後アクスルともアンチロールバーが左右をつなぎ、ドライバーによる調整も可能。耐久性を高めるためにスチール製となっているが、フロントのサスペンションリンクを空力的な形状のカーボンファイバー製シュラウドで覆う、F1と同様の手法が採用された。
特徴的なホイールポッドの内部は、18インチ鍛造アルミニウム製ホイールをセンターロック式ナットで固定。タイヤはル・マン24時間レース用プロトタイプで、スリックとウェットの両コンパウンドが用意された。ブレーキは6ピストン・モノブロックのアルミニウム削り出しキャリパーとカーボン製ブレーキディスク/パッド。前後のブレーキバイアスは、ドライバーがコクピットから調整することができる。
サーキットでのテストプログラムを開始
0-100km/h加速の目標タイムは2.5秒、最高速は200mph(約320km/h)。この動力性能に、軽量な車重と強力なエアロダイナミクス性能が上乗せされ、究極のサーキットマシンと呼ぶにふさわしいコーナーリングパフォーマンスが実現した。
マクラーレンのビスポーク部門「マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ(MSO)」が提供する、究極のクラフトマンシップも用意された。MSOによるビスポーク過程を経ることで、すべてのソーラス GTは唯一無二の存在となる。開発プログラムの進捗状況もオーナーに対して定期的にアップデートされ、プロトタイプのテスト走行に参加し、製造前にドライビング特性やセッティングの決定に参加する機会も用意されているという。
デリバリー後は、ソーラス GTのサーキットイベントも計画。オーナーのサーキット活動をサポートするため、すべてのマシンはフライトケースと共にデリバリーされる。この中には様々なツール、ジャッキ、スタンド、無線装備一式、クーラントプリヒーターが含まれている。
すでにソーラス GTの開発は、現在サーキットにおけるテスト走行を行う段階へと進んでいる。既にソールドアウトしている限定25台のカスタマーカーは、2023年からデリバリーがスタートする予定だ。